117:憎悪の終焉
地上に降りて鎧を解除するとバグラスの落ちた場所へ向かう、そこには魔人から徐々に人間の姿へと戻っていく虫の息となったバグラスとあの槍が傍に突き立っていた。
「ぐ…うぅ…」
…魔人と化した影響なのかバグラスはまだ生きている、あの剣を手にして傍に行くとバグラスの槍を破壊した。
(やっぱりか…)
破壊した槍の破片の中に砕けた水晶が混じっている、どこまで影響していたのかは分からないがバグラスもフィフスによって操られていたのだろう。
バグラスの傍に立つと光を失いかけた目で俺を見上げる、俺が手にした剣を目にすると最後の力を振り絞る様に口を動かした。
「何故…お前が、グラントの剣を…」
「…カオスクルセイダーは無念を抱いて死んだ者達の魂で構成されている、この剣はその魂のひとつに形を与えたものだ」
「馬鹿な…複数の意志がそのまま宿るレアドロップなど…ある筈が…」
「…“騎士とは抗う力を持てなかった者を理不尽から守り、力ある者が道を外そうとしたならば正す者の事だ”」
「っ!?」
「この剣の持ち主は間違いを正せなかった事と人々を守れなかった事…それが抱いていた無念だ」
「…は、死して抱くのがそれか…そんな羨ましいくらい真っ直ぐな無念は奴しか持てんな」
バグラスはそう呟きながら微笑むがすぐに笑みを消す、その表情からは憎悪はもはや感じなかった。
「あの時、死んでいれば良かった…あの時フィフスと出会わず死んでいれば…奴の駒となって厄災になど成らずに済んだのに…」
「…」
「分かっていた…グラント達は、復讐など望まない…何を言おうと俺がフィフスに付いたのは俺の憎しみを晴らす為だ」
バグラスは自らの罪を自白する様に話す、その姿は灯りを見失った迷い人の様だった。
「だが…他にどうすれば良かった?一人無様に生き延びて…信じていたものに裏切られ…大切なものを踏みにじられ…何者でもなくなった俺はこの憎悪を抱いたまま誰にも知られず死ねば良かったのか?」
「…」
「出来るものか…忘れ去られるくらいなら…魔に堕ちてでも…グラント達の犠牲をなかった事になど…」
「…やっぱりアンタの目的は」
俺が言おうとした言葉を呑み込む、それは軽々しく聞いて良いものではないと感じた。
「…」
無言で剣をバグラスに突きつける、バグラスは既に意を決しているのか抗う事なく目を閉じた。
「…お前は多くの無関係な人達を巻き込んだ、幸福な未来を踏みにじった」
「…ああ」
「だから止めた…ここからは騎士としての言葉じゃない」
「…?」
「…どんな道を歩もうと君は俺の親友だ、バグラス」
バグラスは目を開いて俺を見る、そして一瞬の沈黙の後に涙を流して目を閉じた。
「ありがとう…さらばだ我が親友よ…」
剣を心臓へと突き刺す、それは命の灯を消し去る一撃であり苦しみを終わらせる慈悲の一撃でもあった…。