114:帰還する漆黒(アリア、ラクルside)
「焔装…くっ!?」
しなり迫る槍の穂先を弾きながら距離を取って展開しようとするがそこを狙いすましたかの様に虫の卵や爆発する虫が飛来する。
「展開はさせんぞ」
「…男なら女が準備するのくらい待ちなさいよ」
更に魔物達も未だに勢いと数が減らない、どうやら街にいたものまで呼び寄せている様だった。
セレナにはベルクが助けた子を守ってもらっている、戦況は膠着状態となっているがこのままでは物量で押し負けるのは明白だった。
「諦めろ、貴様等の頼みの綱はもうない」
「…諦める?それこそあり得ないわ」
「何?」
「ベルクならこの程度で諦めたりしないわ、何より…」
周囲の魔物を斬り払いながら怪訝な顔を浮かべるバグラスに言い放った。
「ベルクは必ず戻ってくる、なら私達はそれまでやれる事をやるだけよ」
―――――
(ラクルside)
「うおおおおおおお!」
影を纏ったフィフスへ真一文字に斬馬刀を振るう、フィフスはまるで影の上を滑る様に下がって避ける。
「くっ!?」
更に足下から影が噴き出して絡みついてくる、力任せに引き剥がした直後にフィフスの影を纏った杖が兜越しに顔を打った。
「展開まで至ったのは見事ですが、経験が足りてませんねぇ!」
咄嗟に重さを増して耐えるが両脇から現れたシャドウストーカーが腕を掴む、するとフィフスは刃に複雑な紋様が彫られたナイフを鎧に突き立てた。
「っ!?」
ナイフの紋様が輝いた瞬間に重さが元に戻る、フィフスは巨大な影の腕で俺を掴むと館の壁に投げ飛ばした。
衝撃で壁にめり込むがすぐに出ようと動く、だがフィフスに杖を叩きつけられながら再び押し込まれて壁をぶち抜いて向かいの壁へと叩きつけられる。
能力を発動する暇もなく再び影の腕に掴まれて床や壁へと何度も叩きつけられる、そして中庭に投げられ地面を転がりながら倒れると鎧が解除されてしまった。
「ぐあっ!?」
「展開はその強大さ故に消耗も激しい、よほどの化物でもない限りは長時間発動し続けるなど出来ませんよ」
フィフスは斬馬刀を掴む手を踏みつけながら吐き捨てる、空いた手で腰に付けていたナイフを抜いて突こうとするが杖で弾かれ、シャドウストーカーで俺を押さえ込むとあの鏡を取り出した。
「折角です、貴方も闇に招待し…」
フィフスが言い掛けるとピシリと罅割れる音が鳴る、音は鏡から鳴っておりピシリピシリと立て続けに鳴り始めた。
そしてガラスが勢い良く割れる音を響かせながら鏡は砕けて闇が噴き出した。
「何…がっ!?」
闇は人の姿になるとフィフスの顔を勢い良く殴りつける、壁際までふき飛んだフィフスの両肩と腹を投擲された黒い剣が貫いた。
漆黒の鎧を纏った者が傍に降り立つ、手にした剣で俺を押さえていたシャドウストーカー達を斬り払うと再びフィフスへと向き直った。
「思い通りにはいかなかったな、フィフス」
ベルクの姿にフィフスは驚愕を浮かべた…。