113:呪い
投稿時間間違えてましたorz
全てが闇に包まれた中で何かが聞こえてくる、もうあの言葉すら聞こえなくなってきた筈なのに…。
…セルク
誰の声か分からない、女の声だとは分かるが聞いた覚えがない…その筈なのに。
…私の
その声は何故かこの闇の中で聞いた声とは違う様に感じて…。
…しい子
そして闇の中に光が灯った…。
―――――
闇の中で灯る様に浮かび上がったのは侯爵家の一室だった、ベッドには俺や兄貴と同じ黒髪の…母さんが居てベッドに寄り掛かる様に小さい頃の兄貴が眠っていた。
母さんは兄貴を起こさない様に優しく撫でる、そして腹へと手を当てた。
(…貴方を産むのに私の身体は耐えられないでしょう)
闇の中で響いてきた声…母さんの声が聞こえてくる、暖かさを感じる優しい声だった。
(…本当は私ももっと生きて貴方達を育てたい、良い事をしたなら誉めてあげて…悪い事をしたなら叱ってあげて…貴方達が大きくなっていくのを見届けてあげたい)
優しく腹を撫でながらも母さんは今にも泣き出してしまいそうな、零れ落ちてしまいそうな笑みを浮かべる。
(でもそれは出来ない、私の身体では貴方を無事に生む前に力尽きてしまうでしょう…だから)
そうして兄貴を見て再び腹を撫で終えると手を合わせて目を閉じた。
(バドルには…色々な祝福がある様にと願ったから貴方には…)
そうして母さんは祈り始めた。
(強く…頑丈な子に生まれて欲しい)
「…え?」
(例え私が死んだとしてもこの子は無事に生まれてこの世界を生きて欲しい…)
それは想像すらしていなかった言葉だった。
(私はこれまでを後悔しないし死ぬ事も怖くない…でも貴方に…セルクに何もしてあげられないまま死にたくはない)
母さんが祈ると体が淡く光る、今にも消えてしまいそうなその光はゆっくりと母さんの腹へと集まっていく。
(だからあげる…生きてるうちに渡せるだけの力を…この先あげたかった愛を…だから)
それは命の輝きだと直感で分かる、手を伸ばすがそれは過去の光景…どれだけ手を伸ばしても届く事はない。
(大丈夫、私は死んでも貴方達の傍で見守っているから…話す事も触れる事もできないけど、ずっと貴方達を守るから…だから、寂しくなんかないわ)
母さんは一筋の涙を拭うとまた笑顔を浮かべる、明らかに顔色が悪くなっていたがそれでも母さんはやりきった笑みを浮かべていた。
(セルク…大丈夫よ)
母さんは腹の中にいる俺に語り掛ける様に呟いた…。
「愛してるわセルク、私のところに来てくれて…本当にありがとう」
その言葉と共に光は俺の中へと戻っていった…。
――――
気がつけば俺は闇の中に立っていた、再び影達が現れるが俺は剣を手に涙を流していた。
…母さんは俺を恨んで呪ったんじゃない、ずっと…ずっと俺を守ってくれていた。
この特殊な体質は母さんが俺に掛けた呪いだった、母さんが命懸けで俺に残してくれた光だった。
「…ありがとな、母さん」
顔を上げて剣を掲げる、此処から出る方法は既に見つけていた。
ただかなり分が悪い賭けになるから躊躇っていたが今なら大丈夫だと確信がある、胸の中に残る暖かさが踏み込む勇気をくれる。
「軍装展開“黒纏う聖軍”」
俺を中心に黒い嵐が巻き起こる、嵐は群がっていた影達を吸い上げていく。
黒い竜巻の様相となったそれは俺へと集まっていく、そしてカオスクルセイダーに吸収された事で影達はひとつ残らずいなくなった。
…カオスクルセイダーも俺が暴走しない様に枷を施していた、俺が闇に呑まれない様にギリギリまで力を抑えてくれていた事が今なら分かる。
だが今やその枷も取り払われた、今の俺には文字通り万の軍勢がついている。
足に力を込めて跳ぶ、そして永劫続いているのかと錯覚しそうな暗闇に剣を突き立てた…。




