111:闇の鏡
(テレジアside)
突然突き飛ばされて顔を上げた時に見たのはセルクがあの商人を刺している光景だった。
「完全に不意を突いたつもりですがねぇ…ですが、私の勝ちです」
その言葉と共にセルクは闇を固めて造られた腕に掴まれて手の平に収まる鏡の中へと吸い込まれた。
「くくくくっ…ははははははっ!想定外の事はありましたが一番厄介な存在は無力化できました!あぁやはり、やはり!畜生共からは奪うに限りますね!」
商人は胸の剣を引き抜きながら笑う、その姿はおぞましい悪魔にしか見えなかった。
商人がこちらへと振り向こうとした瞬間…。
中庭にあった柱の一つが壊される、中庭を覆っていた結界が解かれると同時に商人に向かっ岩の鎧を纏った戦士が斬り掛かった。
商人は戦士の剣を避ける、続け様に斬り上げられた剣を影を纏いながら避けて距離を取った。
「…ベルクをどうした!?」
「招待させて頂いただけですよ?深い闇へとね」
商人は手にした鏡を翳しながら語る、自身の偉業を語るかの如く…。
「この鏡、とある神鏡のレアドロップを参考に造ったものでしてね…鍵を媒介にこの国で集めた人の闇が内包されてあります」
「闇…だと?」
「ええ…数百数千の人間の闇、それはこの鏡の中で凝縮されています」
商人は口の端を歪めながらありったけの悪意を込めて放った。
「どれだけ強かろうと、どれだけ強靭でも方法は幾らでもあるんですよ!凝縮された闇はどんな人間が持つ闇も暴いて呑み込むでしょうねぇ!もはや貴方達がどれだけ手を尽くしても手遅れですよ!
深淵の闇に光は届かない、光がなければどんな人間だろうと闇の呑まれるしか道はない!この国の人間の様にねぇ!」
「貴様は…」
戦士が手にした剣を軋む音が響くほど強く握る、抑え切れない怒りが溢れる様に。
「ガンザさんにベルクまで…どれだけ奪えば気が済むんだ!?」
「どれだけ…ですか」
戦士が叫びながら斬り掛かる、商人は足下の影を纏いながら告げた。
「どこまでも…ですよ」
―――――
(ベルクside)
掴む手を振り払って着地する、立ち上がって周囲を見回すとどこまでも広がる暗闇だった。
「此処は…」
黒い雲の中にいるかの様な暗闇をゆっくりと歩きながら何かないか探っていると…。
周囲に複数の気配が現れる、剣を手にしながら構えるとそのひとつが襲い掛かってきた。
斧を振り上げて襲い掛かってきた巨大な影をすれ違い様に斬り裂く、そのまま振り返って真一文字に剣を振るうと影は瞬く間に霧散した。
「…」
空いた手に手斧を掴んで背後から来た影の頭に叩き込む、力任せに振り回して手斧ごと投げ飛ばして迫っていた影達に叩きつけた。
「ちっ…」
影達が一向に減る気配はない、感じ取れる気配からして数百もの影達に俺は取り囲まれていた…。