109:自戒の檻
戦斧を手にして羽根の雨が放たれる中庭を掻い潜っていく。
脚の間を抜けながら戦斧で足首を斬りつける、表面に斬り傷がつく程度のものですぐさま転がる様に離れると鉤爪のついた脚がさっきまでいた場所を踏みつけていた。
(…硬いな)
大刃槍を手にして構える、降り注ぐ鎖杭を弾きながら走ると魔物の口から鉄片の混じった息吹きを放ってきた。
(塔型大盾じゃ吹き飛ばされる…かといって他のでは…なら!)
手にした大刃槍を地面に突き刺す、そして柄を軸に大盾を展開する事で槍と盾を合わせた杭盾で息吹きを受けた。
凄まじい威力と重さが盾を通じて伝わってくる、身体強化を発動して耐えると杭盾を引き抜いて魔物の顔に投げつける。
「―――ッ!?」
杭盾がぶつかって揺らいだ隙を突いて魔物の脚と肩を蹴り上がって背中に周り込むと首に向けて刺突剣を突き刺した。
…私ハ…。
「…!」
刺突剣を通じて伝わってくる思いに背中にしがみついたままの状況で動きを止める、すると背と翼から杭と羽根が俺に向けて動いた。
「ちっ!」
背を蹴って放たれる杭と羽根を避ける、風を纏って宙を蹴りながら襲ってくる羽根を避けて着地すると剣を両手に持って羽根と杭を弾きながら魔物と化したテレジアを見据える。
(テレジア…)
少しだけ考える、このまま倒してしまうのは不可能じゃない…だが聞こえてきた声と観察した中で見つけた可能性が倒すのを躊躇わせた。
…あの時の俺は向き合う事から逃げた、言いたい事だけ書き残して話し合う事を放棄して逃げた結果がこれだと言うなら俺は向き合わなければ駄目だろう。
「…テレジア、思い出してもお前とはまともに話した事がなかったな」
「―――――――――――――――ッ!!」
「だから話し合うとするか、目を合わせてな…」
手斧と小剣を手に再び走る、息吹きを吐こうとする口に手斧を投げて防ぐと小剣を手にテレジアの身体に登って小剣を叩きつける。
高い金属音が響かせながらテレジアが激しく暴れ回る、振り落とされそうになるが鎖を絡ませて落ちるのを防ぎながら再び小剣をぶつける。
それを何度か繰り返すと鎖を外して離脱する、下級の火魔術を鋼鉄の顔に当てて注意を逸らしながら距離を取ると仮説は確信へと変わった。
「やはりこれは、檻か…」
剣を手にしながらガルマを召還する、ガルマは嘶きを上げると俺の意を汲んで駆け出した。
降り注ぐ羽根と杭の雨をガルマは駆け抜ける、俺はガルマの上で詠唱して剣に魔術を付与していく。
目前まで迫ったところでガルマは跳躍する、俺はガルマの背を蹴って更に上へと跳んで火と雷を纏った剣を振り上げた。
「おおおおおおおおおっ!!」
目の前に迫ったガルマに注意を向けていたテレジアは更に上に跳んだ俺を見上げる様な体勢になる、ガルマの姿は闇へと戻っていき広がった黒煙を突き破りながらテレジアの胸を斬り裂いた。
(良し!)
剣を手放して斬り裂いた箇所を押し広げる、鉄の茨が張り巡らされた様な内部を手甲を纏って無理矢理かきながら手を突っ込んだ。
そして半身潜り込んだ状態で中にあるものを掴んだ…。
「軍装展開!」
中にあるものを引き寄せながら唱える、黒い嵐が俺を中心に巻き起こり中庭に鉄片が散らばった…。