11:レアドロップ
目を覚ますと白い天井が視界に映る、漂う薬品の匂いから治療院だと察してベッドから起き上がると両手に何かを持っている事に気付く。
「…え?」
手には意識を失う前に手にした漆黒の小剣と手斧があった。
意識が朦朧とした事で見た幻じゃなかった事や何故これを手にしたまま眠っていたのかと疑問が浮かべているとドアが開かれ医者らしき者が入ってきた。
「目が覚めた様ですな、丸一日眠っていたのですがお身体に異常は感じられますかな?」
「いや、特に問題はないが…」
「…あぁ、そちらの武器は私達では外す事が出来なかったのでそのまま治療させて頂きました」
一瞬呪われているのかと思ったが普通に手を離せた、それだけ強い力で握りしめていたのだろうか。
ひとまず検査を受けて問題なしと診断を受けると馬車に乗ってウォークリアまで戻る、普段は身体強化で走った方が早いのだが病み上がりなのもあってゆっくり戻る事にした。
―――――
「見た事もない魔物か…考えられるのは突然変異だがボスとなるとかなり稀有な例だね」
ギルドマスターが腕を組んで思案に暮れながら呟く、報告の突飛な内容を信じてもらえるか不安だったが杞憂だった様だ。
「ボスの突然変異なんてあるんですか?」
「まあ魔物の突然変異、それもボスとなると数十年に一度あるかどうかのものだが前例はあるからね、勿論他の可能性も考えられるが今のところは突然変異が一番有力だろう」
そこで話が区切られるとギルドマスターの視線はふたつの武器に注がれる、机には漆黒の小剣と手斧が置かれていた。
「そしてこれがボスを倒して手に入れた武器か」
ギルドマスターがゆっくりと手を伸ばす、だが触れようとした瞬間、武器から黒い電気の様なものが生じて手を弾いた。
「大丈夫ですか?」
「あぁ、しかしレアドロップが実在したとは…」
「レアドロップ…」
聞き慣れない言葉をおうむ返しに呟く、するとこちらの意図を察してくれたのか説明してくれた。
「魔物は倒すと魔石になるが武具やアイテムとなったのをレアドロップというんだ、と言っても私自身実物を見るのは初めてだし報告を聞くまではお伽噺の類いとさえ思っていたよ」
「…これはどうすれば良いですかね」
「そのまま君が持っていくと良い、原則として依頼されたもの以外のダンジョンで得たものは手に入れた冒険者のものだからね、それに君だけしか触れられないのではこちらが買い取っても意味がない」
そう言われてひとまずは腰のベルトに納める、手にした時もそうだが不思議とこの武器は自分に馴染む感じがした。
「これがレアドロップだとして、どういうものなんでしょうか?」
「そればかりは私もお手上げだ、なにせレアドロップは伝説の中だけのものだと思われていたから詳細が分からないんだ、そこでだ…」
そう言って再び腕を組むと一枚の依頼書を差し出してくる、それを受け取ると依頼名にはレアドロップの調査と書かれていた。
「君にその武器の詳細を調べて欲しい、その武器の性能は勿論手に入れた時の状況からレアドロップが起こる条件、どんな魔物がレアドロップをするのかといったのもね」
「自分も何も分かってない状況ですが…」
「それでも君はうちで初めてレアドロップを手にした冒険者だからね、それに調査といってもそれだけをやれという訳ではなく何か気付いたら報告をして欲しいくらいのものだ、そこまで身構えなくて良い」
つまりは片手間に気付いた事があったら報告を上げる程度で良いという事か、それならば別に受けても良いだろう。
「分かりました、引き受けます」
「ありがとう、それとこれを…」
ギルドマスターは引き出しから小さな盆を取り出す、盆の上には白銀に輝く冒険者タグがあった。
「今回の功績と将来性を踏まえて君の昇級が認められた、これからは全ての冒険者の手本となる様により精進を頼むよ」
タグには冒険者としての俺の名前が刻まれていた…。
―――――
諸々の手続きを終えて冒険者ギルドを後にしようとする、生きてた中でもかなり濃密な日が終わったと思いながらも明日はどうしようかと考えながら出口に向かうと…。
「あ」
ドアが手を掛けようとした直前に開かれ見覚えのある少女が入ってくる、改めて見ると美しい容姿をしていた、メリハリのあるスタイルを剣士の装いに身を包み、腰まで伸ばした金色の髪をたなびかせたその少女は俺の顔を見るなり目を輝かせた。
「見つけた!やっぱりこの街にいたんだ!」
少女はあっという間に距離を詰めて叫ぶ様に声を上げた。
「ねえ!貴方の武器を見せてくれない!?」
どうやら俺が助けた少女は少し変わり者だったらしい…。