108:鋼鉄の魔獣
(アリアside)
「ベルク!」
結界に閉じ込められたベルクは来るなと指示したけどそんな事を言ってられる場合じゃない、相手は目的の為ならどんな事でもする外道のやる事なんてろくでもない事に決まってる。
「あの柱を壊せば…!」
「させると思うか?」
結界を構築している柱に向かおうとすると魔物を引き連れたバグラスが行く手を阻む、魔物の一体が爪を振り上げながら飛び掛かってきた。
「くっ!?」
爪を剣で受け止めながら焔で焼き払おうとした瞬間…。
「タス…ケテ…」
「っ!?」
魔物の口から溢れた声を聞いて焔を止める、蹴り飛ばして襲い掛かってきた別の魔物を振り向き様に斬った。
「子…返シ…」
「…セレナ!」
斬った時に思わず口を引き結ぶもセレナを呼ぶ、セレナは頷いて水球をこちらに向けて放った。
同規模の火球を作って放つ、火球と水球はバグラスの前でぶつかるとふたつは膨れ上がって爆発を起こした。
巻き起こった爆煙からバグラスは飛び出ると槍を振り下ろしてくる、それを避けるも続け様に放たれる突きを受け止める。
「どうして…こんなヒドイ真似ができるのよ!?」
魔物となった者は完全に意識を失っていない、もはや人としての在り方を失くし僅かに残った記憶を溢してるだけだとしてもその残酷さに問わずにはいられなかった。
「人が魔物に変わるのはそいつらの中に魔物になるだけの闇があったからだ」
「貴方達が無理矢理変えたんでしょう!?これじゃ貴方が憎んだ人達と変わらないじゃない!?」
「俺の中にはもう人だった時の心はない、あるのは人の闇への失望と…憎悪だけだ!」
全身から数多の虫の鳴き声と共にバグラスの叫びが木霊した…。
―――――
(ベルクside)
「―――――――――――ッ!!!」
金属を擦り合わせた様な音が響く、それと同時に翼から鋼鉄の羽根が雨の様に射出された。
剣で弾きながら走る、中庭の樹や花が引き裂かれていく中を走り抜けて掻い潜る。
すると背中から複数の鎖の付いた杭が放たれる、意志があるかの如く襲い掛かる鎖杭を避けると地面に刺さった一本のひとつに乗って走る。
鎌を胸に突き立てて登ると槌矛で顔を思い切り打ち据える、殴られて仰け反ったところを鎖を絡めて胸に手斧を叩き込むが僅かに食い込むだけだった。
…近付カナイデ。
「っ!?」
迫る鎖杭を避けて飛び降りながら聞こえてきた声について考える、迫る羽根と鎖杭を塔型大盾と剣で防いでいく。
…来ナイデ。
…モウ誰モ。
…私ハ。
攻撃を防ぐ度に声が聞こえてくる、聞こえてくる声とバグラスの放った言葉が目の前の魔物の正体を確信させた。
「お前なのか、テレジア…」
「――――――――――――――――ッ!!!」
叫びを上げると顔と胸の傷が塞がっていく、更に地面に突き刺さった羽根と鎖杭が魔物の身体に戻って元の姿に戻っていった。
だがその姿はかつて見た面影などどこにもなかった…。