105:悪意の毒(ガンザside)
「似合いの姿になったか…くっ」
ガンザはそう言うも面頬の隙間から血が流れる、それでも斬馬刀を杖代わりに立つと構えて走り出した。
フィフスは両腕から剣の様なものを生やして迎え撃つ、ガンザは突き出された腕の剣を避けて斬馬刀を横薙ぎに振るう。
フィフスの腹に向かって迫る刃が当たる寸前にフィフスの腹が牙を生やした巨大な口となって斬馬刀に噛みついた。
重量のある斬馬刀が半ばまで食い込んだところで止められる、フィフスは剣をガンザに向けて振るうが直後にガンザと斬馬刀の重さが増した事で腰が落ちる。
「おおおおおっ!!」
ガンザは右腕でフィフスの頭を殴りつける、更に返す拳で殴りつけると斬馬刀の峰を蹴って腹の口から引き剥がした。
振り下ろされた斬馬刀をフィフスは腕を交差させて防ぐ、直後に腹から飛び出た巨大な腕がガンザを殴り飛ばした。
「くっ!?」
「ははっ!」
たたらを踏んだガンザに素早く距離を詰めたフィフスは巨大化した両腕でガンザを掴んで館の壁へ叩きつける、そしてガンザを掴んだまま振り回す様に壁に叩きつけると反対側へと投げ飛ばそうと掴み上げるが…。
「っ!?」
再び重量が増して動きを止めたところをガンザは斬馬刀で斬りつける、放された事で体勢を直したガンザは斬馬刀を地面から救い上げる様にして斬り上げた。
「…なるほど、自身とその剣の重さ…いえ、硬度や強度といったものまで変化させているのですね。
さしずめその剣の力は質量操作といったところですか」
「答える必要はない!」
ガンザはそう叫びながら地面を殴りつける、すると地面が隆起して土柱が放たれるがフィフスは腕を振るって土柱を砕く。
その隙にガンザは斬馬刀を振りかぶりながら迫るがフィフスが腕を振るうと腕の剣が飛んで地面に刺さり斬馬刀の鍔とぶつかって止められる。
僅かに動きが止まったガンザをフィフスは巨大化した腕で殴りつける、更に剣が残った腕をガンザの鎧の隙間…膝に添えると一気に引き裂いた。
「ぐあっ!…ぬおおっ!」
膝を斬られながらもガンザは片腕で斬馬刀を振るう、だがフィフスと足下から出た腕に止められると今度は肘関節を斬り裂かれた。
再び腹の口が開いて影の波動が放たれる、真正面から受けたガンザは地面を転がる様にして倒れた。
「万全の体ならまだしも…その朽ちる寸前の体ではこの結末は分かりきっていた事でしょう。
だというのに人間は進んで無駄死にを選ぶ…愚かとしか言い様がない」
「…全てを知ったかの様な口振りだが貴様は何も分かっていないな」
倒れていたガンザが立ち上がりながら答える、そして斬馬刀を強く握り直してフィフスを見た。
「無駄死になどではない、息子の意志とザンマはこうして我に託され、そして貴様の悪意をはね除けんとする者達に出会えた…例え朽ちたとしても我等の、その意志を継ぐ者がいる!
だから人は戦える!だから人は死に立ち向かえる!それを愚かとしか言えぬ貴様には理解できまい!」
「…畜生の思考をどう理解しろと言うのだ?」
フィフスの両腕が蠢く、足下からシャドウストーカーが登って両腕へと集まっていき、ガンザへと突き出されると今までとは比べ物にならない影の波動が放たれた。
「ガンザさん!?」
波動がガンザを呑み込もうとした瞬間…。
ガンザの足下の地面が隆起して射ち出される様にガンザの体は宙へと舞う、そして斬馬刀をフィフスに向けて構えながら勢い良く落下した。
「何!?」
両腕を前に出した体勢のままのフィフスにガンザは落下する、衝突音と衝撃波を周囲に撒き散らした。
鎧が解除されながらも放さなかったガンザの斬馬刀はフィフスの左肩を深く抉っていた…。
「敵討ちおめでとう、褒美に…お前の息子と同じ死をやろう」
倒れたフィフスの影から飛び出したものがガンザの腹を貫いた…。