102:対峙
隠し通路を通って出口の扉を力を込めて押し開ける。
周囲を確認しながら出ると続いて来たアリア達に手を貸す、全員が出ると声を潜める様に合図しながらとある方を示した。
俺達が出てきたのは中庭の隅、示した中央には鉄くずが集まった山の様なオブジェがあった。
「あれは魔物…なの?」
「少なくとも以前来た時にはなかったな」
「…なんにせよ、わざわざ起こす必要はあるまい」
ガンザの言葉に頷き壁伝いに移動する、全員で周囲を警戒しながら移動していたがあまりの静けさに違和感を覚える。
「…っ!上だ!」
俺が叫ぶと同時に虫の群れが襲い掛かってくる、アリアが跳躍すると同時にセレナが結界を展開した。
群れの中心に突っ込んだアリアが回転しながらルスクディーテを振るう、刃から生じた焔は一気に燃え広がって虫達を焼き払った。
虫達を皮切りに館の屋根の上に魔物達が姿を現す、だが吠えたり鳴き声を上げはするがこちらに襲ってくる様子はない。
「いやいや、崩壊寸前だった王国軍を立て直す手腕…実に見事でございました」
軽薄さを感じさせる声と拍手がその場に響くと魔物達は鳴き声すら止める、声の方を向くとそこにはバグラスと黒いフードを目元まで被った者がいた。
「…お前がフィフスか?」
「如何にも…しがない商人のフィフスと申します、名高き黒嵐騎士殿にお会いできて光栄でございますよ」
フィフスが名乗るとガンザはザンマを手に今にも斬り掛かろうとするが堪える、周囲を囲まれたこの状況では魔物達をけしかけられてるその間に奴等を逃がす可能性が高い。
ガンザもその判断に至ったのだろう、歯を食い縛りながらザンマをいつでも振るえる姿勢でいた。
ガンザをはじめとした全員に目配せしながらフィフスと向き合う、そして問いかけた。
「…お前等の目的はなんだ、この国で一体何をしていた?」
「目的は企業秘密とさせて頂きましょう…何をしていたかは見ての通り、実験でございます」
「実験だと?」
「えぇ、私が作り出したこの“鍵”…性能を試すにはより多くのサンプルが必要だったんですよ。
いやいやこの国ではお求めになる方々が多くて実に助かりました」
わざとらしい笑みを浮かべながらフィフスは礼を述べる、言葉の端に纏わりつく悪意が感じ取れて不快な気分になった。
「それだけの為に貴族共を唆して反乱を起こしたのか?」
「それがなにか?商人たる者は需要と供給の両方を扱ってこそです、それに最後に判断したのは彼等で私はなんら強制はしていませんよ?この場にいるのを除いては…ね」
…予想はしていたがやはりこいつは駄目だ、こいつは俺達とは価値観もなにもかもが違い過ぎる。
人の姿をしてるのに全く別の種族と話している様な感覚だ、どれだけ言葉を尽くそうとこいつは一切変わらないだろう。
「もういい、お前は認識するだけでも不愉快な奴だと分かった」
「手厳しいですねぇ…ではこの後はひとつしかありませんねえ」
フィフスはそう言って黒い杖を手にして地面を突く。
「力ずくでいきましょうか」
魔物達が一斉に襲い掛かってきた…。