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夏が近づくにつれて段々と日が長くなっていくが、ある程度決まったルーティンが生活の中にない俺は久々に身に着けた腕時計に少し前よりも日没が遅くなったことを教えられていた。
留年騒ぎが一段落したとはいえ、今までとは違う生活に追われる日々はじわじわ感じる焦りからくるストレスに順調に蝕まれている。この生活は少なくとも半年近くは続くのだろう、今は体裁もあるが故に安易にストレス発散はできない。
そう思うと用事ついでに立ち寄ったビルの並ぶ街中にできたくぼみのような公園のベンチで座っていればいくらかは気が晴れるのではないかと期待したがそんなわけもなく。俯いた俺は頭と手を少しひねっては時間を確認しつづけて、過ぎ去る時間を数十秒ごとに刻み続けていると、街の喧騒を聴きとることさえ無くなっていた。そんな虚ろな状態の俺の視界を一人の子供が走り抜けていき、幾分ぶりの針以外の動きを無意識に追いかける。
それは、今腰掛けている所と少し離れたところにもう一つあるベンチに座る老人に向かって行った。どうやら何か語らってはいるが内容はさっぱり。だがその表情は朗らかだ。
「……っ」
その光景に言葉にならない声が出た気がしたが、その直後にまた、目の前の光景から目を逸らしていた。
近頃何度目だかわからないこの心情はいつ感じても気持ち悪い。
体も心も重く陰っていきそうになったその時控えめなカンッというような軽いがだが確かに響いてくる金属音に再び顔を上げる。
その直後に二度三度鳴る金属音に先ほどの子供が缶を蹴ったとわかった。
そんなありふれた光景に懐かしさを感じながら今度は少し、だけど確かに笑みが漏れる。
そして俺はなんとか立ち上がり、微かに黒みを帯び始めた空を一瞥してからくぼみを抜け出して今日の家路を辿った。