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俺はもともと我慢強い人間ではない。
すぐ泣きそうになるし嫌な事から逃げ出すことも珍しくない。
今だって逃げ出したい。目の前の留年という真実から逃れる事ばかり考えてしまう。
だが、事実を知ってからいくらかの時間が流れていくらかの落ち着きが生まれてきた。そうした時、最初に頭頭に浮かんだのは母親に電話しなければならないと考えた。いくら成人しているとはいえ、バイトも時々している程度の収入しかない自分には学費を払ってもらっている親には隠しておけないのはさすがの自分にもわかる。
取り出した携帯をいつもより重たい指運びで母親に電話を掛けた。
コール音が怖い。何度も聞いてきた音なのに自分の意識はその音に支配されている。出てくれなかったら良いのになんて無駄な期待は画面に映る呼び出し中の文字が時を刻み始めた瞬間に砕けて消えた。
「はい、もしもし」
普通だ。いや、当たり前なのだが今の自分には普段通りの母が怒りだす未来が待ち受けているせいで恐怖が心を支配している。答えるのに何秒かの時間を要した。その間に疑問を抱いたのかどうしたと問われ、その瞬間に覚悟を決めふり絞って事実だけを伝えた。
「ごめん、留年した」