アガペーを与えて
見返りを求めない愛の体現者だと言われた聖女がいた。聖女は幼少のころより修道女に憧れ、苦しむ人々を救いたいと思っていた。
何が彼女を駆り立てるのかはわからなかった。そして、幼少より願った尊い夢は実現され、聖女は誓いを立てたあの日から、一生涯、貧しい人の味方に立ち、苦しむ人を支え続ける。
「人間にとってもっとも悲しむべきことは、病気でも貧乏でもない。自分はこの世に不要な人間だと思い込むことだ」
という信念で聖女は病に苦しむ人々のために、「死を待つ人々の家」を設立し、人種や貧富の差別なく人々を受け入れ、無償の愛をもって尽くした。
「マザー……。苦しいです……。マザー……」
死を待つ人々の家の患者は、この苦しみをどうにかしてくれるよう聖女に泣きすがった。
「痛いですか、苦しいですか。痛みとは主が与えたもうた素晴らしい贈り物、主の愛です。あなたは今、主の愛に包まれているのです。今この瞬間を喜びましょう」
聖女は苦しみもだえる人々に説いた。
患者は最期まで、苦しみもだえて旅立った。
いつしか彼女のもとには敬虔な信奉者たちが、貧しき人々の為に無償の愛を与えたいとやって来た。
聖女は信奉者たちに、愛を説いた。
「さあ、共に貧しき人々に無償の愛を、飽くことなく与え続けてください。残り物ではいけません。痛みを感じるまでに、自分が傷つく程に与え尽くしてください」
聖女は世界中の人々に愛された――。