当主の座
「あっはははははははは!!」
「りっリオネル様ったらそんなに笑わなくても・・・」
「だって面白いじゃないか〜、ヒルに撃退される誘拐犯なんて聞いたことない」
リオネル様がヒーヒー言いながらお腹を抱えて笑う。
私は森で誘拐犯を撃退した後に駆けつけてくれたアルバトス家の騎士によって保護された。
後で聞いたがリオネル様はあのドレスを目印に私に護衛を付けていたらしい。
でも私が急に井戸の方へ走っていってしまったために見失ってしまい、その間に誘拐された。
護衛の二人はもの平身低頭謝ってきたが、大した怪我もなかったしここまで連れてきてもらったのでどうか責めないでほしいとリオネル様にお願いした。
「本来なら僕の婚約者が危険な目にあったんだから簡単に許すことはできないけど、誘拐されたおかげで新しい発見もあったし!まあ、今回は君に免じて許してあげるよ」
結婚申込みに対する返事をまだしていないのに、アルバトス家に着いてみたら既に婚約者扱いになっていて驚いた。
誘拐犯の二人はあの後手当を受けて無事に回復し、騎士団による調査を受けている。
そしてカンタール家へはまだ私の無事を知らせていない。
私が誘拐されたことは市民の目撃情報ですぐにお父様達へ知らされたが、カンタール家から騎士が派遣されることはなくお父様自身の動きもなかったという。
騎士を派遣せず自らも動かない。
その事実が私に対する愛情のなさを物語っていた。
きっとカンタール家では邪魔者がいなくなったことを喜んでいるだろう。
だから無事を伝えてまたあの家に戻ることになるのが怖かった。
生きていたのか、と落胆するであろう顔を見たくなかった。
リオネル様のご両親、つまりアルバトス当主ご夫妻も私の気持ちが落ち着くまで居たら良いと言ってくれた。
アルバトス家に来て1週間。
「アルレット嬢には言い難いんだが、実は先程カンタール家へ行ってきたんだ」
ウィルソン様がため息混じりに話し始めた。
やはり自分の娘のことだ、心配しているだろうと様子を見に行ったらしい。
するとお父様は心配した様子もなく、アルレットが誘拐されてしまった、すぐに騎士を派遣して探したが見付からない、なので結婚は出来ないと言ったそうだ。
私がアルバトス家に居るとも知らずに・・・。
そんな矢先、カンタール領に不穏な空気が流れ始めた。
結界をすり抜けてくる魔物の数が明らかに増え始めたのだ。
通常の状態でも何らかの理由で結界に歪みが生じることがある。
その歪みから結界内へすり抜けてくる魔物は居るが、年に1体あるかどうかで数はそう多くなかった。
しかしここ数日でも3体の魔物の侵入が確認されており、その数から何か異常な事態が起きている事が予想された。
恐れていたことが起きてしまった・・・
私には何が原因かは予想がついていた。
お父様の魔力が弱いせいで結界も弱まっているのだ。
お父様の魔力は年々弱まっている。今はもう当主を務める程の力はないだろう。
私が屋敷に居た時は気付かれないように魔力を強化していたから何も起こらなかった。
強化の効果は長く持続しないので、私がいなくなって1週間経ったいまは本来の魔力まで弱まっているはず。
恐らく一人では魔物討伐も出来ないくらいに。
「カンタール領では控え役になっていた補佐の人達が中心になって魔物を討伐してるらしいよ。このままだと、当主交代も時間の問題だね」
リオネル様の言うとおり魔力の弱くなった当主はその座を追われる。
カンタールは代々魔力を繁栄させ継承し当主の座を守ってきた。
お父様は子供の頃から当たり前のようにあの屋敷で暮らしてきたので、今更権力を手放し補佐役へ回ることなどプライドが許さないだろう。