豊作祭
「僕にその力を貸してほしいんだ」
先日リオネル様と二人で散歩をした時にそう言われた。
私の力を貸してほしい、というのは後継者となったリオネル様を私の魔力で強化して支えていくという事だろう。
この家で使用人同様の扱いで暮らすよりもその方が良いのかもしれない。
お父様の魔力は年々衰えているが、この家はフルールが婿をとって継いでいくのだろうから私がいなくなっても問題はないだろう・・・たぶん。
しかしお父様始め継母とフルールまで結婚を快く思っていないのだからどうしたものか。
そうこう悩んでいると従姉のニナが訪ねてきた。
「ご機嫌麗しゅうございます、ロバート叔父様。ニナ=べロワイエでございます。本日は父からの使いで豊作祭への心ばかりのお品をお持ちしました」
ニナは母の兄の娘で私の一つ歳上だ。
この国では3つの家系以外にも魔力を持つ家系がいくつも存在する。
最も強い魔力を持っているのは王家で、基本的に魔力を持つ家系は王家の遠戚にあたる。
王都を三角形に囲んで守っている3つの家系は基本的には次の代へ継承されるが、後継ぎがいなかったり魔力が衰退した時には当主の座を降ろされる場合がある。
その際に補佐役をしていた他の家の中から新たな当主が選ばれるのだ。
現在3つの家系はアルバトス、カンタール、サマン家が担当しており、母の実家べロワイエ家は3つの家系を補佐する立ち位置だ。
ニナは何かと理由をつけては度々うちの屋敷を訪問して私のことを気にかけてくれる。
狭い世界のため色々な噂が広まり易く、家での私の立場に気付いているのかもしれない。
私も気軽に外出こそ出来ないが、訪問客が来れば家族はその場では長女として扱ってくれる。
外面の良いお父様のことだ、周囲から娘に酷い扱いをする家族だと思われたくないのだろう。
「これはこれは、お気遣いありがとう。お義兄様にも宜しく伝えておくれ」
「とんでもございません。ところで叔父様、前にこちらで株分けしていただいたガーベラのことで相談があるのですが、アルレットをお借りしても宜しいですか?」
「ああ、良いとも。アルレット、庭に案内しておやり」
「はい」
私は主に掃除や雑用、庭の手入れを任されており園芸についてはこの屋敷の中では一番詳しい。
そして庭というのは二人きりで気兼ねなくお喋りが出来る格好の場所なのだ。
「ガーベラについての相談っていうのは何かしら?」
「やだ〜そんなもの無いわよ。貰ったガーベラは家で綺麗に咲いているわ」
二人で顔を見合わせてクスクス笑う。
「もうすぐ豊作祭ね。アルレットは当主の長女として出席するんでしょう?」
「ええ。豊作祭は大事な行事だもの」
豊作祭はその年の収穫を感謝し翌年の豊作を祈るお祭りでカンタール家領地で行われる。
もちろん領民に示しを付けるためカンタール家全員が出席する。
豊作祭はこの屋敷から少し離れた農村地帯で行われるが、その日は屋敷の使用人も手伝いに駆り出されるため人手が少なくなる。
「前から魔力を持つ令嬢を狙った誘拐事件があることは知ってる?実は私のお友達が少し前に豊作祭をやるあの辺りで襲われたらしいの。」
以前から魔力を持つ令嬢を狙った誘拐事件があることは知っていた。
令嬢を誘拐しては魔力を持つ子供を産ませ、その力を悪用しようとしているらしい。
「ええっ、それで大丈夫だったの?」
「その時はお付きの者が撃退したらしいんだけど、なんでも犯人は複数人で襲ってきたらしいのよ。豊作祭のときは人手が足りなくなるでしょう?だからアルレットも気をつけるようにね」
誘拐事件は恐ろしいが、ニナが私のことを心配してくれることが嬉しかった。