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迎え

父の話を聞いてからのアルレットは酷く落ち込み食欲も無くなっていった。


誘拐されたことよりも、自分の父が誘拐犯を追うこともなく自分を心配している素振りもないことがショックだったようだ。


・・・・・・何か僕に出来ることがあるだろうか。


ふと中庭の花壇を見て何かを思い出した。






「一緒に街へ観光ですか?」


アルレットが目を大きく開いて言う。


あまり乗り気ではないかと思ったがそうではなく、街へ行ったことがないので想像がつかないらしい。


カンタールに居た時は対外的に必要な時だけ外出は許されたが、基本的にずっと屋敷に居る暮らしで外の世界を知らないらしい。


様々な店で賑わうアルバトスの街に彼女は圧倒されていた。


「りっリオネルさまっ!見てください!お店がこんなに沢山並んでいます!」


農業を中心に栄えるカンタールとは正反対に、アルバトスは商業が中心となって領地の税収を支えている。


適当な場所で馬車を降り、街中を散歩しながら彼女の興味のある店を覗いていく。


それだけなのに、まるで初めてお祭りに来た子供のように彼女ははしゃいでいた。


「ちょっと寄っていきたい店があるんだけど良いかな?」


彼女を連れてある一件の店へ入る。


「・・・・・・?」


中心街から少し外れた場所にあるその店は、ドレスを中心に扱うブティックだ。


店の中央に飾られているドレスに彼女の目は釘付けになる。


「綺麗・・・・・・」


色鮮やかなガーベラの刺繍が施されたそのドレスを見つめて彼女が呟いた。


「これは君へのプレゼントだよ」


「えっ」


彼女とカンタール家の庭を散歩した時には庭一面にガーベラの花が植えられており、庭の手入れは自分の仕事だと笑っていた。


きっとガーベラが好きなのだろうと予想してこのドレスを用意してもらったが、気に入ってくれただろうか。


今度は護衛の目印としてではなく、落ち込んでいる彼女を少しでも喜ばせたい一心で選んだ。


驚いている彼女を強引に店員に預けそのまま奥で着替えてきてもらう。


しばらくして店員からの声かけで着替え終えた彼女の元へいくと、何やら下を向いてもじもじしながらこちらに背を向けていた。


その姿がなんだか可愛らしく思わずふっと笑いが溢れる。


「やっぱりこんなに愛らしいドレスは私には似合いませんよね・・・・・・」


自信なさげに更に縮こまりながら言う。しまった。


「ごめんごめんっ。 そうじゃないんだ。 ただ・・・・・・・」


この続きはどうしようか迷ったが、あえて言うことにした。


「ただ、あんまり可愛かったからつい」


「!!!!」


みるみる耳まで赤くなっていくのが分かった。


免疫のない彼女にはちょっとストレートすぎただろうか。


いや、きっとこれくらいはっきり言わないと伝わらない。


今まで寂しい思いをしてきた彼女には、これからは人から褒められることや大切にされることを知ってほしいと思った。







彼女にそのままドレスを着て帰ることを提案したが「大切にしたいのでしまっておきます」と一蹴された。


どうやら気に入ってもらえたようで安心した。


そして日が暮れて帰る頃、馬車に揺られながら彼女がぽつりぽつりと話し始めた。


「物心ついた頃から父は私に関心がありませんでした。 でも母が居ましたしここに来ればリオネル様も遊んでくれて、そんなに寂しくはなかったんです」


「うん」


「でも、母が亡くなって継母と妹と一緒に暮らし始めてから生活が一変しました。 母の形見は全て捨てられて私は使用人に混じって働くことに。 いつも継母と妹の顔色を伺う生活で、それでも父は見てみぬふりをして助けてくれることはなかった・・・・・・。 父は私に目に見える魔力がないことで、本当に自分の血を引いているのか疑っていたんです。 だから愛されていないことは分かっていました。 でも、心のどこかで期待していたんでしょうね」


彼女の肩が微かに震えていた。


「そんな扱いを受けていたのに、どうして自分の魔力について黙っていたんだい?」


「・・・・・・実は父には一度だけ話したことがあるんです。 馬鹿にされた挙げ句、全く信じてくれませんでしたけど。 それ以来誰にも言わないと誓ったんです。 リオネル様にはバレていたみたいですけど」


そう言うといたずらに微笑んだ。


「もうずっとここに居ればいいよ。 僕も僕の家族も君のことを歓迎するよ。 君の魔力だって目には見えないけど素晴らしいものだ。 ここには君を馬鹿にする人も邪魔者扱いする人もいない」


「ありがとうございます。 そう言っていただけて嬉しいです」


彼女を一度カンタールへ返してから結婚をと思っていたが話を聞いて気が変わった。


またあの家に返ったら彼女が余計に傷つくだけだ。


父と相談してどうにか彼女がこのままここへ居られる方法を考えよう。









屋敷へ戻ると険しい表情をした父に呼び止められた。


「リオネル、ちょっとこちらへ来なさい」


父の書斎へ促される。その表情から何か嫌な予感がした。


「何かあったんですか? ・・・もしかしてアルレットのこと?」


父は眉間に皺を寄せて話しだした。


「明日カンタール家からアルレットの迎えが来るそうだ」



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