第四十九話 隆の意見
集会場は病院の離れに有り、安川は長い廊下を車椅子に隆を乗せたまま、集会場の入り口に向かった。
集会場の入り口のドアを開き、中に入って安川は受付にサインをした。
「ほら、隆君も」
安川は隆に朝のミサの出席のサインを求める。隆は長机の受付表にサインを始めた。受付表は教会関係者、一般、入院患者と別れていて、安川と隆は入院患者の方にサインをした。
隆がサインを終えると安川は隆の乗った車椅子を一番後方の位置に持っていった。そこで椅子を退けて隆をその場に置いた。車椅子だから、後ろに机が有ると隆は不便なため安川が気を使い、隆を一番後方にもって行き、自分はその隣に座る事にした。
安川は隆を座らせた後、本棚から聖書と賛美歌の本を二つずつ取って、両書を隆に渡した。隆には賛美歌の本はただの歌の本であり退屈な代物だが、聖書はまだ物語形式なのでとりあえず読む楽しみはあった。聖書の本は旧約聖書と新約聖書からなっており、隆は朝のミサが始まるまで前から読んでいた分の続きから読み始めた。
「それでは朝のミサを始めます。まず皆さん御起立をお願いします」
朝のミサを担当している修道長の号令からミサが始まった。
「隆君は座ったままでいいから」
と安川は隆にそう伝える。会場の後ろに居た関係者も隆が車椅子だから、無理に立たせようとは思わず、そのまま隆を朝礼に参加させることにした。
「皆さん賛美歌の百九番を斉唱します」
修道長の指示で参加者全員が賛美歌百九番のページを開く。
「清しこの夜・・・・・・・・」
と全員で賛美歌百九番を歌い始めた。
「それでは皆さん着席してください」
と歌が終わると修道長は全員を座らせた。
「今日は黒田神父様からお話があります」
と修道長は黒田を紹介した。
「それでは聖書のマタイの福音の・・・・・・・・」
と黒田は聖書に書かれている物語を選んで、朗読を始めた。
朝のミサは手短に進められ、キリスト教の儀式としてパンと赤ワインが信者に配られることになった。
「このパンは我が肉体の一部であり、このワインは我が血液である・・・・・・・・・・」
とキリストの台詞を黒田神父が唱える。その台詞は隆にはこの二つが欲しければキリスト教の信者になれと言ってる様な物だった。
パンと赤ワインが関係者によって信者達に配られていく。信者で無い人は信者でないと意思表示をして、パンと赤ワインの受け取りを断った。隆も信者で無いから、パンと赤ワインの関係者からの受け取りを断った。
「では皆さん乾杯!」
黒田神父の号令で信者達はワインに口を付けパンを食した。信者になっていた安川はパンと赤ワインを口にしたが、隆はその両方を貰っていないからただ黙って見ているだけだった。
(やっぱり神様は公平平等じゃない)
隆はパンと赤ワインを欲しくなっている自分に気付き、信者じゃないからという決まりが神が否定する差別だと思えてきた。
儀式が終わり、ワインの入ってたカップは関係者が回収していった。
「それでは朝のミサを終わります。黒田神父に質問のある方はこの場に残ってください。それでは皆さんお疲れ様でした」
修道長の挨拶で解散となり、参加者達が集会場を後にした。
「隆君病室に戻ろうか?」
そう安川が隆に聞く。
「御免なさい、僕神父さんに質問があるから」
そう言って隆は自分で車椅子を動かし、黒田神父の元に行った。
黒田神父は車椅子で向かってくる隆に気付き、隆を温かく迎えようと待ち構えた。しかし隆から出た言葉は黒田にとって冷たいものだった。
「神父さん、神様は平等だと言いながら全然平等じゃないです」
予想外の隆の発言に黒田は驚き、すぐに対応できなかった。
「すべての人に平等だと言っていながら、信者じゃなきゃパンとワインを与えないって差別です」
その発言に傍に居た修道長と後ろから付いてきた安川は、あわてて隆の言動を抑え、言論を封じ込めようとした。




