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第3話 無力の内科医

 鈴木は坂本が去った後、再び不十分な引き継ぎを補うべく患者達のカルテと看護記録を見て、患者達

の状態を確認し始めた。


「鈴木先生、佐藤さんの退院の件ですが、このまま退院させてよろしいでしょうか?」


と一人の看護師が鈴木に聞いてきた。鈴木は退院と聞いて小躍りした。患者全員が死ぬわけではなく、

治る人もいるのだと思い、少しずつ希望が湧いてきた。


「退院って、治療の続きは通院で行うなら、すぐにでも退院の手続きを取ってもいいですよ。」


と看護師に鈴木が答えた。看護師は悲しそうな感じで


「退院は最期を自宅で迎えたいからです。」


と答えた。それを聞いて鈴木は奈落の底に落とされたようなショックを受けた。結局誰も治らないとい

うことである。鈴木はわずかな希望まで奪い取られた感じで、何も言えなかった。看護師は鈴木の心の

回復など待っていられない。すぐに


「佐藤さんは退院でよろしいですね?」


と鈴木に念を押すように聞いた。


「あぁっ。」


ただ返事をするように鈴木は答え、看護師は佐藤さんの退院の手続きを取ることにした。手続きを終え

ると鈴木はあわてて佐藤のカルテを見た。食道ガンで全身に転移し、もはや回復の見込みがなかった。

そして余命までの月が書かれていて、その余命を宣告された日付けから数えて今日は一ヶ月も無かった。

医師として何もする事が出来ず、ただ前任者の指示を引き継ぐだけの自分自身に怒りといらだちを覚え

ながら鈴木は佐藤が退院するのを黙って見ているだけだった。

 ナースステーションにナースコールが鳴った。314号室からだった。すぐさまナースが314号室

に駆けつけ、しばらくしてナースに鈴木が呼ばれて、鈴木も314号室に向かった。そして病室に入る

と男性患者が背中に痛みを訴えていた。鈴木はその患者さんに症状を聞き、治療を考えたが、医者とし

て出来ることは痛み止めの注射を打つことだけだった。当然、麻酔科の坂本を呼び、鈴木の医者として

の仕事はそれで終わったようなものだった。


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