表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/54

9. ヒロインの内側は

「え~、とりあえずわたしにわかるゲームの内容から説明します――後でここでの生活と照らし合わせられると思うから――わたしがここにきたのは三年とちょっと前で、ゲームだとわたしがこの学院に入学することになったところからです。だけどもうちょっと前のことから説明しますね。来てみてわかったことも結構あるんですよ?」


 そう言うと、ミチカはかわいらしさを作らない自然な様子で椅子に座り、足首を交差させた。


「デフォルトのマリア――つまり今のわたしの基本設定は~田舎の男爵家で両親と弟と四人で仲良く慎ましく暮らしていたんですけど、わたしが五つの歳に母が亡くなって、父が二年後に再婚したんです。で、義母の他に義姉が二人できたんですけど、その義母と義姉たちっていうのが、物語設定ではろくでもない人たちで、私のことをいじめるんです。ほら、かわいいから」


 そう言って両手で両頬を指さしてみせる。

 ああ、はいはい。って感じで先を促すと、ミチカは「つまんな~い」って感じの顔をした。


「で、わたしはそのいじめに耐えかねて母の形見の指輪一つを持って家を飛び出すんです。偶々通りかかった荷馬車の荷台によじ登って逃げ出すんですけど……当然ですけど行き倒れちゃって、親切な平民の老夫婦に拾われるんです。で、すくすくと成長――父親はわたしが死んだとは思っていなくて、諦めずに捜索を続けていて、ついにわたしを発見、引き取ることにしたんです。母の指輪が決め手でしたね」


 その珍妙なピンクの髪のせいでバレたんじゃなかったのか。

 そう思ったけれど、とりあえず突っ込まずに先を促した。


「で、実家に連れ戻されるんですけど、やっぱり義母たちとの折り合いがよくなくて、それもあってこの全寮制の学校に入ることになるんです。まあ、そういう設定で、あとは御存じの通りです。

 さっきも言いましたけどわたし、他の人たちは生きているうちに攻略したんです。だけどハーレムルートは達成できていなくて。途中で力尽きちゃった。だから転生させてやるって言われた時は迷いなくここを選んだんです! 必ずクリアしてやるって思って。時にはおバカでかわいいだけのフリまでして――ザッカリーさん相手の時とかはそっちの方が効果的なんです。ウェイン様の時は逆で、言い合いや論争にも勝てる状態じゃないと歯牙にもかけてもらえないから勉強だってがんばったし――絶対できたと思ったのに!!」


 なるほど。だけどなんつーか、乙女ゲーなのに『根性』な感じだな。

 お疲れさん、って言いたくなった。


「……ここでのお前の特性とかは?」

「え? ステータスってことですか?」

「そう。転生者にはオプションがあるって言われなかった?」


 俺が言われたからにはこいつにもあるはずだ。そう思って聞いてみた。


「ああ、言われましたよ。わたしは通常状態――つまり基本スペックだと風魔法ウィンド火魔法ファイアが得意なんです。体術は攻守で言えば……この立ち位置でいながら実は攻撃系で、ものすごく強くはないですけど、やっぱりヒロインなので簡単には死なない設定になってるみたいです。いろんないじめに遭ったけど、結構立ち直りも早いし。オプションは――『調理スキル』と『癒しスキル』をそれぞれマックスで選びました。調理の方はそのままですけど、癒しスキルは回復魔法が使えるので、本来のマリアの仕様にはなかった回復師としての役割が果たせるんです。それに合わせ技で回復力抜群のご飯とかも作れるんですよ!」


 得意そうに話してくれたのは、たぶん冒険系のゲームをあまりやったことがないからかもしれない。自分のステータスとか、盛大にばらすもんじゃないって教えた方がいいのだろうか……ま、いっか。


「へ~、女の子らしい選択だな」


 簡単な感想に止めた。


「はい! その二つは男性の攻略には欠かせませんから!!」


 ……なるほど。

 ふんふん、と頷きながら、もう一回聞いてみた。


「あのさ――そのハーレムルートってやつだけど、今回のアレで成功、って考えるわけにはいかないか? みんな攻略されてたろ?」

「え!?」


 質問の意味が分からなかったらしく、首を傾げて聞き返された。


「だから、ハーレムルート。等しく全員攻略されてあれでエンドってことにしてもらえないか?」

「それは……ダメ」


 そうだろうな、とは思ったけど、やっぱり不服そうだ。


「アレはミチカにとっては一律で不成功、って扱いなのか? だけど、あそこにいたやつらは誰が一番って感じでもなかっただろう? みんな同じようにチャームにやられていたし」

「……」


 なんかものすごく不満がある目で見られた。


「何? 何がダメなわけ?」

「だって……ハーレムルート、ですよ?」

「うん。全員攻略されてただろ?」

「……攻略完了後のお楽しみは?」

「……?」


 それはどういう意味だろう。


「攻略特典――R18のキラ☆恋は、妄想以外のあれやこれやは主に断罪イベント後が盛りだくさん設定だったんです!! それ全部ナシとか――酷いじゃないですか!」

「……」


 今度黙るのは俺の方だった。それはもしかしてR18の世界を楽しみたいってことか?


「……中身中学生なんだろ? 大人としてそれはどうかと――」

「こっちで三年以上過ごしたんだから、もうとっくに高校も卒業ですっ!!! 素敵な男性といろいろドキドキ体験……って期待するくらいいじゃないですか!」

「え~、そういう年齢カウントを適用していいのかな……」

「いいに決まってるじゃないですか。十五歳の終わりに死んで、ここに来て三年生きたんですよ? マリアの身体だって十四歳から十七歳になったし! それにあっちで生きていた時はそういうの全然だったんだから!!!」


 最後がものすごく力の入った声だった。


 あっちで生きていた時は全然……まあ、そういうところ、そういう意味なら自分だってほぼそうだったからわかるけど。

 そのあたりは突っ込まれたくないし、話題を変えるか。


「俺の――この王子サマのことは何を知ってる? 俺、R15モードで一回しかプレイしてなくて、詳しくないんだ」


 素直にそう申告したら、ミチカはなる程って感じで頷いた。


「エドワード様ですか? ええっと、そうですね。エドワード様は基本オールマイティー――王族ですから。今はまだ自信がないので魔法も不安定なところがありますけど、ちゃんとハッピーエンドになるとメキメキと頭角を現して――って、これがハーレムルートで成功したならそれはないんだけど」


 え。


「それどういう意味?」


 なんか嫌な響きだったから聞いてみた。


「だから、ヒロインにちゃんと攻略されると自信がついて一気に開花する――それがR15のエンディングです」


 ああ、そういえば。ちょっと俺様な顔をして得意気にヒロインを抱っこしてたな。


「……それがハーレムルートだと?」

「みんなと同じ――だから俺ってこれでいいのか、的なところが微妙に残るはずなんですよね。攻略本によれば、ですけど――って、わたしも全部読んだわけじゃないから、あくまでも『はず』なんですけど」


 えええええ。それ、かなり嫌だな――ただでさえアホなのに……って、今は俺が中身だからアホでもないのか? どうだろう。


「他には? 確か魔法属性はそれなりに全部だよな? 得意なのは――」

「火と水と雷撃ですね。ゲームにはあんまり出て来ないけど。あとは回避アヴォイドや弾く(リフレクション)系の防御――やっぱり王族だけあって感知ディテクトも――防御スキルは重要ってことですよね。アヤトさんはオプションで何を選んだんですか?」

「え―――」


 ラーニングアビリティと収納魔法――けど、たしか勝手に魔力マックスをつけられていたはずだ。今ここで話してしまえるのは……。


「――魔力量と収納魔法」


 くらいかな。


「へ~。いいな~。わたしも収納魔法が欲しくてかなり迷ったんです。食材とか入れておけると便利ですよね」


 楽しそうに笑う。


「そうそう、エドワード様は剣技攻撃も結構いけますけど、そういう腕力系って大抵周辺にいる人たちがどうにかしちゃいますから魔法系をあげておくのはいい選択だと思います」


 オプション選択は後からでもいい、って言われたからまだ選べるんだけど、ミチカはそこは突っ込まなかった。通常は一個か二個って言ってたもんな。あの自称神様。


「体力も攻撃力もそこそこはあるって言ってたし」


 とりあえずそう付け加えた。今は迂闊に手の内を曝したくない。

 ミチカが頷く。


「ここってアドベンチャー物のゲームじゃなくて割と平和だから、戦闘系スキルとかあんまりいらないんですよね――アヤトさんが冒険の旅を求めるなら仲間がいた方がいいのかもだけど……わたしも今のところちゃんとしたジョブは決めてないんです」


 肩をすくめてそんなことを言う――。


「ジョブ――そんなのまであるのか?」


 ますますゲームっぽい。


「あれ? 聞いてないんですか? 一応転生者はどの世界に行くにしてもみんな一定のカテゴリーに属するから――ステータス画面を開くと名前のすぐ下に――決めていないなら空欄になっているところがあるでしょう?」


 そう言いながらミチカはササッと空中で手を動かした。すると空中に半透明のカードのようなものが出現――まるで宙に浮かぶ十インチタブレットのようだ。


「それ、どうやるんだ?」


 驚いてそう聞いたら、ミチカが目を丸くした。


「それも聞いてないんですか?」


 頷くとやれやれって感じに首を振られた。


「ステータス・ウィンドウは慣れれば無言でも出せるようになるけど――最初は「ステータス」とか「ステータス・オープン」って言えば開くの。操作はタッチパネル式でも音声認識でもいける。アヤトさんって、そういうこと全然説明されていないんですか?」

「知らない」


 首を振りながら答える。あの自称神様、いい加減なことしやがって――。

 そう思いながら、とりあえず「ステータス」と呟いてみたら、ちゃんと俺の前にも半透明のボードが出現した。


 ほうほう。

 名前「エドワード・アーサー・J・アシュトン(ストーリー終了後に変更可)」年齢「一八歳」性別「男」ステータス「正常」そこまでが横一列。

 その下に、確かにベイシック・ジョブ:「未定」とあって、その隣に――。


 カレント・ジョブ:「外見に極振りしたアホ王子」


 ……。

 …………。

 ………………。

 自称神様が詳しく説明しなかったわけがわかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ