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5. 断罪されたい人? は~い!

「話を続けようか。『婚約破棄の理由』だったね」


 話を戻した俺をひたと見据えてプリシラはこくりと頷いた。


「俺――いや、私もそこが知りたい。君との婚約を破棄をする理由に足るものがあるのかどうか――次に話すのは誰かな?」


 言葉使いに気をつけつつそうは言ってみたものの、誰も話そうとしない。


 なんだ、これ。


 俺はため息を吐いた。


「私が今知りたいのは二つだ。ミチカ嬢に対する嫌がらせやいじめの類は本当にあったのか。あったとして、誰がやったのか。心当たりのある者は?」


 しーん。


 なんだ、これ。どっかで――中学生の頃に経験したような沈黙――ああ、罰せられるのが怖いのか。


「罪には問わない、と言ったら話しやすくなるか――? では、ここから先の発言は個人を侮辱するもの以外罪に問わないと約束しよう。ミチカ嬢が嫌がらせやいじめを受けたと思われる場面を目撃した者はいるか? 挙手せよ」


 そう言ってみたらかなりの人数が手を挙げた。

 つまり、この頭ポヤポヤの男爵令嬢に対する不適当な行為は確かにあったのだろう。


「具体的に何を見たか話してくれる者は?」


 互いの顔色を窺うような数十秒の後、挙手する者があった。


「では話せ」

「あの……ミチカ様の教科書やノートが……汚されていることがありました」


 同じクラスの人間か。

 他の者も進み出た。


「持ち物がなくなったりしたこともあったみたいです。確かに朝は持っていたのに、なくなったって……」


 ふむ。ゲームの通りだな。


「他には?」

「あの……廊下などですれ違う時に心無い言葉を呟く人もいました」


 ほうほう。それもゲームの通り。


 頷いていたら、背後にいたはずのミチカ嬢が駆け寄って来た。

 両手を胸の前で拳にして一生懸命訴える様子――ま、そこは安定のかわいらしさ。言い表すなら『プンスカ』って感じだ。


「そうなんです! わたしが平民の育ちだからって――もちろんそうじゃない人たちだっていました。でも、『学院内では身分と性別を忘れよ』って門のところに明言してあるのに――」


 いや、まあ、そうだけどね――学園物のゲームって大抵そうだけど、それはあくまでも常識の範囲内でってことで――って、それを王子の立ち位置であるらしい俺がここで言うわけにはいかないけれど。


「それは最低限のマナーを守った上でのことです。身分や性別を無視しろということではありませんわ」


 凛とした声が響いた。

 プリシラ嬢。


 やっぱそうだよね――うん。


 そしてその言葉には頷く顔が多かった。


「具体的にはどのような内容だったのか教えてくれる者はいるか?」


 そう聞いてみたら、周囲はさっきよりも渋る様子。


「罪には問わない。誰かいないか」


 自分の周囲も見回してみたけれど、当然だけれど誰もいない。もちろんこのメンツの前でヒロインの悪口を言えるやつはいないだろう。この場では完全に邪魔な防波堤ってやつだ。


 と、静かに挙手をしたのは――なんと、くだんのプリシラ嬢だった。


「プリシラ――君が教えてくれるのか?」


 ちょっと驚いた。そんな展開は――俺がプレイした時はなかったし。

 その驚きを見て取って、プリシラが小さく笑う。


「エドワード様はそれをお望みのようですから。ミチカ嬢がかけられた心無い言葉とは要約すると、『分不相応』『田舎者』『奸婦』『男好き』などですわ。他にもすれ違いざまに水をかけたりする方も――」


 と、甲高い声が割って入った。


「やっぱり!! あなたが黒幕だったのね! そんなに詳しく知っているんだもん――この性悪女! あなたなんて――」

「ミチカ――少し黙りなさい。あなたの今の言葉はプリシラを侮辱するものだ。私が罪に問わないと言ったのは『個人を侮辱するもの以外』だぞ」

「え……そんな――だって今この人がわたしのことを――」

「プリシラの言葉はあくまでも『そのようなことを言われていた』という報告であって、あなた自身に向けられた言葉ではない。それはわかるな?」


 それとも頭ポヤポヤのこのお嬢サンにはわからないのか?


「でも、この人がやらせたに決まってるわ! こんなに詳しく知っているなんて怪しいもの!」


 うん。わからないか。やべーやつだ。


「君はプリシラに直接今のようなことを言われたことがあるのか? 証人がいるのか? それとも証拠があるか?」

「それは――」


 そこまで言うとミチカ嬢はようやく黙った。


「わかったらプリシラに謝るんだな」

「そ、そんな――そんなのってないです! 被害者はわたしなのに……ひどいっ!」


 またしても左腕に縋られた。

 うん。やわらか――じゃない。

 ひどい、って――ひどいのはどっちだ? 


 そう思いながら見おろしたら、涙をためた目で見上げられていた――ひどいのはつまり俺か? 俺なのか!?

 もう一度ゆっくりと腕を抜く。うん。やわらか――じゃない。


 確かにこのお嬢さんはボディタッチが過ぎるきらいがあるらしい。


 当然だけれど思考が遮られるのでやめて欲しい。

 涙で潤んだ大きな目で見上げるのもやめて欲しい。なんか、強制的にこっちが悪いことをしているような気持ちにさせられる。


 ついつい頭を撫でてしまいそうになって――上げた手を急いで方向修正して自分の顎をかいた。ミチカ嬢が残念そうな顔になる。

 いや、そんな顔されても――かわいいけど。


「謝っていただかなくて結構です。心のこもらない謝罪の言葉などいりませんわ」


 おおっと――こっちの声にも冷気が。エレノアのやつより刺さるな。マズったか。

 視線をプリシラに戻すと、公爵令嬢は落ち着いた声で言い放った。


「エドワード様。これ以上この茶番を続ける必要はないと思います。わたくしのことは追放でも幽閉でも、お好きに断罪なさって下さいませ」


 ええ? だって今――自分は冤罪じゃないかって流れなのに?

 言われた内容と今の流れがかみ合っていない。


 どういうつもりだ?


 俺が内心でものすご~く疑いの顔をしていると、プリシラは微笑んだ。

 間違いなく作り笑いだな。

 プリシラの「断罪かも~ん」な感じに俺の警戒心がむくりと首をもたげたので、じっと観察する。


 それにしても、プリシラってスタイル抜群の美人だな。迫力もあるし怒ったら怖そう。それに設定通り頭もよさそうだ。それって王妃にピッタリ――こんな婚約者がいてこの頭ポヤポヤお嬢さんに行くかよ、エドワード王子。ま、好みは人それぞれだけど。


 ついそんなことを考えていたら、プリシラの作り笑いが凍った。


「いい加減にしてくださいませ。これ以上の恥の上塗りは必要ありませんことよ。さっさと刑を言い渡してください。王太子殿下」


 おおう。催促された。

 でもなんでだ。そう思いながら聞く。


「君の罪は確定していない――それなのに刑を言い渡せと?」


 それはあんまりだろう。この様子ならミチカ嬢のいじめに関してはプリシラはあきらかに冤罪だ。


 なのに、プリシラは違う方向から切り込んできた。


「あなたはわたくしではなくミチカ嬢にそのネックレスを贈り、彼女を伴ってここに来たのですよ? その意味は既にこれ以上ないほど明らかです。あなたの気持ちはわたくしにはない。これ以上わたくしにどんな罪が必要ですの?」


 えええ? 俺が――じゃない。エドワードがミチカ嬢に惹かれたんなら、それはエドワードの罪だろ? 詫びて婚約の解消を申し入れるべきだ。


 今の中身である俺自身はプリシラもミチカも別に好きじゃないけど、どっちか選んでいいなら断然プリシラだ。身持ちが硬くて頭もいい。常識もある。ついでに美人でスタイル抜群。近寄りがたい雰囲気はあるけど。

 何よりこの断罪イベントにミチカ嬢をエスコートすることにしたのは俺じゃない。俺になる前のエドワードだ。


 額に指を当てて考える。


「俺の――いや、私の心変わりは君の罪ではない。いじめの首謀者は君ではないのだろう? そうならば断罪されるべきなのは――」

「いいえ。わたくしは――率先してミチカ様に不適切な行いをしたことはありませんが、そのようなことをする方を止めたこともありません。知りながら放置したのですから上に立つ者の行為としては不適切。自分でやったも同然――わたくしの罪です」


 食い気味で否定された。


 そう……なの? 


 まあ、止めなかったのが不適切ってのは――広い意味ではあるかもしれないけど、自分ではやってないのに? それって自分に厳しすぎない?


「――それに殿下のお眼鏡にかなわなかったのはわたくしの罪です。どうぞ刑を言い渡してください」


 追加が来た。


 えええ~? なんでそこで遜る?


 よくわからずにゆっくり首を振る俺に、プリシラが言いつのった。


「殿下はさきほど『君は、どうしたい?』とお尋ねになりましたわね――わたくしの望みは刑を言い渡されてこの場を去ることです。一秒でも早く。さらし者になるのは好きではありませんの」


 きっぱりはっきり、だな。

 ふむ? それもそうだろうけれど――これってさ、君を断罪したら後で俺が困るってパターンじゃないの?

 う~ん。


 内心で大いに首をひねりつつ、プリシラを見つめる。答えは割とすぐに出た。


 つまり、この公爵家の令嬢は――エドワードに見切りをつけた、ということか。こんな王太子の相手はごめんだって――そうだろう。

 確かに、この賢いお嬢さんにこのぼんくら王子は不釣り合い。うん。それならそれでいいんじゃないか――。


 ただし、エドワードの中身が、俺でさえなければ。


「それならそれでもかまわないが――」


 そう言いながらプリシラに歩み寄った俺は周りに聞かれないように声を落とした。


「現時点では君との婚約は解消できない。しばらく黙って見ていてくれるかな」


 俺の言葉に、プリシラの表情がおおいに揺れた。

 驚愕。って感じ。それが怒りに変わって、さらに何か――よくわからないけれど、嫌悪ではなさそうだな。もっとこう――明るい――まさか期待、とか? まあ、それはあとでいいや。


 俺はくるりとプリシラに背を向けて自分の背後を見た。


 参謀役のウェイン、魔術師系のアンガス、体育会系のザッカリーが抜けて、ショタ枠のアレックス、教師枠のハロルド――はいないか。富豪枠のスティーヴ。癒し系のフレデリック。あと、エドワードの弟のクリストファー。

 それから今回の騒動の下手人ミチカ嬢――おそらく転生者。


 俺にわかるのはそんなもんか――ま、じゅうぶんかな。


 まずはミチカ嬢に向き合った。


「さて――君はこの先どうしたい?」

「エドワード様! それはもちろん、わたしはあなたといつまでも一緒です! このネックレスを頂いたのですもの!!」


 うるうるお目目で訴える。


 うん。そうだろうね。


 目を見開いた少女のふわふわのピンクの髪が揺れる。


 頭の中身もこんな色なんだろうなあ。かわいいのに。残念。


「その言葉――信じてもいいのかな?」

「もちろんです! わたしにはエドワード様だけですっ! ずっと、一生あなただけ――何があってもわたしの気持ちは変わりません!」


 へえ。そうかな。


「それは嬉しいな――そんなことを言ってくれた人は今まで一人もいなかったよ」

「エドワード様……そうなんですか? 婚約していらしたのに、なんておかわいそう――」


 つぶらな瞳は――流石ヒロイン。無駄にかわいい。

 だけど、やっぱり俺としては乙女ゲームより美少女ゲームの方がいいな。こう、ちょっとドキッとさせたり期待させてくれるラッキースケベな展開とかもかなりあるし。やたらとイケメンが出て来ることもないし。


「一生私だけ?」

「……はいっ!」


 ちょっとためらったものの、ミチカ嬢は言い切った。


「誓える?」

「もちろんですっ!!」


 力強い即答が安っぽく聞こえた。

 自分一筋って言ってくれたことは嬉しいんだけど――その反対に頭の一部がどんどん覚めていくのは、やっぱりもとがゲームで相手が転生者だってわかってるからかな。


 さっきのプリシラにも負けない作り笑顔を作った。これが本当の俺なら妹の亜季には「アヤ兄キモッ!」とか言われるんだろうけど。

 プリシラ冤罪の疑惑も出たことだし、ヒロインが転生者だってのは恐らく確定だし……さっきからヒロインを見るたびに思う『かわいいな』って感覚――ここはやっぱり、確認しておかないとね。

 だって俺、このゲーム、ヒロインとして(・・・・・・・)プレーしてるから。


 確認したいのは好感度アップの裏技――ゲームだと、課金で買えるチャームの魔術ポーションを使われたやつがどのくらいいるかだ。そして使用者であるミチカ嬢がその効果を消す一言を口にするかどうか。


「でもさ、ほら――」そう言って周りを示す。「君に熱をあげてるやつら、たくさんいるよね?」

「そんなこと――そんな。わたしの心変わりを疑っているんですか? エドワード様……」


 うるうる。

 安定のかわいらしさに絆されそうになったけど、ぐっと堪えた。


 そっちも転生者なら、これは狐とタヌキの化かし合いだ。


「そうじゃない――私は嫉妬しているんだろうな――ミチカがあんまりかわいいから」


 なんか、言ってて鳥肌がたちそうだけど、ミチカ嬢は――嬉しそう……妹の亜季もだけど、この子もこういうの好きなんだな……。


「エドワード様……嫉妬なんてしなくても、わたしにはあなただけですっ」


 それはどうも。


「じゃあさ、この場でみんなに聞こえるように言ってくれる? ここにいる男たちはみんなただの(・・・)友人・・――友達・・だって」

「え……」


 躊躇う様子に確信する。いるよな、絶対。


「言えないの? 私が贈ったそのネックレスをつけているのに?」


 ダメ押しに胸もとの青い石にそっと手を伸ばして、まったく柄じゃないけど悲しそうな顔を作ってみた。

 絶対妹には見せられないな。一生ネタにされること間違いなしだ。


 それでも目の前の相手には効果があったらしい。

 ミチカ嬢の頬が染まった。


「う……うう……わかりました。エドワード殿下のためなら――ええ。ここにいる人たちはみんなただの(・・・)お(・)友達・・です!」


 パリン


 お。


 なんか薄いガラスが割れたみたいな音がした。

 チャーム、解けたか。


 まわりを見回すと、夢から覚めた顔をしているイケメン集団――なんか自分自身もさっきより楽になった感じがする――大きく息を吸った。


「ミチカ嬢。大丈夫。世の中にはあなたにピッタリのもっと素敵な男がいる――」


 ここはさっきのミチカ嬢の台詞をそのまま使わせてもらった。


「え? えええ!? エドワード様っ!?」

「ここにいるのはみんなただの友達――そう聞いた」


 右隣――ウェインを見て「聞いたな?」と聞くと、ウェインは眼鏡の端を押さえて「はい。確かに」と感情のない声で答えた。


「え? え? えええっ!? ちがっ! 違います――わたしが言ったのはエドワード様以外の男の人たちはっていう意味で――だって、この宝石を贈られたんだもの、これをわたしが身に着けていれば婚約同等の効果――解呪の言葉を言ってもチャームは持続するはずじゃ――」


 いろいろ口走ってくれてありがとう。やっぱり転生者か。


「ウェイン。聞いたな?」


 もう一度聞くと、「はい。確かに」と今度は冷気交じりの声が返って来た。自分たちが魔法のアイテムを使われていたことに気づいたらしい。


「罪状と刑罰を述べよ」

「王族及び貴族に対するチャームポーションの使用――国外追放もしくは金貨千枚で国内追放か一生涯の幽閉に減刑が可能です。警備兵! リンドレイ嬢を捕らえよ!」


 うんうん。


「えええっ!? そんな、エドワード様っ!! やめさせてください――この宝石をくださったじゃありませんかっ。やめてっ! わたしは未来の王妃なのよ!! どうして――」


 訴えるミチカ嬢を見つめる。

 ちょっと気の毒になった。


「うん――ごめんね。それ、偽物なんだ」

「――え」

「君の家、あんまり裕福じゃないだろう? 今までに私が贈った品物もお金に換えたものがあるよね? ああ、いや、責めてるんじゃない――それはいいんだ。むしろそうしてもらえればと思っていたし――だけど、さすがに今回のやつは万が一にもそんなことになっては困るから、本物は渡せなくて。すべてがうまくいったら交換できるように準備はしてあったんだけど――エドワードはさ、君に惚れてはいても――そこはやっぱり王太子だし?」

「何――何を言ってるの? だって、わたしちゃんとハーレムルートで攻略してたのよ!? それなのに最後の最後で悪役令嬢はすんなり断罪されないし、エドワード様からあんな台詞が出ちゃうし――だけど、嫉妬するエドワード様の困り顔最高――寂しそうな顔も――すっごいがんばって平均攻略したから成功特典かなって――それに他の人たちのチャームが切れてもエドワード様が残るならそれでもいいかって思ったのに――なんなのこれ!?」


 いろいろ駄々洩れしてる。

 うんうん。がんばったんだな……全部無駄骨だけど。

 流石に気の毒になった。


「できそうなら愛妾の一人くらいにはしてやりたいけど……さすがにちょっと無理。それにしてもハーレムルートだったとは……ずいぶんとおそろしい選択をしたもんだ。これは追放するより目の届くところに置いた方がまだマシか? ――うん。王族の愛妾扱いで後宮に幽閉がいいかもな。相手は俺じゃなくてもいいだろうし――とはいえ国王のってわけにはいかないから……祖父かな」

「……え? え? え? えええ!? ちょ、エドワード様っ!?」


 ――ま、それが妥当だろう。そう考えながら弟のクリスの肩を叩く。


「今回の騒動の責任は私にあるようだ。従って刑を受けるべきは私であると判断した。王太子の地位はお前に譲るし、プリシラの婚約者の地位も――彼女がそれでよければお前に譲る……ああそうだ、お前はミチカ嬢には近づくなよ? これからは何をもらっても受け取るな。私自身は彼女には近づきたくもないが、『何があっても』『一生』私だけだそうだし、今回の件についてはまだ聞きたいこともあるから完全に回避はできないだろう――お前も彼女が、全員『ただのお友達』って言ったのを聞いたな? あの頭の中身がポヤポヤの令嬢は国にとって邪魔にしかならない。後宮に幽閉できないようなら修道院に入れた方がいいだろう――他にいい案がないかはもう少し考えるが、国王には私から話しておくから――ええっと、これも悪役令嬢の幽閉ルートってことでいいのかな――」


 そこで言葉を切ってプリシラに向き合うと、呆然とした顔――口が半分空いてるのが、さっきまでとは全く違っていて、かわいい。


「そういうことで、すまないが君との婚約は――解消するにしてももうちょっと待って欲しい」


 公爵令嬢はその言葉にはっとして俺を見上げて、「エドワード……様、なの? なんでそんな、嘘でしょ……」って呟いた。


 まあね、中身別人だし?


 もう一度クリスの方を見る。


「クリス――私は父のところに行くから――ここは任せる。後のことはプリシラと二人で話し合ってくれ。ウェイン、補佐を。――じゃ、そういうことで。衛兵――リンドレイ嬢を連れて行け」


 どう考えてもミチカ嬢はこの国には不要。こっちの公爵家のお嬢様はたぶん重要。あとは俺が自由になれれば――そのためにはミチカ嬢とは後でじっくり話さないとな――残りはどうでもいいや。


 ひらひらと手を振って足取りも軽くその場を後にする俺の背に「どういうことおっ!! エドワードおおおおおっ!!」って、なんか野獣のようなヒロインの叫び声が聞こえたけど、素が出たかな。

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