32. 彼女を作るのは難しい その二
絶対におかしい。
おかしいと思う。
自分のステータス画面を見ながら唸るのが日課どころじゃなくなった――「これ、間違ってんじゃないのかよ」「あの鳩ポッポが出鱈目言ってたんじゃないのか」って呟きもそう。
だって、俺のカレントジョブが本当に『外見に極振り』してあるなら――少なくとも何人かは(まともなのが)釣れてるはずだ。そうじゃないとおかしい。
だって外見だけは絶世の美男子なんだから。
そんなことを考えながら鏡を見れば、相変わらず自分で見ても腹が立つほどムダに整った容姿。
乙女ゲーの王子(第一攻略対象者)を張るイケメン。それこそ金を払って相手をしたいって女性が現れたっておかしくないハズ――なのに、逆ナンでさえ成功しないとかっておかしい。
ちなみに今いる国のそこそこ大きい街(出会いが多そうだから)にそれぞれ三日ずつ滞在して一巡りした――最後の街に着いたところ。
これまでに声をかけられた人数は余裕で四桁に達しました。
……それなのに彼女はまだできてない。っていうか、まともなお茶さえもできてない。
これはもう、絶対に何かあるハズだ――逆ナンが成功しない理由が。
次々声をかけてくれるんだから、やっぱりこの顔はオッケーなんだよ。顔は。
「となると問題は性格としか思えないんだよなぁ……」
って、そもそも声をかけてくるのはむこうの方なのに、そんな簡単にお断りされちゃうようなどんな凶悪な性格が滲み出てるっていうんだろう。なんか臭うのかな。まさか。
「だけど体臭とかって本人は気づきにくいっていうし……? でも、乙女ゲーのメイン攻略者が悪臭を放ってるとかありえないだろう?」
ドキドキしながら悪臭説を否定してもう一度鏡を見てみれば、見返してくるのは憂い顔のイケメン。
どう見たってモテそう――だけど去って行った人たちの中には鬼瓦時代の俺を見るよりも冷たい、刺さりそうな目で睨む女性までいたのだからよっぽどなんだと思うんだけど――。
鬼瓦でもダメだったのにエドワードでもダメって、俺ホント呪われてる?
だけどログには何も出てないんだよな……これってどゆこと?
諦めるわけにもいかないし、ルーシアさんには簡単に呼ぶなって言われたし。
「『一つの国に少し長めに』って助言をもらったから、あれからこの国の外には出てないんだけどな~」
しかたないので今回も広場の噴水のところにあるベンチに座ってみる――この国ではちょっと大きな街の中心には広場があることが多い。近くには教会やマーケットがあって出会い&憩いの場になっているのだ。
「それにしても、これだけ惨敗するとかってなんなんだろ……」
今日はフードは下ろしたままにして、少し周りの様子をうかがうことにした。
若者の姿はそれなりにあって、声をかけたりかけられたりもけっこうある――けど、基本的に男性が女性を誘う。そして成功率は低い。
ほとんどの人がその場限りの誘う会話そのものを楽しんでいるって感じだ。誘い言葉とともに花を渡されたりすると女性はすごく嬉しそう。笑顔で交わす短い会話――花は受け取っても誘いは断っていいらしい。
手持ちの花を渡してしまった若者が広場の片隅で花を売っている少女のところに行って新しい花を買ってくる。そしてまた違う女性に声をかける。
まったくめげていないのが気持ちいいな。
どうやら花一輪の値段は大したことがないらしく、男たちは次々と花を買う。
それに、よく見てみたらさっきの若者の場合は声をかける相手も様々で、それこそ幼児からBB……いえ、祖母や曾祖母的な年齢の女性にまで花を渡して短い会話を楽しんでいる――そういうところがあの鳩ポッポの言うところの恋愛系……乙女ゲーなのかもしれない。
俺もそうした方がいいのだろうか。いや、俺にはあんなふうに笑顔で手当たり次第に女性に声をかける技術はないな――それに探しているのは幼児やおばあ様ではなく『彼女になってくれる子』だし。
このところ毎日のことなんだけど――またしてもため息。
そろそろ自分から声をかけてみるべきだろうか。あんなふうに花を買って。
だけど、いや、でも、やっぱ、ううう。
これまでさんざん声をかけてもらったくせにほぼ全員から断られた。
失敗数が鰻登りで増えたせいでかなり腰が引けている。しかたない。だって四桁に達する女性に軒並み断られるとかって鬼瓦だってたぶんあり得ない……とにかく誰だって怖気づくってもんだ。
結局、腰が引けている俺は今日も自分から女性に近づくことはやめて顔を隠していたフードを取り払った。
そしてこれまでと同じようなことが繰り返される。
つまり、誘ってくれるのにその先に発展しない。
いい加減泣きたくなってきたところの三日目。
もう、この国にいるのはやめて次の国に行こう。この国には縁がなかったんだ。
そう心に決めたところに声をかけてくれた十三人目の女の子――不吉な数字。だけど、さすがに辛くてちょっと涙目だった俺の目に飛び込んできたのは、不吉の文字をこの世から吹っ飛ばすかのような美少女だった。年のころは十七、八歳くらい。ふんわりした薄茶色の髪の毛が柔らかそうで、春の草原のような緑の瞳をしたものっすごくかわいい子だった。
エロゲーでいったら超ハイスペックな幼馴染の女の子とか――いるよね、登場の音楽とともにこのゲームの本命来たこれって感じの子。
……かわいいだけに、これまでの女性たちみたいに「はい氷河期突入しました~」みたいな目で睨まれたらダメージもでかいだろうな。……うん。この子もダメだったら絶対この国を離れて一からやり直そう。
ついそんなことを考えた。
声をかけられた広場の噴水の前で三分ほど立ち話。
にこやかでいい感じ――だと思う。それを言ったらこれまでの女性たちもそうだったけど。
「立ち話もなんだし、お茶、どう?」
って、そのくらいは言えるようになった俺の言葉に彼女が頷いて歩き出す。
「どっか入りたいお店ある?」
もう一度聞いた俺の言葉に、この街の中ではごくありふれたタイプのカフェで、道路に面したオープンスペースにパラソル付きの椅子が並んでいる店の名前を言う。
「いいよ。行こうか――」
昨日も一昨日も、なんなら今日の午前中にも行った。そんなわけで道順はばっちり頭に入っている。
歩き出したら、彼女が足を止めた。
?
少しだけ様子をうかがうような顔でこっちを見上げてる。
上目遣い、かわいいな~、じゃなくて。どうしたのかな。まさかもうフラれるとか――だとしたら最速かも。マジ泣きしそう。
「……やっぱりお店を変えてもいい?」
その希望にほっと息を吐く。なんだ。
「いいよ。どこがいい?」
安堵で一もにもなく賛成した俺に、ちょっとためらってから彼女が答えた店の名前は『ルシェ』。この街ではちょっとこじゃれた場所にある、やや高級なカフェだった。
利用するのは基本的に裕福な商家の奥様方や貴族様――平民仕様の俺はこれまでその店に誘われたことはなかった。ちょろっと入るには敷居が高い。
そんな店に行きたいってことは――つまり外見スペックのやたらと高いエドワードを連れていれば普段よりは入りやすい、ってことかな。
そう思って俺はちょっとだけ考えた。もちろんそこに行くのが嫌だったわけじゃないし、懐事情も問題ない。
だけど、そういうことなら今の自分の格好と彼女の恰好は――俺の恰好はギリギリアウトだ。彼女の方も――髪の毛はあげて、町娘らしい生活感のあふれるエプロンはたとえ似合っていても外してもらわないと。
ミチカとプリシラにいろいろ言われたし、仮にも王子として過ごしていた経験もある。だから店による格式や作法ってやつはそれなりにわかるのだ。
「わかった――だけど、あそこに行くならその前に寄りたいところがあるんだけどいいかな?」
首を傾げた彼女に説明する。
「心配しなくても大丈夫。大通りのお店でいくつか買い物をするだけだから」
必要なのは俺の靴と上着(これらは買った振りをしてアイテムボックスから出せばいいんだけど)。後は彼女の髪を留めるための櫛だ。
素直に頷いた彼女と歩く。
庶民にはちょっと高級な紳士服店に入って、彼女には「ちょっと待っててね」と声をかけて店員と奥に引っ込んだ。
彼女にとっては想定外の高級店だろう――きょろきょろとあたりを見回している様子を棚の隙間から確認。店員に多めのチップを渡して「着替え」に店を利用することを詫び、事情を――これからルシェに行くことを話し、彼女の髪をあげて留めるためのアクセサリーを注文。ついでに髪を結ってくれる人も頼めるか――と聞きながらさらにチップを上乗せすると、やっぱりそこはそれなりの高級店の従業員。「かしこまりました」と頷いて、あっという間に出て行った。
かくして、「お待たせ」って俺がタイミングを見計らって出て行ったときには、彼女の方も(困惑顔ではあったけれど)完璧に仕上がっていた。




