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28. アホ王子をやめられない その一

 そして予定通り冒険の旅へ――のハズが。


 ステータス・ウィンドウを忌々しく見つめる。


 名前「エドワード・アーサー・J・アシュトン(ストーリー終了後に変更可)」年齢「一八歳」性別「男」ステータス「正常」そこまでが横一列。

 その下に、ベイシック・ジョブ:「未定」そこまで、まったく変わりなし。

 そしてその隣。カレント・ジョブ。


 『外見に極振りしたアホ王子(一応・・元)』


 ……忌々しい。


 ちなみに(一応・・元)って文字はあの二人と別れた後でいつのまにか付属されていたんだけど、見れば見るほど腹が立つ書き方だと思う。

 何が「元」なのか。外見は変わってないから アホが? 王子が? 両方が? しかも一応・・。一応って何さ? 

 そしてこのカレント・ジョブが何をやっても変えられないことも、実に腹立たしい。


 ちなみに名前も変えられていない。ついでにいえば、国からもあんまり離れられてない――ものすごく不本意。


 母国(?)でいいのかな、の外には出られたんだけど、回ってみたらなんか近隣諸国ってどこもみんな似たような感じらしくて、城下町なんて妙に小ぎれいで浮ついた、そんなところが多くて――つまりどこも乙女ゲーチック。


 俺が望むような国がない。


 あの二人と別れた俺は、まずは母国から離れて遠くの国へ――転移魔法を繰り返して国境をいくつも越えて、どっかの国の王子が失踪したとか廃嫡されたとか、そういう話題はどうでもいいだろうって場所にある冒険RPG的な国へ移動しようと思っていた。


 ミチカとプリシラの二人が苦笑しながら「餞別だ」と言って渡してくれた乙女ゲーにしては質素な旅装を身にまとって、一応旅人に見える程度の荷物も背負って。

 国によっては生活様式が随分違うって聞いていたし、冒険者が多い国もあるっていう話だったから、心機一転新しいストーリーとやらを始めようという計画で。

 遠足に出る子どもみたいにそれはもうドキドキワクワクしていた。


 それなのに。


 一体どういう仕組みなのか、俺は五つ先の国の国境から先へ進むことができなかったのだ。

 山の中にある国境線らしきところのギリまでは行ける。なのにそこから進めない――見えない壁のようなものに阻まれて、何度やってもダメ。

 転移魔法での国境越えも徒歩での国境越えもダメで、とりあえず諦めた俺は、普通の人たちが使う検問所がある国境の街に行ってみた。

 検問所の様子を窺う――普通に抜けて行く人たちがいる。

 おだやかで特に問題はなさそう。

 ということは、国境の向こうにも国はあるんだろうし、戦時中で通行規制があるとかじゃない。


「な~んで、俺は越えられないのかな?」


 ぼそっと呟きながら街の様子を観察する。

 さすがに一般の人たちのように手続きを踏んで抜けるわけにはいかないのはわかっていた――国境なのだから絶対人物チェックがあるし、そこで名前やものすごく(・・・・・)不本意なカレント・ジョブが出たらその場で身バレだ。それに、たとえ身バレなしで手続きができたとしても山の中同様にガッチリと物理的に国境越えを阻まれたりしたら、ものすごく怪しい人間。

 俺が透明な壁に阻まれているところが他の人間にどう見えるのかはわからないけど、不審人物なのは間違いない。


 検問所を睨みつつしばらく悩んだ俺は、とりあえずもう一度人気のない山の中に移動して――あの人を呼んでみることにした。


 そう、あのお騒がせな自称神様。


「ルーシアさ~ん!」


 ……。

 空を見上げて待った。が、返事がない。


「ルーシアさ~ん?」


 ……もしかして忘れられた? それか見捨てられた? それともあれも全て夢だった? なんて思い始めた頃。


「こんにちは~! その節はありがとうございました! あの二人は無事エンディングを迎えて幸せそうで、私の評価もうなぎ上りでっす! ふふ~ん♪ 転生は本来の人生で不条理な苦しみを味わった人や、本来なら楽しめたはずの人生を失ってしまった人たちへの救済措置。とはいえ、そういう亡くなり方をする人ってけっこういるし、一つのゲームをベースにした世界内に複数を送り込んで一気に幸せにしちゃうのってなかなか難しいんですよね~、あの二人はどっちも転生後まで不幸になりかかってたんで、ホント助かりました~! 私の人選、バッチリ! やっほう!」


 って記憶通りのものすごく賑やかな声で喋る、白い鳩が飛んできた。

 ちなみに予想通りというかなんというか、鳩になった身体もひどく落ち着きがない。

 『評価』とか『救済措置』とか、なんか妙に現実感のある裏事情を暴露されて反応しきれない俺を見て、鳩は目をぱちくりさせて(もともと目が丸いから実際のところは不明だけど)いったん黙ってからまた口を開いた。


「あ、ごめんなさい! こっちのことばっかり喋って。今日呼ばれたのは――そっか、オプションが決まったんですね! 五個、なんて言っちゃったからちょ~っと上から睨まれてたんですけど、『こんなに短期間で二人もハッピーエンドにできるならアリだな』って上司に言われちゃいました。へへっ」


 嬉しそうだけど、『上司』とか、いるのか。自称でも神様なのに。


「どうぞ! どんなオプションがいいですか?」


 羽を開いてやる気満々。なんだか後光が射しているように見える――鳩だけどな。

 だけど、「いえ、オプションが決まったわけではなくて」って俺が言った途端。


「他の用事で呼ぶのはダメです! 説明したでしょう!?」


 って怒りの声。

 それに対する俺の返答も怒り交じりになったのは当然だと思う。


「他の用事で呼ぶのがダメだってことも、ステータス画面のことも、もちろん(・・・・)俺のカレント・ジョブが『外見に極振りしたアホ(・・)王子』だってことも、一切・・説明されてませんけど?」


 ムッとしたまま言った。


「あ!」


 あきらかに『しまった』って感じで白鳩の目が泳いだ。羽の先で嘴を押さえてるのは……鳩だけど人っぽいな。


「あ――あ~、しません、で、したね……」


 そしてじりじりと後ずさる。そんな鳩に、俺が名前やジョブが変えられないのはなぜかを聞こうとしたら、

「説明は今しました。ステータス画面はもう使えるようになっているようですし、問題ありませんよね。じゃあ、ちゃんとオプションが決まった時に呼んで下さい」


 って言って飛び去ろうとしたもんで、


 待てよゴルア!


 って、そこはそんな感じで捕まえた。


「説明責任を怠った分、質問に答えろ!」


 しっかり強要。逃げられてたまるか。


「ミチカとプリシラの了解をとってきっちりエンディングを迎えたのに俺の名前とジョブが変えられないのはなんでだ? それにここの国境を抜けられない理由も!」


 白い鳩ポッポは俺の手の中でじたばたしつつ、答えた。


「そんなの当たり前――何のための転生だと思ってるんですか!? あなたのストーリーが終わってないからに決まってます! 乙女ゲーなんですよ!? 極上でラブラブのハッピーエンドになってないのに終了とかってありえない――名前が変わらないのも当然です!」


 は?


「既にそれだけいろいろスキルを持っててどうして相思相愛の彼女ができていないんですか! あの二人はちゃんと新しいストーリーに向かって踏み出したっていうのにあなたは――つまり終わってない! そんなあなたは当然アホ! そのままじゃない!! 名前もジョブも変わるわけがないでしょう!!! 手を放しなさい!! 失礼なっ!!!!」


 もう、鳩にはあるまじきスピードと強さ――キツツキかお前は! って感じでガンガン手を突かれて、おもわず緩みそうになった手を慌てて締める。


「やめろ、突くな! 痛い! 突くなよ! ちょっと待て――最後まで説明しろ。もう一つ聞いただろ! 俺がここの国境を越えられないのはなんでだよ!?」

「それだって当然です! あんまり離れたら全く違うストーリーに入り込んじゃうかもしれないもの! まあ、この周辺は行けども行けども似たような恋愛系の国ばっかりですけど。あなた、転移魔法をラーニングしたでしょう!? 規制を外したらどんな世界に行っちゃうか――追跡するほうも大変なんです。今月は後五人呼びこまないといけないし――あっちで悪霊になられたらものすごく困るんですよ! ただでさえあっちの現実は辛いことばっかりで過労死や自殺者とかも増えてるのに。とにかくさっさと手を放して――私だって忙しいんですから!」


 怒鳴りながらも突く突く。やめれ。

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