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27. もう一組の進展

 なのにミチカは今のところその誰にも靡かない――自分への好意がわかる大きな明るい茶色の瞳で見上げられれば俺だって正直悪い気はしない。妹にしか見えなくても。


「いい子なんだよ。本当は」


 ウェインの言葉を肯定してコーヒーをまた一口。

 この世界をちゃんと生きようと思ったら、ハーレムルートなんて選ぶわけがない。一生懸命なのは元からの性格だろう。

 そう思いながらまた騎士の一人と談笑するミチカを見る。ギラギラもブリブリもしていない自然体は普通にかわいい。


 と、隣から息が漏れて――ふと視線を送ったその先ではウェインがなんだか複雑な顔をして同じようにミチカを見ていた。


 その顔を見ながら考える。


 ウェイン・アーネスト・サザーランド


 サザーランド伯爵家の長子で、公爵家や侯爵家の出ではないものの成績が飛びぬけて優秀なためにエドワードの側近となった――ゲームではクール・ビューティー(男だからビューティーってことはないだろう、と思ったけれど『美男子なのよ!』と、妹が評していた通りの美形)ポジ。

 で、そのまんま、見た目を裏切らないS設定。

 本人も賢い美女が好きだと公言しているため、攻略するにはある一定の知力(ゲーム内定期考査での成績)が必要。確かミチカもそんなことを言っていたはず。


 つまりこいつの好みドストライクって、プリシラだと思ってたんだけど。


 だけどゲーム内でも今回の旅でも、プリシラに向いたウェインの視線にあったのは執務に対する的確な助言に対する感謝と賛辞だと思う。

 そんなことを考えながらなおも観察していたら、ウェインの口の端がほんの微かに上がって、妹お気に入りの悪い顔に――獲物を見つけたってやつ――。


 はっとした。

 そういえばSなやつのお相手ってMなやつじゃないっけ?

 プリシラはどっちかというとSな方。


 で、今ここで一番こいつを怖がってるのって――ミチカだよな?


 だって、騎士たちから熱い目で見られているミチカが極力近づかないようにしているのが、隣のこの男。ウェインだ。あとはクリス。ミチカはこの二人に関しては過去にチャームポーションを使っちゃった負い目があるし、ウェインは明らかにミチカを毛嫌いしていたから。


 クリスには「ミチカには近づくな」って言ってあるのでクリス本人も近づかないようにしているし、食べ物も飲み物もプリシラが持って行く。

 ウェインにもプリシラが持って行く――プリシラの方が身分が高い上に王太子の婚約者なのでウェインは毎回恐縮するのだけれど、ミチカはちょっと怯えた感じでウェインとの距離を置いているし、プリシラにしてみればクリスのついでだし、かわいい妹分の頼みだ。二つ返事で引き受けていた。

 クリスの方はもちろんそれを喜んでいる。プリシラも、俺よりは世話の焼けるクリスにちょっと呆れ顔をしながらも優しく付き合っている……と思う。


 まあ、それはいい。

 小動物のようなミチカは確かにいじめがいがありそう――それにミチカ自身も俺がちょっと威圧的に出ると喜んでいたし――って。え。つまり本当にアリ?

 いや、俺は構わないけど。本人が嫌がらないなら。


「チャームポーションの仕返しも込めてきっちり泣かせてやるか……」


 って、極々小さな声で呟いた(プリシラのアビリティをラーニングしていなかったら聞き逃すところだった)後で、ウェインはハッとして俺を見た。


 その顔には『王太子の婚約者では手の出しようがなかった』というわかりやすい落胆が。


 ……つまりアリか。


「……きっちり落としてくれるなら、かまわないけど?」

「え?」

「だから、俺は別にあいつを必ず妃にする必要はないわけで……責任取って将来を誓い合ってくれるなら、いいよ?」


 俺の言葉にウェインが驚きの混じった困惑顔になる。

 だけど、俺の言葉に嘘はない。


 俺に対するミチカのアレは――やっぱこの『顔』のせいだと思うし。

 中身が誰であろうと、俺が外見『エドワード』で、あのゲームの王道だから。

 それって、ちゃんとした『好き』じゃないと思う――って、俺がそんなことを言ったら泣かれそうだけど、だからこそ俺もミチカをそういう対象として見られていないんじゃないかなって思う。


 ミチカが魅力的じゃないってわけじゃなくて、その気持ちは俺の何を見ての『好き』なのかって思ったら『外見』だろうなって最初に出るところ。あと、ゲームならたぶん王子がベストチョイスのはずだから、ってのも。

 こんな考えは贅沢なんだろうけど。


「……ですがそうなると殿下の側妃候補が――」

「そこはそれ。プリシラも喜ぶだろうし?」

「ふむ」


 俺の本意を確かめるように上から下まで眺めたウェインは結局そのまま頷いた。


「計画でも練りますか」


 って、鼻歌付きで去っていく背中が、ちょっと怖かった。






 そして、ジリジリじわじわと追い詰めるようなウェインの手に、困惑交じりのミチカがビクビクしつつMっ気を開発されていくようになった傍らで、俺は新たな事実に気がついた。


 それは、プリシラ(の中身のユウナさん)がエドワードに入れこんだ理由!


 中身が俺となったエドワードは、(チート付きで)今や本来のアホ王子とは比べようのない成長を見せている。

 そこに驚きを隠せないのが弟のクリス(とウェイン)。


 一応手を抜いた状態を見せてはいる。ラーニングしたいろいろって本当に便利だし、元のレベルがエドワードよりちょいマシ程度のクリスはどうしたって追いつけない状態だから。

 がんばって優位性を取り戻そうとしてくれてるんだけど、簡単にひっくり返されては成長に繋がらない。微妙なさじ加減であとちょっとで勝てそうなのに勝てない、ってやつを繰り返していたら、へなちょこの弟にはそれさえショックだったらしくてふてくされてしまった。


 いい歳だろうに、打たれ弱いのは坊ちゃんだからか?

 ちょっと運動部――はここにはないから騎士団か――の仲間にでも入れてもらって、少々しごいてもらってはどうかと思う。


 俺はそんなことを考えたわけなんだけど、これにはウェインも少々困り顔だった。

 確かに、俺よりマシだと思っていたクリスのあんまりマシじゃない現状は複雑だろう。

 だけど、その拗ね具合をものすごく喜んだ人が一人いたんだよね。


 そう。プリシラ。


 それは剣術の稽古で俺に負けたクリスが(わかりやすく)斜め下を見ながら「どうせ(・・・)僕なんて」と呟いた時に起こった。

 プリシラが、なんていうか、虐げられた小動物を見る目になって、「気にすることはありませんわ。年齢も違いますし、クリス様にはまだまだ伸びしろがありますもの」っていうお決まりの台詞とともにタオルを渡す。


 クリスが「ありがとう、君は本当に優しいね」と返し、信頼度百パーの視線で気弱に笑う。


「お兄様なのですからエドワード様の方がもっと手加減をするべきなのですわ――」


 そこで、くるりと振り向いた時のプリシラの顔。

 あと握った両手。

 台詞をつけるなら『これこれ、これよっ!!』って感じのその二つには見覚えがあった。


 ヒロインに気弱な顔を見せるエドワードのアップを見た時の妹だ。あいつ、こんな世界に来たオレにとってここまで役に立つとは……できるものなら落とし玉を倍額で進呈したい。


 つまりプリシラの中身のユウナさんは『自虐系のできない子』がドストライク――どおりでエドワード一筋だったわけだ。なるほど納得。

 時に持ち上げ、時に突き落とし、しようのない手のかかる子だと思い込ませ、大きな成長をしないように操る――エドワードが最後までアホだった理由、半分以上この人のせいって可能性もあるんじゃ?


 ふんふん、と頷いていたら当のプリシラと目が合った。


 途端に俺に思考の内容を把握したらしい。さすが才女。

 俺と目が合ったプリシラの頬がかーっと一気に赤くなり、それ見て何を勘違いしたのかクリスが絶望的な表情になった。


 無言のまま目だけで促してやると、そのクリスを見たプリシラがわかりやすく目を潤ませる。


 自分が手の届かない存在であると考えて、我が身の不甲斐なさをひしひしと感じて落ち込んでいるだろうクリスの状態を内心でかなり喜んでいるプリシラは怖……いいえ、なんでもございません。

 だってクリスの機嫌を損ねるのとプリシラの機嫌を損ねるの、どっちがマズいと思うかって聞かれたら考えるまでもなく圧倒的にプリシラだし。


「プリシラ――この後ちょっといいか?」


 そう声をかけると、プリシラははっとしたように俺を見て、それから困ったように笑って頷いた。


 そんなわけで、ウェインに言った『俺は別にあいつを必ず妃にする必要はないわけで……責任取って将来を誓い合ってくれるなら、いいよ?』ってやつの逆バージョン。


「俺は『できない子』に戻ることはないと思うし、乗り換えるなら今のうちだよ?」


 ってやつを展開してみた。


「歳が若い分落としがいがありそうですよね……躾けも……エドワード様にはできなかったし」


 そう呟いてうっとりと空を見つめるプリシラは、なんていうかやっぱり怖……いいえ、なんでもございません。


 そんなわけで、無事三カ月間の査察が終わるころ、きっちりと落とされて(ハッピーかどうかは俺の目にはわからないけど)エンドを迎えることに全く不満のないミチカと、今後の展開にワクテカで同じくエンドを迎えることに心から賛成してくれたプリシラと、今や俺の仲間となったウェインとクリスの協力の元、俺は出奔――いや、失踪することになった。一人旅になるのがちょっと残念ではあるけれど、ラーニングできるものについては全てラーニングさせてもらったので、旅の仲間がいなくてもどうにかできると思う。


 ……あの領地にこっそり寄って、いろいろ教えてくれた美人のお姉さんを連れて行こうかな。

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