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24. そこはいらない

「どういうことだ?」


 その晩。

 自室にと割り当てられていた領主の部屋(一番いい部屋を王族に譲るのが普通らしい)に足を踏み入れて固まった。


 すっかり寝支度の整った二人が特大のベッドの上で待っていたから。


「そこは協議の結果です」


 って、何を冷静に、プリシラさん。


「だから~、領主さんとしては、ここにエドワード様が来たからには、そういう(・・・・)お相手の女性を、ってことになるらしいんですけど、わたしたちが来ちゃったから迂闊にそういうお相手は引っぱり込めないじゃないですか。……だからどうしたらいいかって話になって、そしたらプリシラ様がみんな一緒でいいからって……」


 ミチカが説明してくれたけど。


「だからって、その提案を飲むのはおかしいだろ!? いくら正妃予定と側妃予定だからって結婚前の婚約者(しかも複数)を寝室に連れ込むわけにはいかないだろう!!!!」

「大丈夫です。納得してくれたみたいでしたし」


 プリシラはすっきりと言い切ってるけど。


「んなわけあるか!!」

「ほらやっぱり~。エドワード様はそういうと思ったんですけど、プリシラ様が……」


 浅慮でミチカが言い張るならともかく、つまりこれはプリシラが言い出したことらしい。


「どういうことだよ?」


 同じ質問をまた繰り返す。

 プリシラは悪びれる様子もなく肩をすくめた。


「暗殺防止には手っ取り早いかと思いまして。それに仲良くなるにもちょうどよい機会かと――」

「前半はともかく後半は明るい時に――」

「だって明るいうちは査察と執務ばっかりなんでしょう? そう聞きました!」


 今度はミチカが唇を突き出した。

 この二人、本当に仲良くなってる。


「そうだけど、そもそも査察ってそういうやつだし」

「私たちにだって癒しがあっていいと思いませんか?」

「……」


 それは、俺が癒しに足る、とそういう……? いや、エドワードなら足る、のか?


 黙った俺の返事を何ととったのか、二人がニンマリする。


「……なんか釈然としない」


 ボソッと呟いた。


 そもそも俺はもとが鬼瓦系で、中身は変わってない。なのに外見がエドワード(これ)だってだけでそのし扱いは――。

 確かに癒しはあったっていいと思う。

 だけど、この場合(国内を査察して回っている王太子である)俺の癒しの方が重要ではないだろうか――うん。


「二人とも。癒しは大切だとは思うが、まず第一に、俺は疲れているし、安眠を必要としている」

「だから?」

「夜はちゃんと眠りたい」

「……いいですよ。襲わないって約束します」


 プリシラの言葉にミチカが頷いたけど、ちょっとためらったな――。


「眠っている間にちょっかいを出されたくないわけだが――、とすればここににとっての癒しはあるのか?」

「エドワード様が手を出す分には構いませんよぉ?」


 違う。


「じゃあ聞くが、この場合の二人にとっての癒しとは何だ?」

「……エドワード様の寝顔鑑賞会? ともすれば寝相も?」


 やっぱり。


「観察されながらの睡眠のどこに癒しがあるんだよ!? せっかく二人が来てくれたおかげて女性を送り込まれる心配がなくなったんだから、俺は安らかに幸せに眠りたいの! プリーズ・ピースホースリープ!」

「えええ、そこで英語とか使わないでください~、わかんない」

「ミチカ、それ中学英語よ」

「だから、私は中学の途中から入院したんですって!」

「ああ、そっか……」


 って、そんなのはどうでもいいし。


 ガックリため息。


「とにかく俺は何にも悩まされずに眠りたいの!」

「寝顔くらいいいじゃないですか、どうぞ?」


 って、二人の真ん中をポンポンされても困る。

 第一着替えてもいないし、女性の目があるところで着替える習慣はない。荷物の入ったカバンの方に目をやったら。


「あ、もしかして着替えにお手伝いがいる――」

「いらん!!」


 しかし、すでに寝支度が整っている二人を部屋から出すわけにはいかないし。


 くるりとあたりを見回して――洗面所になっているはずのドアを発見。

 風呂やトイレのためのよくある狭い小部屋なのだが、うまくすればその奥にはもう一つ大きな部屋があるはず――そこは。


「ちなみにクリスは? あいつはどうなったの? どういう部屋割り?」

「隣の奥様の部屋じゃないですか? 次に広いところだし」

「……あっちも女性つき?」

「さあ? ……あ! ダメですよ、エドワード様! 私たちより他の人がいいとかって言ったりしたら私たちの面目丸つぶれなんですから――」

「そんなもんは求めてない」


 とりあえずカバンをひっつかんで洗面所のドアを――。


「うわっ!?」


 開けたら、誰かが転がり出てきた――? あれ?


「お前、何やってるんだ?」

「ええ、と。何か騒いでるみたいだったから――」


 言い淀む様子の、弟。


 うむ。それで俺がこの二人を引っぱり込んで何をやってるかが気になった、と。


「それは悪かったな――結構声が響くのか?」


 そう聞きながら小部屋の反対側にある女主人用の部屋を覗く。領主の部屋に比べればちょっと狭いけどそれなりに広いし、ベッドも大きいし居心地は良さそう。


「クリス、お前ウェインと同室か?」

「え、え!? まさか――ウェインは従者だ」


 部屋の中の二人の恰好のせいかちょっとだけ頬を赤らめたクリスが小部屋に戻って来た。

 別に露出の多い格好ではなかったんだけど、ここの人たちはそもそもそういう格好自体を人に見せないし――前世での体操着とかの方がよっぽど出てる――純情なことで。


「よし、じゃあ、今日から俺と一緒な」

「え!? 兄上と? 俺が!? なんでっ!?」

「……俺にその二人と一緒に寝ろ、と?」

「え、あ……いえ、そういう意味では……」


 また頬が赤らんだ。その首元を掴んで引きずると、案外簡単に部屋に入れることができた。


 弱っちいなこいつ。もうちょっと鍛えるべきだな、うん。


「ええええ、エドワード様、それってどういう――」


 ミチカの声が追いかけてきた。


「いいか、俺には自衛の手段があるし、二人の立場はあくまでも『婚約者』だ。俺の気が変わって解消されたら人生アウトになるような行動はナシ。寝顔の観察もナシ。こっちの部屋のドアを越えたら強制的に送り返す――その先の話もナシ、だ」


 これでよし、と。


「いや~、お前が隣でよかった。どうしようかと思ったよ」


 クリスになら何を気にする必要もない。

 さっさと着替えよ。

 と、なぜかクリスが驚いた顔になった。


「なんだよ?」

「……」


 無言のままのその視線の先は――俺の、腹か。


「ああ、筋肉がついた? 毎日馬乗ったり鍛錬したりしてたらそりゃこうなるって――お前ももうちょっと絞った方がいいぞ? 今回みたいな査察で馬車しかダメ、ってのは周りが大変だからな」


 清浄魔法で一気に身体を綺麗にして新しい衣服を身に着ける。

 すっきりはするんだけど、風呂に入りたい――あったかい風呂ってホント癒しだよな~。

 そんなことを考えながらさっさとベッドに入ったらもうあくびが出る――念のために警戒はする。クリス本人にもわかるように自動守護オートプロテクトの魔法――これもプリシラからラーニングさせてもらった――に加えて反撃カウンター・アタックも。そっちは査察に出たおかげでラーニングできたアビリティだ。


 こうしておけば、万一襲われても一撃死ってことはないだろうし、まず(隣の弟には)襲われない。


「……兄上、は」

「うん?」

「……」


 続く言葉がこない。


「なんだよ?」

「彼女、たちを、その……」


 言い淀む様子に心当たりは一つ。

 こいつは食事の時にプリシラと楽しそうに話していた。俺がいないひと月の間に何が芽生えたか。


「どっちも大事に思ってるよ。慕ってくれていることはありがたいと思うけど、立場を利用してどうこうとは思ってない」


 返事はなかったけど、なんとなく空気が和らいだような気がした。

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