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2. お決まり――なんだよな、これ。

 足もとに床があることを確認し――ゆっくり目を開いた。

 広間に集まった煌びやかな人々の頭。こちらを見つめる目が半数。もう半数は広間の中央を見つめている。


 なんだ、これ!?


 呆然とする自分の左腕がぐっと引っ張られた――誰だ?


 パチパチと瞬きをしてから見おろせば、


 うわ。めちゃくちゃかわいい。


 小柄な美少女――とはいえ体つきはもう大人といって差し支えないだろう――が両腕でしっかりとしがみついていた。


 ええっと?


 こちらを見あげる明るい茶色の大きな瞳は潤んでいて、自分一人に世界がかかっているとでもいうように一身に見つめている。のは、悪い気はしないし、いいんだけど――この子髪の毛が……ピンク、だ。


 どぎついピンクではないけれど、柔らかい感じの桃色で……生え際もピンクだから、まさかと思うけどこれで地毛……じゃないよな、絶対。


 で? 誰?


 ……。


 ま、当然だけど俺の頭の中には答えはない。で? どうする?


 ……。


 とりあえず残りのみんなの視線が向かう方向に自分も視線を送ってみる。

 そこにいるのは一人の女性。こっちもかなり美人――凛と立つ姿は一輪のバラのよう。


 銀色の髪。こちらをひたと見つめる濃紺の瞳。まるで冬の針葉樹のようにあたりを払う凛々しさがある――けど、その色の組み合わせ、本物か? そして誰だ?

 そんなことを考えていたら、彼女のもぎたてのサクランボのような唇が小さく震えて、動いた。


「つまり、そういうことでよろしいのですね」


 美人は声も美声だ。こちらを見据えたままでの問いかけはつまり、自分に向けられたものだと思っていいのだろうけれど、何がどういうことでよろしいの?


 訳の分からない質問に返事ができるはずもなく、『そういうこと』とはどういうことなのか――この状態で頭を働かせてみるも、なんにもわからん。


 視線を外して――そこで気がついたのは周囲がやたらカラフルだなってことだ。髪の色と目の色と服の色――無茶苦茶カラフルでキラキラしい。目が痛い。


 なにこれ、何のお祭り?


 考える。

 ここはどこで、自分は誰だ――じゃない。自分は黒川礼人くろかわあやと。某国立大学四年生、夏休み。就職が決まらずちょっと焦りぎみ――で、ここだ。


 つまり?

 全っっっ然一致しない。


 つまり?

 夢か。夢だな。

 うん。それなら、いいか――アレ?


 なんかつい最近……ものっすごくつい最近同じことを考えたような。

 そして主体不明の自称神様と妙な会話を交わしたような。


 疲れてんのかな俺――。


 首を振ってもう一度周囲に目をやったら、今度はものすごく顔面偏差値の高い集団に囲まれていることに気がついた。

 腕にしがみついている少女も、広間の中央に立つ女性も無茶苦茶きれいだし、スタイルもいい。

 そして自分の両隣――そして背後も見てみたら、これまたびっくり、いたたまれなくなるほどのイケメン集団がいた。


 即座に思う。


 あ――これ、むっちゃくちゃ嫌な集団だな。

 俺、こんな中に立ってるの、最悪。


 自分はただでさえ人より体格がよくて威圧的に見える。さらに、父親譲りのいかつい中の下の容姿と凛々しい(・・・・)眉毛――そこはあくまでも凛々しいと主張させてもらう。就職活動が難航しているのはこの見た目のせいではないだろうかと半ば本気で思っている。

……これらのせいで、今の俺は引き立て役どころか、虫けら並みに見えるに違いない。


 長々とため息。


 さっさと目、覚めないかな。もしくはシーン変更プリーズ。


 そんなことを思っていたら、斜め横の黒髪の男と目が合った。

 なんか、視線で何かを求められている感じ。でも何を?


 反対を向いたら、今度は銀髪の男と目が合った。

 こっちも何かを求めている感じだ。


 え~~~~? 速やかな目覚めを祈る以外に俺に何をしろと? 

 面倒ごとに巻き込まれんのは夢でもメンドイ……ただでさえ就職も先が決まらなくて焦ってるとこなんだから、疲れるのはカンベンだ。


 って、思っていたらまたぐっと左腕を引かれた。


 美少女がさっきよりもますますしっかりしがみついている。

 お前はコアラか? いや、小さいころの妹みたいだな。


 あ~、亜季あき、起こしに来てくんねーかな。


 四つ年下の妹は高校生で、将来はゲームクリエイターになりたいとか言っていて、卒業後は大学ではなく専門学校への進学を目指している。

 夏休みもパソコンに向かっているか携帯かテレビに――つまりいずれにせよゲーム機に向かっているかで、けっこうテレビの奪い合い。そして必ずプレイしたゲームの感想を聞いて来る。


 ジャンルは幅広くて、バトルから落ちゲー、恋愛までとなんでも知りたがる。流石ゲームクリエイター志望……俺が夏休みなのをいいことに、どのゲームのどこがお薦めか、その理由は、などとレポートを取り、しまいには自分秘蔵の女性向けゲームまで持ってきて、そんなもんやったって俺はちっとも楽しくないのに――アレ?


 なんか、ひっかかったな。


 捕まれていない方の手を顎に当てて、ちょっと考える。

 これ――なんか似たようなシーンがあったような……気がする。


 妹に『男性側の正直な感想が聞きたいから是非』と言われて、とりあえずプレイしてみたあいつお気に入りの乙女ゲームとやらのビッグイベント――。主人公が意中の王子の手を借りて、それまで散々いじめられた王子の婚約者の令嬢に意趣返し――で、令嬢は国を追われて、主人公は王子様とラブラブのハッピーエンド。

 胸が悪くなるようなゆるくて甘々の物語設定に、「なんでこんな糞ゲーを目をキラキラさせながらできるんだよ? 気持ち悪ぃ。こんな男世界中どこ探したっていないだろ」とはっきり感想を述べた。


「アヤ兄がエロゲーすんのと一緒でしょ~? あんなボヨンボヨンでやらせまくりの美女だって世界中どこ探したっていないわよ」


 はっきりした(そして女子高生にあるまじき)感想が返ってきた。

 うむ。納得した――のは置いといて。


 今は、これどうすんの? ってとこだ。

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