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15. 大小だけなら

 国王側の出方を見るためにも、婚約の解消は伏せておいて様子を窺った方がいい。

 結局プリシラにそう言いくるめられ、俺たちは見た目は仲睦まじく一緒に馬車に乗って城に帰る――とまあ、そういうことになったわけだ。

 整合性のある話だと思ったし、俺にこの世界の常識がないのは確かだし。

 何より、簡単に首切りされるのは嫌だもんね。俺はあくまでも穏やか~に、攻略されることも暗殺されることもなく、この国からとんずらしたい。


「話し合いの結果、決断を下すのはもう少しお互いのことを知ってからの方がいいのではないか、ということになりました」


 プリシラをエスコートしたままそう報告した俺を見て、国王は満足そうに頷いた。

 なんか、『やっぱりそうなったか』って感じ?


「つきましては彼女との時間を多めに取りたいのです。とはいえ、務めをおろそかにするつもりはありません。今日からは午前の勉学の時間と午後の休憩時間を共に過ごしたいと――構いませんか」


 国王がこれにも頷く。目が嬉しそうだ。


「プリシラはミチカ嬢のことについても、きちんと話し合いたいと言ってくれました――本人も交えて」


 最後の一言にピクリと国王の髭が動いた。


「本人も? あの娘と話したい、というのか?」


 ちょっと疑いの顔になった国王に、俺は(他の人間もいるので王子モードで)プリシラに言われたまんまの説明をした。


「はい。今回のことでプリシラがとても心が広い女性なのだということがわかりました――ミチカ嬢の使っていたチャームが解けたせいもあるのでしょうが、本当に目が覚めた思いです。

 プリシラに諭されました。『ミチカ嬢は男爵家の出自ゆえ正妃に据えるにはバックグラウンドが弱すぎる。どうしても妻にしたいのならば正妃ではなく側妃にするべきだ』と。

 私は誤解していたようなのです。――プリシラは私の側に他の女性が存在することを認めてはくれないだろう。そう考えたからこそ私はあのような行動に走った――けれど彼女は、自分が正妃になる必要性と側妃の存在は別だと――そこは広い心で対応しても構わないと言ってくれました。

 その辺りも含め、改めて事の顛末を理解し、それぞれの言葉を聞いた上で自分の身の振り方について落ちついて考えたいと思います」


 そう言って退室の許しを求めると、国王は鷹揚に頷いた。

 仲のいい感じでプリシラと頷き合って国王の執務室を退出する。

 執務室から十分に離れてから、プリシラに声をかけた。


「――上機嫌だったな」

「でしょう? 昨日の騒ぎをもみ消して、本来通りの流れに――彼らにとって一番いいのがそれですもの」

「だけど、あの国王本当に――俺のこと婿出し要員とか……その、思うように扱えないならいっそ――」


 殺してしまえとか、思ってたのかな? って続けようとしたら、プリシラに遮られた。


「城の中は壁に耳あり、ですわよ? その辺りはごゆっくりお考え下さいませ。ミチカ嬢にもお聞きになるといいかと思いますわ」 


 怖いな、おい。 

 

 次はミチカのところだ。

 転生云々の話は他の人間には話せないし、全部自分で足を運ばなければならないので結構不便。


 当然だけど、国王とミチカの居場所は遠い。

 都心の距離が近い地下鉄の一駅分ほどある。

 俺と国王の居住場所も結構離れている。近くにいて国王と王太子が一緒に襲撃されることがないようにという警備上の配慮らしい。同じ理由で弟クリスの居住区域も遠い。

 結局どこに行こうにも足が重要――魔法のある世界なのにね。


 魔法が使えるのに、残念ながらここには通信魔法のような物はないらしい。プリシラによると、手紙を紙飛行機のように折って魔力を込めて飛ばすと相手に届けられる、という魔術具があるそうだ。ただしこれがけっこういい加減で、途中で魔力が切れると墜落するし、虫取り網のようなもので捕獲もできる……子どものオモチャ以上の役割がない、なんだよそれ、って感じの代物だった。


「携帯が欲しい……」


 呟くと、もっともだ、という感じでプリシラも頷いた。


 ミチカは――反省室の中で暇していた。王太子の俺が朝から動きまわっているというのにいいご身分。


「エドワード様!」


 それでも俺に気づくと格子の向こうから嬉しそうな声をあげ、たたっと駆け寄ってきた。

 チャームが切れてもそこはヒロイン。やっぱり安定のかわいらしさがある。

 だが、通路が狭いために俺の後ろからついてきていたプリシラを見て、笑顔が一気に不満顔に変わった。


「ごきげんよう、ミチカ様?」


 って、挑発するように言ったプリシラが俺の左腕を取る――昨日の逆だ。

 さすがのナイスバディ。ミチカに腕を取られた時はどちらかというと押し付けられたって感じだったけど、こっちは挟まれた……じゃなくて埋まった、って感じで、まさしく豊満――じゃなくて。


「ちょっと、それやめて――ミチカもそうだけど、すぐ触るのナシで。攻略しようとするなって言ったぞ?」


 引き抜こうとした腕をプリシラがきつく締める。埋まる埋まる。思考も止まる。


「エドワード様を攻略しているわけじゃありませんわ。これは単なる嫌がらせですもの」


 ふふふふ、という笑い声に、ミチカが怒鳴った。


「何よ、乳牛みたいな胸をして! 下品よ!」

「あら羨ましいの? ヒロインなのに貧相でかわいそうね。ほ~ほほほ」

「貧相!? そんなわけないでしょ、これでもCは余裕――」

「まあ、それじゃあ周囲の人間に埋もれるはずだわ。せっかく転生したっていうのにお気の毒……」


 格子を挟んでやり合うプリシラの(全く気の毒そうじゃない)憐れみの声とミチカの怒りで赤くなった顔。品性のかけらもないやり取りに、ようやく俺の思考力が戻ってきた。


 どうにか腕を引き抜く。


「俺をダシに使うな――そういうのは二人でやれよ」


 気持ちいいのはともかく、うるさいのはゴメンだ。


「いいか、ミチカは出してやるけど、これはあくまでも『俺たちが理解しあうための時間を持つ』ためなんだから、ケンカ腰ばっかりだとここに戻されるぞ。それにプリシラも、『とても心が広い女性』だって国王には説明したんだからそのつもりで――」


 預かった鍵を出しながらそう言うと、ミチカの顔が明るくなった。


「出ていいのね! やった! 絶対助けてくれるって思ってました!」


 はいはい。


「出ていいけど、そういう設定になったから、プリシラとけんかするなよ。今日はもうあとちょっとしか時間はないけど、学院を卒業したエドワードは午前中が勉学及び執務、午後は魔術と剣術の鍛錬が日課なんだそうだ。俺たちは午前中を一緒に過ごし、午後はお茶の時間以外は基本的に別行動――その後のことはまだ聞いてない」

「あら、『これからはどこに行くにしても必ずわたくしをお連れになって下さいませ』って言いましたよ? もちろん午後も一緒です」

「え?」

「だったらわたしも一緒です――! あなたたちを二人っきりになんか、絶対させないんだから!」

「いや、そこで争わないでくれる? 午後は魔術と剣術だって言っただろ? ミチカもプリシラも必要ない――」

「剣術はともかく、魔術はここでは必要技能ですよ!!」


 格子扉から出てきたミチカが俺の右腕にしがみついた。


「そうね――」珍しくプリシラがミチカの言葉に賛成して、「わたくしには細剣(・・)のスキルがありますからそちらを伸ばすためには剣術も必要です。すべての鍛錬と執務、勉学にお供いたしますわ」と続けて、にっこりと冷たい笑みを浮かべた。


 細剣……それは暗殺の腕を磨くという意味だろうか。


「だったらわたしだって――剣術というにはお手軽だけど、小刀(・・)のスキルは磨きたいわ!」


 小刀……それって「包丁」だったりしない?


 ふふふ、ほほほと笑い合う二人は、結構気が合っているように見える。


「――あのさ、とりあえず放してくれない?」


 いつのまにかまた左腕はプリシラの胸の中に嵌ってる。そして戻って来たはずの思考力が飛んでいく――勘弁して。


「そっちが離さないうちは絶対放しません!」


 ミチカが言ってますますきつく胸を押し付ける。

 やめれ。

 と、プリシラがちょっとだけ腕を緩めて俺を見上げた。


「いいですわよ? ――一つ質問に答えてくださるなら、今後も控えるとお約束しますわ。ただし、正直に答えていただけるなら」


 プリシラの言葉、なんだか圧があると思う――でも、今後控えてくれるのはものすごく助かる。


「一つでいいんだな?」

「ええ」

「よし。答えたら放せよ?」


 プリシラが嫣然と微笑んだ。


「どちらのサイズが好ましいとお考えですの?」


 え。

 それは、さ。

 おもわず視線を逸らす――。


「正直に」


 絶対答えわかっててやってるだろ、お前。


「…………プリシラ」


 満足そうな笑みとともに左腕が自由になった。遅れて右腕も。


 だってしょうがないだろう? 内面に大差ないなら外見って話になるし、押し付けられるやつより埋まるやつに惹かれるのはもう、性っていうかどうしようもないわけで……。


 『やっぱりそうなんじゃない!』って妹の声が脳内に響いたような、気がした。

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