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10. 新たなる事実

「何? ねえ、何か面白いことが書いてあったの――?」


 興味津々のミチカの声にびくりとして――こんなものを人に見られたくはない――俺は慌ててそのステータス・ウィンドウなるものを背後に庇った。

 ミチカは特に何でもないような顔でこっちを見ていて、俺の顔を見て笑う。


「大丈夫、ステータス画面は――というか他の画面もだけど、普通は他人にはインビジブルだから。ビューをアクティブにしないと何が書いてあるのかは他の人には見えないんだって――」


 そう言いながら自分の画面をひっくり返す仕草をした。確かに外枠だけで何も見えない。ホッとした。


「閉じる時は「クローズ」で閉じるよ。アビリティがジョブの下で、振り分けられるポイントは――右下の数字ね。溜まるといろんなスキルに振り分けられるし、できることが増えるんだって。何ができるようになるのかは人によるみたい。オプションでもらってるやつはいらないから――戦闘系のゲームだとそういうやつを重宝するみたいだけど、ここはそういうのはまずいらないんだよね~。それにポイントを貯めるには経験値がいるみたいなんだけど……なんか方法があるらしくて、ここに三年いるけどわたしのはほとんど貯まらなかったの」


 そう言いながらミチカは自分の画面を消した。

 そういえば俺の行く先ではオプションもあんまり必要ない、みたいな話をされたっけ。だよなあ……乙女ゲーじゃなあ……。

 がっかりのため息が出た。だけどかぶりを振って方向性を変えた。


 きっと乙女ゲーだから増えないだけだ。そこはやっぱりバトルとか狩りをして増やすって方針……のはず。ここを出たら真っ先に挑戦しよう。うん。


「このベイシック・ジョブとカレント・ジョブってのは――」

「ベイシックってのが基本ジョブ。それこそ魔法使いとか剣士とか騎士とか村人とか――特別な手順を踏まないと変えられないやつ。カレントってのは詳細。そっちは割と簡単にチェンジ可能。例えばベイシックジョブが剣士で、カレントジョブが護衛とか暗殺者とか、ベイシックジョブが王族で、カレントジョブが国王やお姫様とか――たまにベイシックとカレントがかぶってる人もいるって聞いた。わたしのは『不屈のヒロイン』。だからアヤトさんのは『王子』でしょ?」


 ふむふむ。と頷いて聞いていた俺は、最後の一言にも遠い目をして頷いた。

 余計なものがついてはいても、王子に違いはない。


 しっかし、外見に極振りって……攻撃力とか、ホントに大丈夫なのかな。

 ゆっくりと首を横に振る。


「あのさ、さっきも聞いたけどミチカはどうしてもこのゲームでハーレムルートをやらないとダメなの? 今からってのはかなり難しいと思うんだけど――そこ、譲れない?」


 ステータス・ウィンドウの使い方を教わりながら、聞いてみると、ミチカは両手を膝の上に乗せて肩をすくめた。


「どうしても――って、ここに来た時は思ってたけど、今はそこまでは思ってないよ? やめろ、って言われたら残念だな、っては思うけど」


 そうなんだ。


「じゃあハーレムじゃなくてもいい?」


 ズバリ聞いたらミチカは眉を寄せてため息を吐いた。


「もったいないけど、別にいい――でもね、せっかくだからちゃんとした恋愛はしたいかな。今のこれだって、ちゃんとクリアして、納得できたら真剣に一人に絞るつもりでいたんだし。平等に攻略するのって結構疲れるし、やっぱり好みってあるんだよね」


 なるほど、ね。

 頭の色に反して中身はけっこう常識的だったか――でもさ。


「転生してるって自覚があるなら最初からそっちを選ぶべきだったんじゃないの? 今やほぼ犯罪者――はっきり言って悪女だよ? ハーレムルートじゃなくていいなら俺は助かるけど、誰を相手にするかって話は重要――」

「……」


 かなりきつく睨まれた――なんだよ。

 その目つきはどういう意味だ、と思いながら見つめ返す。


「……だから、選んだはずだったのに……いまさらだけどね」


 小声のせいで前半はよく聞こえなかった。けれどミチカがボソッと呟いた言葉でわかったのは、最後の最後で俺がブチ壊したから怒ってるってこと――だろうな。


「あれはしょうがなかっただろ? まさかプリシラが冤罪だとは思ってなかった」


 ため息付きでそう言ったら、ミチカがすごい勢いで格子に飛びついた。ガシャン、と金属が音を立てる。


「冤罪なんかじゃないわよ! あのお嬢様ってば、本当に陰湿で――扇の陰からの陰口なんてカワイイもんじゃなかったんだから――エドワード様が本人なら知ってるわ! あの場でいじめが本当かどうかなんて絶対聞かれるはずがなかったんだから!」


 すごい剣幕で話し出す。


「わたしが池に落ちたのは、プリシラが落としたんじゃなくって一緒にいたミリアム――侯爵家の令嬢が足を引っかけたせいよ! どうせ証人だってその人だったハズだわ。水をかけたのはショーンって子。同じくプリシラの取り巻きでクリスを狙ってる伯爵家の令嬢。ホリーなんて平民出のくせに――平民出だからか実行犯役が多くて、教科書やノートがなくなったり汚されたのは殆どあの子のせいだと思う。

 エドワード様だって見ていたでしょう? あの子が学院の焼却施設から出てきたところ――って、ダメか。アヤトさんだった――よりによってあそこでエドワード様が別人になるとか、ホント最悪……焼却炉の中に半分燃えたわたしの持ち物があったのも一緒に見たんだから。そのあとでホリーとプリシラが楽しそうに話しているところだって。だからわたしの証人はエドワード様だったのに。なのに転生して中身が変わっちゃうとか……」


 おいおい。そうなの?

 びっくり事実だ――。目を丸くしてしている俺にミチカが言葉を続ける。


「確かにこのところ、プリシラは前ほど陰湿じゃなくなってきて、正統派の注意ばっかりされていたけど、だってヒロインとしてのわたしの振る舞いは……ハーレムルートで攻略するなら当然なのよ。――軽いボディタッチやチャームポーションの多用――そうでもしなきゃ絶対ハーレムで攻略なんてできないんだから!」


 つまりそこはやっぱりわかっててやってたんだな?

 なんか、やっぱり大人として注意したくなってきた。

 だけどまずは確認だ。


「つまり? プリシラは性悪ってこと? 俺は断罪しておくべきだった?」


 てっきりこっちのミチカが転生したことを有利に好き勝手やったんだとばかり。自分は攻略されたくはないけれど――悪いことをしたかな。

 ちょっと罪悪感が芽生えたところに、格子から手を離したミチカが言った。


「……そうだけど、追放させようとは思ってなかった。エドワード様を説得して幽閉で済ませようと思って――」

「ああ、寝覚めが悪いから?」


 俺もそう思ったんだよね。


「だったらなおのこと――うん。王位とプリシラの婚約者の地位はクリスに押し付けて――ミチカ、このゲーム、エンドにして新しいストーリーを始めよう。そのためにはここにもう一人いるっていう転生者を見つけ出して、エンディングに賛成してもらわないと」

「え? 私たちみたいな人、まだいるの?」


 驚いた顔になった。

 一番最初にここに来たミチカは知らないのか。


「ああ、俺が聞いたのは俺含めて三人だって話だ。わかってるのは名前――『ユウナ』だそうだ。女の子だよな――聞き覚えないか?」

「ない――名前は変更できるけど、わたしがこっちで会ったのはデフォルトの人たちばっかりだよ」


 顎に片手を当てて考えるその仕草は、広間で見た時のように中身が空っぽのヒロインには見えなかった。

 俺も椅子にきちんと座りなおして考える。


「つまり、名前を変えずに登場人物の一人として紛れ込んでるのか――俺みたいに」

「そういうことだね」


 探すのか――めんどくさそう。


「男のフリして入ってるとかじゃないよな……とりあえずあいつら呼び出して聞いてみるか――? あのイケメン集団……誰か怪しい子に気づいたやつ、いるかな」


 ポリポリと顎をかきながら考える。あまり期待できなそう。


「心当たりはないか? 半年ほど前のことらしいんだ」


 そう聞いたらミチカの眉がピクリと動いた。


「半年――そういえばその頃からみんなの攻略難易度が跳ねあがったのよ――その人が妨害していたからなんだ」


 新しい情報だ。


「怪しい女の子、いなかったか?」


 格子に詰め寄るようにして聞いた俺に、ミチカは余裕の笑みを見せた。


「ハーレムルートは諦めるって約束したらここから出してくれる? それに、私の推測が当たっていたら、ここから出て行く時一緒に連れてって」


 取引か。


「最初のやつはいいけど――一緒に連れて行くのは――」

「料理スキルと癒しスキル持ちよ?」


 にっこり笑う。


「……」


 それはなかなか――捨てがたいけれども。


「わたし、ここにいたら犯罪者なんでしょ? アヤトさんの向かいたいのは乙女ゲーとか関係なくて、冒険ができるような――わたしのスキル、役に立つと思うよ? それにわたしは庶民の暮らしも知ってるし――もちろん経験していないから全部じゃないけど。育ててくれたお祖父ちゃんとお祖母ちゃんとは切れてないから、頼めば何日かは泊めてくれると思うし――」


 ……確かに、いいかも。


「今回の騒動の責任を取って、二人で駆け落ちしました、ってことでどう?」

「……は?」

「だから、アヤトさんとわたし。すごく反省して、責任を取って二人でこの国を出るの!」


 いやいやいや。いいかと思ったけどいきなり何を言い出すんだ。やっぱり頭の中もピンクなんじゃないのかこいつ。

 急に高くなった声に呆れる。


「反省したってのはアリでも、そのあとはナシだ。なんだよ駆け落ちって――俺はそんな設定はごめんだ」


 格子から距離を取って斜めに引いた状態で見ると、ミチカは鼻の上にしわを寄せて不満顔になった――妹みたいだ。


「ちっ、ダメか」


 たいして気にしていない様子で文句を言う。それも亜季みたいだな。


「ダメか、じゃねーよ。ダメに決まってんだろう。中三なんて妹とたいして変わらない。っていうか妹より若い」

「だから、わたしはここで三年以上生きてるんだってば! それにエドワード様とは一学年差なだけ! 自分の年齢で考えないで!」

「それだって――転生後の人生でハーレムルートを選択するようなやつはゴメンだ」

「ええええ~そうした理由は説明したでしょ?」

「『ちゃんとした恋愛はしたい』んだろ? 安易に生きるな。せっかくの二度目のチャンスなんだから」


 大人として諭してやる。


「もう! エドワード様の顔で保護者顔しないでよ。幻滅しちゃう――」


 ふくれっ面も妹みたいだな。うん。


「とにかく、ここを出たいならそれについては国王に掛け合ってやる。ついでに出たらそいつの説得も手伝ってくれないか――できれば、でいいから」


 手伝いを頼んだらミチカはすげなく断った。


「それはダメ。わたしがいない方がうまくいくと思うからアヤトさんがやって」


 えええ。


「女同士の方がいいんじゃないのか?」


 お喋り好きだろうに。


「この場合は別よ。会えばわかるから、とりあえず会ってみて。確証が得られたら――後はがんばってね」


 随分自信ありげだけど正直メンドイ……でも、そういうことならやるしかない。


「で、誰?」

「――一緒に連れて行ってくれる?」

「俺を攻略しようとしないならいいぞ? 男関係のトラブルもナシだ」

「わざとじゃないなら? ほら、見た目がかわいいからナンパとかされるかも」


 へいへい。両手の人差し指を頬にやるやつ―――それはもういいよ。


「不可抗力なやつは許す」

「わかった。じゃあ教えてあげる――当然と言えば当然なんだけど、もう一人の転生者、それって絶対――プリシラよ」

こんな初期からブックマークと評価をありがとうございます! ものっすごく嬉しいです。やる気に直結してます。がんばります! 

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