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第19話 ルイーズ学院長の会議②

 ルイーズ学院長の声は震えていた。しかし、逃げるわけにはいかない。このディーボという少年を見ていると、なぜかそんな気にさせられた。


「……そして、学生魔導体術(まどうたいじゅつ)家は、対魔物のための、若い兵士と言えます」


 ルイーズ学院長は言った。


「もっと大きく言えば、魔王復活した際に起こると預言される、『魔導戦争まどうせんそう』のための若い兵士よ」


 ルイーズの言葉を聞いたディーボは、クスクス笑いながらうなずいた。


「フフフ、その通りですよ。ところで、そちらの持っている駒──。レイジ・ターゼット君ですが」

こま?」


 ルイーズ学院長はディーボをにらみつけた。人の学院の生徒を「こま」呼ばわり。この少年、一体、何なの?


「これから話すことは、レイジ・ターゼット君を優遇する、という前提で聞いてほしいのです」

「……どういう意味?」

「あなたのエースリート学院は、三ヶ月後、僕たち宮廷直属バルフェス学院に吸収合併される。つまりあなたの学校は無くなり、あなたの生徒はバルフェスに通うことになる」

「は? 何を言って──」


 吸収合併──大きな組織が、小さい組織を全部、取り込む。その時、小さい組織は無くなる。簡単に言えばそういうことだ。

 ディーボは続けた。


「レイジ・ターゼット君は特別に優遇します。バルフェスのランキングトップ10に入れてさしあげましょう。授業料なども免除」

「ディーボ、何を突飛とっぴなことを」

「ルイーズ学院長、あなたが今の話に背いたら──」


 ディーボは悪魔的な笑いを浮かべた。これが彼の本性か?


「あなたは魔導体術まどうたいじゅつ協会から、『追放』です。つまり魔導体術家まどうたいじゅつかを名乗れなくなる」


 ルイーズ学院長は、この恐ろしい少年に、何を言われているのか、ようやく理解した。


「冗談じゃないっ!」


 ルイーズ学院長は、机を叩いた。


「なぜ私たちのエースリート学院が、バルフェスに吸収合併されなきゃいけないの!」

「生徒を──学生魔導体術家を管理するんですよ、当たり前でしょう」


 ディーボ少年は、ハエをはらうような仕草を見せた。


「生徒……管理?」


 ルイーズ学院長は、口の中で繰り返した。


「魔物、そして魔王との戦争になったら──」


 ディーボが言った。


「学生魔導体術家(まどうたいじゅつか)を兵士として扱わなきゃならない。正確な管理が必要です。そのためには、宮廷直属の僕たちが、あなたたちの生徒を監理するのが一番です」


 ディーボの言葉を聞いたデルゲスは、ニヤニヤ笑っている。ルイーズ学院長はデルゲスをにらんだ。そうか、こいつら、仲間だったのか!


「近い将来、魔物との闘いを見越した決定です」


 ディーボは言った。

 ルイーズ学院長は、(吸収合併なんて言ってるけど、これは、私たちエースリート学院に対する『乗っ取り』じゃないの!)と声を上げそうになった。

 ──デルゲスは笑っている。ということは、デルゲスのドルゼック学院は!


「俺たちのドルゼック学院は生徒数八千人だ」


 デルゲスは言った。


「今回対象となるのは、生徒数千人程度の学校だけだ。すでにルバイン学院、ゾーグール学院、ライアス学院などの学院長は了承している。バルフェスの支配下に入ることを、OKしたぜ」

「そんなバカなっ」

「バカもへったくれもありませんよ。ルイーズ学院長。魔物と戦うことになるかもしれないのに。あなた方の生徒たちは、来年の四月から、宮廷が建設中の学校に通ってもらいます」


 ディーボはルイーズ学院長は、虫でも見るような目で言った。


「そもそも──。グラントール王国には、魔導体術まどうたいじゅつ学校が百八もある。これは多すぎるなぁ。これを六十程度にする予定です。僕たちが生徒を管理します」

「……絶対にゆるすことはできない」

「何がです? ルイーズ学院長」

「生徒を……子どもたちを管理することを、よ」

「仕方ないですよ、魔王と魔物と戦うことになるかもしれないのだから」

「そんな方法をとらなくても、良い方法があるはず」

「ないですよ、そんなもの」


 ディーボはぴしゃりと言った。


「ということは、ルイーズ学院長。あなた方エースリートは、僕たち宮廷やバルフェスに背くということ? 魔導体術まどうたいじゅつ協会に背くということ? それが何を意味するか……」

「『追放』ってわけ?」

「そうですよ」


 ディーボの氷のような言葉に、ルイーズ学院長は、くっと声を上げた。


「生徒たちを管理するなんて……私はのびのびと、子どもたちに育ってもらいたいわ。それに、生徒たちはそれぞれの自分の学院を愛しているはず。自分の学校がなくなったら、きっと悲しむでしょう?」

「悲しんだからなんだっていうのかなぁ?」


 ディーボはあっけらかんと言った。


「生徒なんて、おさえつけときゃ、黙って指導する側にしたがうに決まってる」


 ルイーズ学院長は、堪忍袋かんにんぶくろが切れそうだった。このバカガキが……!

 ここで暴れてやることもできる。しかし、ルイーズ学院長はぐっと我慢した。生徒たちは宮廷保養訓練施設で過ごすことを、楽しみにしているのだ。ここで何か問題を起こしたら、それがダメになってしまうはずだ。しかし……。

 デルゲスはニヤニヤ笑って、二人のやり取りを見ている。

 ルイーズ学院長は口を開いた。


「このお話は、バルフェスの学生が、我がエースリートの学生よりも強い、ということを前提としたお話に聞こえるわ」

「当然です。バルフェスの生徒は将来、僕を含めて、国王に仕える『宮廷護衛隊』になるわけだから。魔導体術まどうたいじゅつのエリート中のエリートですよ」

「もし、来年二月のグラントール大会個人戦で、バルフェスの子にエースリートの子が勝ったとしたら? それならば、我がエースリートは宮廷直属の子より、強いということになる」

「……ありえない」


 ディーボはルイーズ学院長をにらみつけた。


「そんなバカなことはありえない」

「ディーボ、あなたは確か、魔導体術まどうたいじゅつ指導長でありながら、生徒だったわね。今度のグラントール王国主催の個人戦、あなたは出場する?」

「出場します。しかし、悪いけど、僕には誰も勝てない。その前に、宮廷直属の生徒が、単なる私立の養成学校の生徒に負けるわけがない。エースリートがバルフェスに勝つなんて、そんなバカなことはありえません」

「バカなことがありえるわよ。レイジ・ターゼットが、あなたと、バルフェス学院の生徒を倒します」


 ディーボは首を横に振ったが、デルゲスはクスクス笑っている。ディーボは言った。


「僕は確かに、レイジ君の強さを認めています。でも、バルフェスの生徒に勝つなんて、百年早い」

「いえ、レイジは勝つわ」

おろかな」


 ディーボはため息をつきながら言った。


「ルイーズ学院長、わかりました。ならば、ルイーズ学院長、あなたは魔導体術まどうたいじゅつ協会から『追放』です」


 デルゲスは笑っている。


「おいおい、謝れって、ルイーズ」

「ところで我が校の生徒が、宮廷保養訓練施設に旅行する件はどうなりますか」


 ルイーズ学院長はデルゲスの言葉を無視して、ディーボに聞いた。


「まあ……それは認めましょう。すでに決まっていたことだし……。でも、そんな場合じゃないんじゃないですか、ルイーズ学院長」


 ディーボはまた悪魔のように笑った。

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