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サンタと猫

作者: kiki

12月24日、その日はサンタ村では大忙し。それぞれの仕事を朝起きたときからすばやく作業をしている。数分後にそのサンタも全世界に向けてプレゼントの配布をしなければいけなかった。


そのサンタ。名前をジョンという。サンタ村の中では中堅で人望も厚い。いやと断れない性格から無理をしてでも人の仕事もやってきた。しかし多くのサンタがそうであるように彼も独り者だ。

しかし彼は動物にも植物にも常に敬意を払ってきた。

「よし、出発の時間だ。」ジョンは時計を見るとそうつぶやいた。

「お前たち、帰ったら上等な肉を食べさせよう。だから元気に世界中の人たちの下へこのプレゼントを運ぶのを手伝っておくれ。」そりに乗る前に一匹ずつのトナカイに語りかけるとジョンはそりに乗った。

上空に来て進行方向を確かめたときだった。何処からともなくか細い泣き声がした。

荷物の間に挟まっていたのだろう。動き出したことでびっくりして出てきたのだ。

「君は誰だい?私が知っている猫じゃないな。何処から来たのだ?「

「にゃお。」猫はそれだけしか言わなかった。

まだ警戒心を解いていないと感じたジョンは自分だけ猫に語りかけるように話し始めた。

「乗り込んでしまったものは仕方がない。仕事が終わるまで君は私とともに空のたびを続けてもらうよ。その後で君の世話をしよう。ところで君の名前はなんというんだ?私はジョン。」

「私は名前なんてないわ。好きに呼んで頂戴。」

「そうか、ではココという名前にしよう。由来は・・ただ、なんとなく思いついた。そしてとても君にあっている。」そういうとジョンはココに向かって微笑んだ。

「サンタクロースって一人だけではないのね。あんなにたくさんいるんだもの。驚いたわ。」

「ははは、たくさんいてもサンタはサンタだ。君たち猫だってたくさんいるだろう?確かに良く見るとみんな違う顔をしているけれど、猫という名詞で片付けられてしまう。それと同じことさ。」

「私たちは種類が違うわ。どう種類の猫同士だって柄が少し違うとか、毛並みが美しいとか汚いとか」

「はははh、そうだね、おっと、最初のプレゼント配布だ。少し下降するよ。」

ココは黙ってジョンの作業を眺めていた。

「クリスマス以外は何をしているの?」ココが再び尋ねた。

「忙しくなり始めるのは11月下旬から。プレゼント管理局が開くからね。それで地区ごとに区別され、プレゼントを集める。」

「どうやって集めるの?」

「あはは、それは企業秘密だ。サンタクロースは魔術師で杖を振ればパッとプレゼントが出てくると思ってくれていいよ。」

「何それ、ずいぶんいい加減なのね。」

「猫の世界だって外世界に知られたくないことがあるだろう?それと同じさ。」

「私の質問には答えてくれるけれどあなたは何も聞かないのね?」ココはジョンの顔をまじまじと見つめながらたずねた。

「この世で生を受けたもの、すべてそれなりの生き方があって、すべてを聞くにはいたたまれることがあると私は考えているんだ。すべてを話してもいいと思ったら自分のほうから話しをしてくれる。だから私は聞かない。自分の経験を話しているだけだ。」

「ふーん、相手に対してリスペクトをしているのね。なかなかそういう人って少ないわ。」

「おやおや、いろいろな経験があるみたいだ。」

「もちろんあるわよ。だって私が最初に生まれたのははるか昔だもの。人間世界の本に私を題材にした本があるの。」

「へえ、それは知らなかったな。君はいろいろな経験をした猫なんだね。」

「私があなたのもとに来たのは私の話をするためじゃないわ。」

「え?どういうこと?」

「なんでもない。今の話は聞かなかったことにして。それよりもプレゼントを配るときの時間の経過を教えて。」

「君も見てわかるように、魔法を使っているわけではない。郵便屋のように地区別に分かれているからあちこちにいくこともない。25日が早く来る地域は、つまり我々の住んでいるところから遠いところはベテランが受け持つ。私は中間地点というところか。何も珍しいことではないよ。」

「今与えられた情報はあまり知らないほうがいいのかもね。なんかがっかりしたわ。」

「あははは、知らないことで興味をもつ。知らないままのほうが時にはいいこともある。」

「本当にそうね。プライベートの話をまだ聞いてないわ。クリスマスが終わってから仕事が始まるまで何をしているの?」

「トナカイの世話をしたり、自然と戯れているよ。たとえ植物、動物でも生を受けたものには心があると考えている。だったら相手にリスペクトして語り合う。花だったら咲いてくれてありがとう。大きな木だったら、日陰を作ってくれて、背もたれにしてくれてありがとうとね。」

「素敵ね。サンタがどうして出来たのか知っている?」

「君は猫がどうして出来たのか知っている?」ジョンはココが首を横に振るのを観てから続けた。「

私たちは多くの人に夢を与えるために作られたもの。元人間だったものも昔はいたらしい。夢を与えるためというのは実はとても大変な状況下なんだ。人間と一緒には住めない。だから私たちはこの地を選んだ。選ばされたというのが本当のところかな?自然と向き合って生きるというのは本来の生き方を歩んでいけるということだ。君たち猫ははるか昔からやっていることだよね。人間に近くなるとやれ、ハイテクだ、合理化だと自分が楽することばかりを覚えてしまう。神を推進するわけではないけれど、空気も水も植物もすべてをまわすことが出来るように神は作られた。」ジョンは暫くココを見てそしてゆっくりと話を続けた。「君はどうして私のところに来て私の仕事中にこういう話をするのか今考えているところだ。何かのメッセージじゃないかと。」

「メッセージ?そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。私にはわからないわ。」ココはあわてて言った。

ジョンは何も言わなかった。ジョンとココは暫く無言のまま寒空を飛んだ。

「寒くないか?」ジョンはココを見てそうつぶやいた。

「そうね、少し。」

「プレゼントも少なくなってきた。私のマントの中にでも入っているといい。おしゃべりはその中に入っていても出来るから。」

ココは素直に従った。

「昔の私は自分勝手で自分以外のものをリスペクトしない猫だった。愛を知ることで生き返る業はなくなったけれどそれでも何か足りなかったらしい。だからあなたの元に来たのだと思っている。あなたの話を聞いてそんなことを思った。」

「愛してるって言葉を言うために?」

「そうね、ジョン、短い間だったけど愛してる。」

「ココ、私もだよ。愛してる。」

ココはジョンの大きな胸の中で息を引き取った。ジョンはココのために涙を流した。


Pour toi

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― 新着の感想 ―
[良い点] サンタのジョンさんが猫のココちゃんに優しく接するところが良かったです。でもココちゃんが死んでしまったのが残念でした。
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