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台本風シリーズ

自由への飛翔(台本風改編版)

作者: 尚文産商堂

注意…実際は、状況を目で確認するため、文章は入れていないが、本作品するに当たり、その文章を[]で挿入してある。


凡例/

ナレーション…ナ/

人名…登場時以外最初の一文字(但し、1字で複数の人を表す場合は、2字表示)/せりふ(カッコ内は、心の声)


[6畳間、壁は花柄、ところどころはがれている、小さな隙間が一つ、部屋の隅に机、その前にクッション付の椅子、直角にベット、机の反対側に本棚、天井は蛍光灯1本]

アリス・クランドール/(本当に、誰も生き残ってないのかな…)

[メモを置く、一瞬暗転、すぐに、ご飯が出る]

[アリス、不思議そうな顔をする]

[アリスの顔から徐々に部屋全体を映しつつ、暗くする]


[アリス、ベットから起き上がる。彼を見続ける。

ちょっとしてから、彼も起きてくる]

男A/あれ?ここは…

[アリス、彼と目が合う]

ア/あなたは、だれ?

男A=クリス/僕の名前は、クリス。君の名前は?

[クリス、立ち上がって周りを見渡す]

ア/私の名前は、アリス。アリス・クランドールよ。あなたは、どこから来たの?

ク/ここではない、どこかから。僕も、他の人を見るのは初めてなんだ。

[アリス、驚く]

ア/本で書いてあったけど…この世界の人は全員いなくなっちゃったって…

ク/そんな事はないよ。だって、ここに僕達がいるじゃないか。

[アリス、笑う]

ア/そうね。確かに、そうよね。

ク/でも、ここは、どこ?

ア/私が、ずっと住んでいる場所。私が、記憶している最初の部屋は、ここではなかったけど、その直後から、ここに住むようになったの。お母さん、お父さんとも分かれさせられて、ね。

ク/似たような境遇だね。僕も、同じようなものさ。でも、君と違うのは、こっちは、もっと家具が少なかった。机もなかったし、棚もなかったな。

[アリス、ベットに腰掛ける。クリス、その横に腰掛ける]

ク/君は何歳なの?

ア/私は、8歳。あなたは?

ク/僕も8歳だよ。…僕達、どうなるのかな

[クリス、心配する。アリス、元気そうに言う]

ア/多分、大丈夫だと思う。

[クリス、アリスの横顔をみて言う]

ク/なんで?

[アリス、笑って言う]

ア/だって、これからは、あなたと私で、ここで暮らす事になるんでしょ?今までは一人だったけど、これからは、二人だもん。寂しくないからね。そう言えば、クリスの家族は、どんな人たちなの?

[クリス、アリスから視線を外す]

ク/実は、僕には、家族がいないんだ。この話し方だって、パソコンで身につけたものだからね。実質、僕で家族と呼べるのは…

[クリス、アリスの顔を再び見る]

ク/君だけだよ、アリス。だから、僕はこれから、クリス・クランドールって、名乗る事にするよ。


[さっきのとは明らかに違う、顔から下をほのかに照らしている部屋]

男B/なぜ、あのような事になったんだ?

男C/クリス、アリスの二人が出会ってしまった…

男D/この二人は出会ってはいけない二人。我々の監視が行き届かない出来事が起きているのか?

男E/それとも、我々は、何か過ちを犯してしまったのか。我らが気付かぬうちに。

男F/それは、これから分かる事。とにかくは、これ以上複数同居者を増やさぬように。それを、最優先目標とする。

男B・C・D・E/了解!

[男F以外、部屋から出て行く。男F、机に両肘をついて、ため息をする]


ナ/彼らが出会ってから1週間が経った。

[アリス、棚の所で、何か探している。クリス、椅子に座って、ボーとしている]

ア/ねえ、クリス。

ク/ん?どうしたの?

ア/ちょっと、これを見て欲しいんだけど…

[アリス、棚から分厚い冊子を引き抜く。180度回って、クリスに渡す。クリス、それの表紙を見て言う]

ク/自由への飛翔?これって…

ア/私の夢だったの。本を書いて、それを誰かに読んでもらう事。ほら、あそこ。

[アリス、クリスから見えるようにちょっと動いて、棚を指差す]

ア/あそこの中段に置いてあるものは、全部私が一人で作ったのよ。

[クリス、心から驚く]

ク/すごいね。ちょっと読んでもいかな?

ア/うん、いいよ。

[クリス、読み始める。アリス、その間暇になって、机に向かって何かを書き始める]

ナ/クリスは、すごい集中力で、数時間をかけ、その本を一気に読み終えた。

[クリス、本を閉じ、アリスに渡す]

ク/ありがとう。ひとつ気付いたんだが、この物語の主人公って、僕達なのかな?

[クリス、驚く]

ア/意識していなかったけど…そうかもね。私達が、この物語の主人公だとすれば、とても面白いわね。

[アリスとクリス、顔を合わせて笑う]


ナ/それから数週間後。クリスはアリスの棚に置かれていた彼女が書いた本ではない本を読んでいた。

[クリス、本をパラリとめくる]

ク/本当に、僕達だけなのかな?

ア/え?

[アリス、クリスの方に向く]

ク/この本、世界の真実って言う題名の本だけど、冒頭の文章、「世界って言うのは、本当に狭いものです。あの戦争の影響で、全人類の内、生き残ったのは、極々わずか。さらに、未知の疫病がはやり、誰一人対処できずに死んでいきました。生き残る事が出来たのは、アリス・クランドールという名前の少女だけでした」って書かれてるけど、元々、僕も生きているし、それに、僕が生きていると言う事は、誰か、また別の人たちも生きていても不思議じゃないよね。

ア/でも、他に誰がいるの?確かに、あの棚の上に何かを置いて、眠って起きたら必ず頼んだ物が置いてあるけど…

[クリス、ちょっと考える]

ク/じゃあさ、こう言うのはどうだろう…

[クリス、アリスに耳打ちする。アリス、クリスが顔を元々の位置に戻してからうなづく]

ア/それって、やってみる価値があるかもね。早速書いてみましょう。

[アリス、紙に何かを書き始める]

[書き終わると、いそいそと棚の上に置いて、そのまま二人ともベッドに入って眠る]


ナ/翌日。

[アリス、起きて棚の上を見る。返事があるのを確認して、クリスを起こす]

ク/昨日の手紙の返事。他の世界に人類がいるようなことは決してありません。あなた方だけが、最後まで生き残った人類です。我々は、人類を保護し、管理し、再び繁栄させるための特別機構です。

[クリス、手紙から目線を外し、アリスに向ける]

ア/どうしたの?

ク/特別機構って言っているけど、保護して管理して繁栄させることはないと思うね。

ア/どうして?

ク/だってさ、考えてみろよ。保護して管理するんだろ?保護されるのは、疫病から守るためだと考えれるけど、管理するのは、繁栄させるためじゃなくて、あちら側がやりやすいように調整するって言う事だろ?だとすると、こちら側は、何もする事が出来なくなるんだ。それに、そう考えると、僕が君の部屋に転がり込んだ事は、単なる偶然で、恐らく、またどこかに出て行く日があるだろう。

[アリス、ちょっと泣きそうに言う]

ア/ちょっと待ってよ。クリスは、どこかに行っちゃうの?また、私は独りぼっちになっちゃうの?

[クリス、アリスの頭をなでながら言う]

ク/大丈夫さ。いつでも僕はここにいるからな。もし、どこかに行ったとしても、君の心の中の僕は、ずっと笑顔のままだろう?だから、大丈夫。

[アリス、クリスの胸元に沈んで、泣き出す。クリス、彼女をやさしく抱きしめる]

ク/大丈夫、大丈夫。泣きたい時に泣けるのは、とてもいいことだから。好きなだけ泣けばいい。僕は、泣いている時、ずっと君を抱いてあげよう。

[アリス、そのまま泣き続ける]


ナ/再び、あの暗い部屋の中で、会議が開かれていた。ただ、前より人数が減っているようだった。

男D/クリス・クランドールは、この世界の秘密に気付いた可能性がある。

男E/だとすると、アリスも感ずいたかもしれないな…

男B/この二人は、世界に有害だ。どうするのが一番か…

男F/何もせず、何も手をつけない。これまで通りに接して、何事もないかのように世界を作り上げろ。

男B・D・E/了解しました。

[男B・D・E、部屋から出て行く。男F、部屋の中で、背伸びをしながらため息をつく]

男F/やれやれ、あいつらはどうするのが本当は一番なんだろうかな…

[男F、銀色の立方体の機械に対してぼやく]


ナ/それから3日後。クリスが起きると、部屋の片隅に黒い穴が開いていた。

[クリス、アリスを起こす]

ア/アリス、起きろよ。隙間が出来てる。

[アリス、おきて、部屋の端に目が行く]

ア/…あれって、なに?

ク/分からない。でも、僕達がここから出て行く事が出来る最初で最後のチャンスかもしれない。

[アリス、自由への飛翔の本を持つ、クリス、隙間に近寄る。クリス、リュックを背負って、アリスを待つ]

ク/ここから出ていくと、もう、ここへは戻れないかもしれないよ。それでも、行くかい?

ア/ここにいるぐらいなら、外へ冒険しに行くわ。

[クリス、笑ってアリスの手を引き隙間から外へ出て行く]


[一面の菜の花畑。後ろを振り向く。さっきの建物は見えない]

ク/僕達は、どこからここに出てきたんだろう…

ア/でも、とりあえず、先に進まないと。あの建物の人たちに捕まっちゃったら、また、連れ戻されるかも…

[クリス、アリスの手を引いて歩き出す]

ア/すごい…一面、菜の花畑…。

[蜂が、あちこち飛んでいる。アリスとクリス、菜の花畑の真ん中を通っていく]

ク/とにかく、どこかに行かないと…でも、この広い菜の花の中で、誰かに出会えるのかな?

ア/分からない。でも、この世界。本当にどうなっちゃっているんだろう…

ク/誰かに会えれば、その事も分かるかもな。

[二人、画面の向こう側へ歩いて去っていく]


[暗い部屋。あの人たちが、会議を開いている]

男B/さて、困った事になりました。

男C/我々以外の誰かが開けた隙間を通り、とうとう、クリスとアリス、計2名が、研究棟からの脱出に成功しました。今は、あの菜の花畑の中を歩いています。

男F/あそこか…見渡す限り、菜の花畑のあの場所か…

男D/別名、平和島と呼ばれています。元々の名前は、マンハッタン島だったと伝わっています。数千年前に、人類対ロボットの戦争が起きてから、その島に、世界平和のための世界政府の本拠地をおいた場所だと言われています。今植えられているあの大量の菜の花は、平和の象徴として、世界政府が認めて植えられたそうです。さらに、世界中で繁殖している白い羽をした鳩達は、それと時を同じくして話された平和の象徴としての鳩達の子孫と言われています。

男E/当時のロボット達から見れば、今の彼らは既に人間と同等になっているでしょう。この時分に作られたロボット達は、何を考え、何を求め、何にすがって生きているのでしょうね…

男C/ロボットと言う、一般的見地から言って生きているとは思われない存在に対して、生きると言う言葉は不適格では?

男E/いや、ロボットだって、自らの意思を持って自己増殖することが出来る。今の我らとて、それと変わらないではないか?相手側と自らの知識や情報を統合して作られた子供は、人間のそれとどこが違うと言う事ができるのだ?

男B/それよりも、誰があの隙間を作った事を考えるべきでは?あの実験棟に登録されているのは、閉じ込めている人間18人とロボット400機ですからね。

男C/外にいる、未登録のロボット達が、意識的に人間を助けたと言うのか?

男E/プログラムバグか何かだろうがな。

男F/こちら側には分からない事だ。とにかく、あの二人は、もう一度閉じ込める必要がある。何か案があるなら、ここで言って欲しい。

[誰一人として、声を出さなかった]


[夜、アリスとクリス、リュックから寝袋を取り出して、それを広げ眠るところ。足音が遠くから聞こえてくる]

ク/誰だ!

[クリス、足音が聞こえた方向に持っていた非常用懐中電灯の光を向ける。女性の人影が見える]

女A/待って!私は、あなた達の敵じゃないの!

ク/じゃあ、誰なんだ?

女A=若草久美子/私の名前は若草久美子。この菜の花畑がある、平和島の管理者よ。この島に久し振りにきた人間を見ようと思って、ここにきたの。

[若草、こっちに近づく。クリス、懐中電灯を彼女に当てながら言う]

ク/平和島って、どういう事だ?

若/それは、私の家に行きながら話すわ。こっちよ。

[アリスとクリス、寝袋をたたみ、リュックに入れ、若草について歩いて行く]

若/最初は、ここは、今から数千年前に、実際にあった、ロボット共和国に対抗する人類のために作られた砦のひとつだったの。でも、11人の英雄達と呼ばれる人たちによって、ロボット共和国と人類圏側の友好条約及び不可侵条約が締結されて、その砦の意味は失われて行った。その条約によって、人類の住みやすいと考えられる場所に人類が住んで、その他の地域にロボット達が生活をする事になったの。人類が生活するところには、人類圏の法律、ロボット達が住むところにはロボット共和国の法律が施行されるようになったのもその条約の影響よ。今では、すっかりその境目もあいまいになっているわ。なぜなら、ロボット共和国と人類圏を統合することを目的として、両陣営から代表者各11名による、合計22名の人類=ロボット政府が作られた。その10年後には、全ての地域がその政府の管轄下に入った。それが、今でも続いている、人類=ロボット国よ。そして、その首都として選ばれたのが、その最後まで生き残った、この場所だったの。今でも、ちょっと掘り返したら、人の死体がごろごろ出てくるわ。元々、この惑星の中でも最も経済が活発に行われていたこの場所は、人類=ロボット国の未来を順風満帆に生活するために必要だったひとつのメッセージだったのよ。焼け野原にならなかったこの場所に、最初は人類圏政府、その後、人類=ロボット国の首都がおかれるには十分すぎる理由だったのよ。当時、鉄が不足していて、すぐお隣のしまから廃墟になったビルを取り壊して作り変えていったの。今は、何物も残っていないのは、その後あった、さまざまなものが起因しているんだけど、今は、関係ないから省くわね。この地が首都として指定された後、当時の政府が、国花や国鳥を決める作業に入ったの。その時に、これ以上の戦争を防ぐために名づけられた名前が、平和島と言う名前に込められているの。ちなみに、その時に、この島に一杯うわっている菜の花を国花に決めて、白い鳩を国鳥に決めたと言う話よ。でも、この菜の花達は、この島にしかないの。他の島に植えられていたのは、徐々に衰退して行った。人類にほったらかしにされた菜の花達は、一人で生きて行く事が出来なかった。この場所には、その前に何もかも植物は抜かれていたから、生き延びる事が出来たの。いまさら、他の場所に植え替えてみても、おそらく、根付かずにそのまま枯れるでしょう。

[アリスとクリス、静かに、若草の話を聞いていた。若草、にっこり笑って続けた]

若/あなた達は、どうすれば、この世界から戦争や争いがなくなると思う?

[若草、答えを聞く前に、ひとつの穴の中へ入って行く。アリスとクリス、彼女について入る]

若/ここが、私の家よ。何もないけど、今日ぐらいなら、ゆっくり出来るわ。

[若草、突き当りの木のドアを開ける。中に人がいる]

男G/若草、だれだ?そいつら。

若/ごめんね。紹介するわ。彼は、私の兄の箱根宥嶽。兄さん、この人たちは、あの研究棟から逃げ出してきた、アリス・クランドールとクリス・クランドールよ。

男G=箱根宥嶽/そうか。これで、出て来れた人たちは、2人か。この数千年間で、初めてのことだったよな。

若/そうね。私達が憶えている限りね。

箱/やれやれだ。とりあえず、どうやって抜け出してきたんだ?

[箱根、コーヒーを入れて、若草に渡す。クリスとアリス、ちょっと目をあわして言う]

ク/いえ、僕達にも分からなくて…朝起きて部屋の隅を見たら、なんだか隙間が出来ていたから…

箱/あいつの仕業だな…

ク/誰が開けたか分かるんですか?

箱/いや、ちょっと、な。

[箱根、若草に目配せする。若草、うなづく]

若/とりあえず、布団敷いておくから、ちょっと待っててね。

[若草、別の部屋に向かっていく。箱根、アリスとクリスをテーブルのところにある椅子に座らす]

箱/さて、君達は、これまでになかった存在だ。なにせ、あの建物の中から出てこれたのは、君達が最初だからな。それで、これからどうするつもりだ?

ア/お父さんとお母さんを探したい。

箱/なるほどな。じゃあ、お父さんとお母さんの名前は分かるかい?

[アリス、首を横に振る。箱根、ちょっと考えてから言う]

箱/分かった。難しいけど、やってみるか。自分達みたいな人たちが、あちこちで生活をしている。何かあれば、君達に対して援助をしてもらえるように、手配をしよう。

ク/本当ですか!ありがとうございます。

若/布団の準備できたわよ〜。もう、今日は寝なさい。

ア・ク/はーい。

[アリスとクリスと入れ違いに、若草が箱根の前に座る]

若/どうだった?

箱/彼らか、どうだろうな。あいつらを倒すような事が出来るかどうか…アリスって言う子は、お母さんとお父さんを探した言って言っていたから、ちょっと聞いてみよう。

若/そうね。電話、気をつけてね。

箱/分かってる。


[鳥の声が聞こえる。扉から、微妙に光が差し込んでくる]

若/朝よ。起きなさい。

ア/う〜ん…もうちょっと…

ク/とりあえず、起きるんだ。

[すぐ起きて立ち上がるクリス、ウダウダしているアリス。クリス、アリスの布団をはがして起こす]

ア/あれ?もう朝?

ク/そうみたい。だから、起きるんだ。

若/とりあえず、立たないとここから出る事も出来ないわよ。

[アリス、クリスに手を引かれて立ち上がる。クリスとアリス、とりあえず先に着替える]

[アリス、水色のスカートに青と白のボーダーが入った半そでシャツ。クリス、白の半ズボンと背中に絵柄が入った黒字の半そでシャツ]

ク/やっぱり、これって似合わないな…

ア/いや、似合ってると思うよ。

ク/そうかな…

若/着替えた?

[若草、彼らが着替えたか首を部屋に入れて聞く]

ア・ク/うん

[アリスとクリス、そのまま、荷物を持って部屋から出て行く]


[玄関兼リビングのへや。机の上に、朝ご飯と手紙]

箱/とにかく、何も食べずにここから出ては行けない。何も食べずに出て行くのは、死ぬと同義語だ。

[アリスとクリス、何も言わずに食べる]

[数分後、食べ終わる。箱根、手紙を渡す]

箱/これを持って行け。これさえあれば、協力者ならば、援助をしてくれる。

ア/協力者じゃなかったら?

箱/考えないほうがいいぞ。とにかく、これを見せたら、いろいろな世話をしてくれる。だから、絶対に失くすなよ。とにかく、この近くの協力者の場所を書いておくから、まずは、そこに行けばいい。大丈夫さ。何とかなるだろう。

[アリスとクリス、礼を言って、そのまま出て行く。箱根と若草、笑って見送る。]


[暗い部屋の中、彼らが話し合っていた]

男F/そう言えば、若草久美子、箱根宥嶽両名についての調査は、どうなっているんだ?

男D/ロボット共和国対人類圏の戦争後、彼らの消息は、11人の英雄達が死んでから不明でしたが、この平和島の管理者となっている事が、アリス・クランドール、クリス・クランドールによって明らかにされました。

男B/彼らは、戦後、人類=ロボット国の人類圏の代表者として、長年に渡り、政府に籍を有して来ていました。その後、彼らも、次々と老衰によって死去。残されたのは、彼らの子孫と、若草久美子、箱根宥嶽だけです。彼らは、当時の最先端のロボットだったので、老衰と言う事がなかったのです。

男F/今は、その技術があるし、積極的に採り入れているがな。

男C/何もなかったので、これからも、何かが起きるまで、そのままにしておくと言う方法を取るべきだと考えます。

男F/そうか、他に意見が無いようだったら、それで行くことにしよう。どうだ?

男B・D・E/異議無し。

男F/では、何もしないと言う方針で進む。

男B・C・D・E/了解…


[アリスとクリス、箱根から渡された紙を頼りに、歩く。昔の橋に到達する]

ク/錆びてる。それに、菜の花もこれ以上外には進まなかったんだな。さっきまでとは打って変わって、アスファルトで固められた道があるだけか。

ア/それだけじゃないよ。私達が、ここにいるじゃない。それに、どんなところにも、風は吹いている。

[クリス、アリスの方を向く。アリスの足元から、風が吹き上げる]

ア/きゃっ!

[アリス、とっさにスカートの前を押さえる。クリス、瞬間的に見る。アリス、風が吹きやんで、赤面して言う]

ア/見た?

ク/べ、別に見たくて見たわけじゃ…

ア/もう…そんな時は、見てないって、はっきりと言ってくれないと…

[アリス、恥ずかしがる。クリス、下を見る]

ク/それよりも、なんで下から風が吹いてきたんだ?この下は、土のはずだけど…

[クリス、風が吹いて来た所に、金網を見つけそれを取り外す]

ク/降りてみよう。

[アリス、うなづく。クリスとアリス、そのまま下に降りてフレームアウト]


[暗い部屋の中、顔が見えない人たちが話し合う]

男F/とにかく時間が欲しい。何事にましてもだ。

男E/時は常に留まらずして、されど、早くもならず。

男F/昔の伝説など、今はどうでもいい。彼らは最重要危険人物だ。彼らと出会ったもの全てをこの世界から抹消しなければならない。

男E/現時点で観測されているのは、大円地下鉄1号線線路内に侵入しているのが分かっています。観測衛星から見ている限りでは、平和島からかかる、国道3号線の橋から進入したものと思われます。

男B/問題は、地下は衛星の目がいかないと言う事ですね。

男F/とにかく、進入場所がわかっている以上、どこに行くかは自然に分かる。彼らに対し、身辺警護を名目にして、身柄を拘束する。それで、彼らを引き剥がして別々の施設に入れる。それで行くことにしよう。

男B・C・D・E/了解しました。

[男達、部屋から出て行く。男F、金属製のあの箱をなでる]

男F/さて、君達は一体、誰なんだろうね?

[機械の箱に対して言う]


[アリスとクリス、一番下まで降りてきた時、巨大な鉄線を見つける]

ア/これって、なに?

ク/多分、常温超伝導リニアモーターカーだと思う。抵抗を無くす事が出来る材料で、電気を流すんだ。それを超伝導と言う現象が起こって、それを利用して磁石を作るんだ。詳しいのはよく知らないけど、なんだか、そんな感覚なんだって。

ア/ふーん。でもさ、ここからどうやって動く?

ク/とりあえず、こっちに行ってみよう。

[降りた方向から右側に歩き出した。ちょっとして、歩道を見つけそこに上がる]

ク/よいしょっと。ほら、登って来いよ。

ア/ちょっと待ってよ〜。

[クリス、アリスの手を引いて引き上げる]

[クリスとアリスの顔、一気に近づき、そして、恥ずかしそうに離れて行く]

ク/な、なんだよ…

ア/別に…何もないわよ。

[クリスとアリス、手をつないで歩き始める]


[アリス、ちょっと歩いてからへたり込み言う]

ア/だめ〜、もう歩けない〜。

ク/そう言うなって。ほら、自分で歩けよ。

ア/やだ〜、おぶって〜?

ク/え〜。

ア/ほら〜。

[アリス、クリスの手を引く]

ク/まったく…

[クリス、荷物を降ろして、アリスに背負わす。アリス、立ち上がってクリスのかたに手をかける]

ク/大丈夫か?

ア/うん。

[アリス、クリスの背中にひっつく。クリス、何か驚く。アリス、顔をほのかに赤くさせる]

ク/とりあえず、行くぞ。

[クリス、地下鉄のトンネル内を歩いて行く]


ナ/数分後、目の前に、駅が見えてきていた。

[クリス、徐々に目が慣れてくる。真っ暗い駅のホームを見つける]

ク/地下鉄駅のホームだ。

ア/じゃあ、ここの近くに、協力者の人がいるって言う事よね。

ク/地図上だったらな。それに、その前にあの人達が来るかもしれない。

ア/う〜、それはいやだな…

[アリス、とりあえずクリスの背中から降りる。クリス、アリスから荷物を受け取って再び背負う]

ク/とりあえず、進もう。

男B/その前に、こっちに来てもらおうか。

ク/誰だ!

[懐中電灯の光を目に当てられる。クリスとアリス、目を覆う]

男B=スリックス・キャバーシ/我が名は、アリックス・キャバーシと言う。元首の命により、身辺警護をしに来た。

男D=パトリック・ハンブーン/我が名は、パトリック・ハンブーン。元首は、そなた達を呼び寄せたいとお考えである。

男E=テンション・フリーツリー/我が名は、パッション・フリーツリー。元首は、そなた達を最重要人物とみなしている。

男C=トム・ウィザース/我が名は、トム・ウィザースと言う。元首である、神野口治田は、そなた達のその類稀なる才能を高く評価していらっしゃる。さあ、こちらへ…

[トム、手を差し出す。クリス、その手を拒絶する]

ク/絶対に、お前達のところへは戻らない!

[クリス、トムとは逆の方向に走ろうとする。後ろ側にロボット兵達が銃を向けている]

パ/無駄だ。ここから出る事は出来ない。

男H/さて、それはどうかな?

テ/誰だ!

[スリックス・パトリック・テンション・トム、その声の方向を向く。途端に、その場に倒れこむ]

男H/こっちだ。クリス、アリス、ついておいで。

[クリスとアリス、何も言わずに彼について行く]


[暗い部屋]

男F=神野口治田/取り逃がしたか…

ト/すみませんでした。

[部屋の壁の前に立たされている]

神/仕方がないな…しかし、お前達を行動不能にした奴は一体誰なんだ?

ス/すいません、こちらの情報不足です。

神/そんな事を聞いているのではない。とにかく、彼らは、こちらの手に追えるような簡単な相手ではなくなったわけだ。どうすればいいんだろうな…

[彼らは、考える]


[アリスとクリス、知らない人についてきた]

ク/ところで、あなたは?

男H=上原達也/彼女から聞いていないかい?俺は、上原達也って言うんだ。11人の英雄達の子孫にあたる。

ク/本当に?

上/ああ、本当さ。俺は、あの、上原司の71代目の子孫になる。

ア/でも、なんでそんな人が、こんな地下にいるの?

上/彼らのせいさ。さて、そんなことよりもだ。

[上原、とある部屋にアリスとクリスを連れてくる。部屋の中に入れる]

上/ここが、俺の家になる。さてと、早速だが…

[上原、椅子に座らせて、周りを確認してからドアを閉める]

上/若草久美子か箱根宥嶽から、とある封筒を預かって来ていないか?それを見せて欲しい。

ク/はい、これです…

[クリス、上原に手紙を渡す。上原、手紙の中をよく読む]

上/分かった。アリスの両親を探しているんだな。それだったら、君達が出て来たあそこに戻らないといけない。

ア/あの建物の中に、お父さんとお母さんがいるの?

ク/本当に?

[クリス、疑う。アリス、喜ぶ。上原、手紙を返して言う]

上/ああ、本当だ。ただ、問題があって…

ア・ク/問題?

上/あの中に入る方法だよ。君達が出て来たあの隙間を作ったのは、この俺なんだが、それをするためには、彼らの協力がいる。

ア/彼ら?

上/この封筒を渡してくれた人たちだよ。

ク/若草久美子と箱根宥嶽?

上/彼らは、11人の英雄達そのものなんだ。彼らは、元々、人類圏側に属していた人たちだ。当時いた、上原司、桜井美春、宮崎達也、東間玉緒、若草久美子、箱根宥嶽、上原小太郎、上原高戸、宮崎領一、宮崎戸酉、宮崎毬亜の11人によって、人類圏側の代表になる。彼らは、人類=ロボット国の閣僚でもあった。詳しいのは本人から聞いてみたらいい。俺自身も、親から詳しい話を聞いたことがある。

ア/あの人たちが、生ける伝説と言う事?

[上原うなづく]

上/とにかく、向こうに行くのは、明日だ。君達は、ゆっくりと眠ればいい。さあ、お休み…

[上原、となりの部屋に布団を敷いて、アリスとクリスを寝かす]


ナ/翌日。

[上原、アリスとクリスを起こす。朝食の席にて]

上/さて、朝ご飯を食べきったら、裏道を通って彼らの所へ出向く。すでに、彼らの方へは電話で連絡をしている。

ク/そう言えば、ここは、どこなんですか?

上/ここか?ここは、人類=ロボット国国会議事堂跡地地下30階にあたる場所だ。ロボット達でさえしらない場所で、俺が知っている限りでは、世界で15番目に深い人工施設になる。

ク/へ〜。

ア/じゃあ、この上には、あの菜の花畑が広がってるの?

上/そうだ。ずっと昔に、人類圏をひとつの組織で統治する必要性に迫られた時、国際連合と言う組織を改組してしたと言う話だ。ちょうど、国会議事堂は、その国際連合の本部があったところに立てられている。いまじゃ、石碑がひとつだけ立っているだけの、何にもないただ広いだけの土地だけどな。

ア/じゃあ、あの地下鉄は?

上/ああ、あそこは、このすぐ近くを通っている地下鉄で、自動的に電力が供給される仕組みになっている。さらに、その電力供給元の発電所も、全自動で作動しているから、あの地下鉄は、発電が終わるまで永遠に止まらない。ちょうど、国際連合の本部ビルを建て替えする時に、最初の地下鉄が敷設されたって言う話だ。今走っているものは、その後、大体100年ぐらしてから作られた、第3期再敷設工事のものらしい。その時に、レールから超伝導のかたにとっかえたらしい。ここだけ見れば分からないが、実際には、あれは主要国を結ぶようにして作られている。この国を出ると、次の停車国は旧日本国領内になる。

ク/日本国…

上/実際には、4つの線路があって、ここを走っているのは、1番最初に作られたものだ。日本国は、全ての線路が交差するところでもあるんだ。なぜか。それは、世界で最もロボットの普及が盛んだったと言われている国だからさ。日本無くして世界無し、世界無くして日本無しって、昔はよく言われたそうだ。人類圏で最後の頃まで抵抗し続けていた場所もあるって言われているから、いずれは行ってみたい場所ではあるな。

[クリス、カバンを見つける]

ク/あのカバンは?

上/ああ、これか?これはな、昔俺が使っていた登山用のリュックだ。おれもお前達について行って、これから起こる全てをみて見たいんだ。

[上原、二人の前におかれている皿がからになっているのを確認する]

上/食べ終わったな。じゃあ、出発だ。

[上原を先頭にして、アリスとクリスが並んで歩き始める]


[あの暗い部屋]

ス/追放していた上原達也が、荷物を背負って再び見つけました。

パ/彼は、世界の敵だ。追放して当然だったんだ。

[神野口、机を握りこぶしでたたく]

神/その話をここで蒸し返すな!それで、どこにいるんだ?

ス/平和島にいて、こちらに向かっています。どうしますか?

神/案ずるな。彼らには、この建物の場所は一切わからないはずだ。だから、何もする必要は無い。

テ/防衛行動も起こさないと言う事ですか?

男I/上原達也。11人の英雄達の直系子孫。世界を最初に平定した事がある人々の、唯一の血縁者。無論、我らを除いての話ですが…

男J/それぐらいはわかっている、ウリリール・ジャッカン。問題は、なぜ彼は長年の沈黙を破り、ここに出てきたかと言う事が問題なのだ。

男I=ウリリール・ジャッカン/それは、本人に聞けばいいだろう?ジョン・ヒャッキン。

神/二人とも黙れ!ここにいない、残りの奴らのように、貴様らも分解してやろうか?

[ウリリールとジョン、共に黙る]

神/それでいい。さて、これからどうすべきかな?

テ/やはり、何もしないのが一番でしょう。

パ/しかし、手遅れになったらどうするんだ?

神/手遅れになると言う事は無い。なぜなら、手遅れになっているのならば、いま、この状況で審議すると言う意味が無くなるからだ。では、今回のこれに対しては、何も攻勢には出ないと言う方針で進む。分かったな?

ス・ト・パ・テ・ウ・ジ/了解しました…


[上原・アリス・クリス、若草と箱根の家の中にいる]

[上原が、これまでのいきさつを説明している]

上/…と言う事で、君達の力が借りたい。そのために、わざわざここに来たんだ。なあ、力を貸してくれるよな。

若/さて、どうしましょうかね…

箱/こちら側は構わないが、本当に、あの建物の中に、アリスの両親がいるんだろうな。

上/いなかった時は……

[箱根、手を降ってそれ以上を言わさないようにする。若草が苦笑する]

若/分かったわ。力を貸しましょう。でも、行くのは明日ね。今日は、もう午後10時になっているから、寝なさい。

ア・ク/はーい。


ナ/そして、その当日となった。午前6時。彼らは起きて、6時半になると既に家を出発していた。

[菜の花畑、建物は見当たらない]

ア/でも、本当に建物なんてあるの?何にも見えないけど…

若/人間には見えないように工夫されているの。ほら、あそこをみて。

[若草、とある場所を指差す。アリス、目を凝らしても、菜の花しか見えない]

ア/菜の花だけしか見えないけど…

若/じゃあ、今度は触ってみて。

ア/え?

[アリス、若草に言われたところを触る。建物の感覚がある]

ア/うそ…何かある…

若/ここが、人類育成管理特別機構研究棟と言われている、元々、人類=ロボット国だった物の名残よ。この建物は、そっくりそのまま人工生命によって建てられている。だから、この建物は、自己修復をするの。でも、それを上回る大きさの傷を与えてやれば…

[上原と箱根、大きななたを持って来る。とある場所を切り始める]

若/中と通り抜けする事が出来る。彼は、これをみる事が出来ない代わりに、傷つける事が出来る力があるの。とりあえず、中に入りましょ。


[中は、出て行く時と変わりない]

ア/出て行く前と、何も変わってないように見える。

[アリス・クリス・上原、ベットに腰掛ける。箱根と若草、あたりを探して、外に出るための通路を探す]

ク/人類育成管理特別機構って、なんなの?

箱/元々、その機構は、若草も言っていたように、人類=ロボット国だったんだ。でも、ロボット共和国代表として来た、ロボット共和国首相神野口治田が、一方的に人間をとある機械の中に閉じ込めたの。もちろん、その時会議に出席していたと言う条件はつくけどね。偶然にも、上原司は、風邪を引いて入院していたの。だから、その時に助かって、彼の子孫だけは、この世界に存在できるの。でも、他の人たちは、そのまま吸い込まれて、どうなったかは分からない。ちょうど、彼らは70歳になっていた時の話よ。

ア/さすが、11人の英雄達だね。詳しいところまで知っている。

若/上原から聞いたのね。

箱/やれやれ、戦争はよくない。それをきっかけに作られたこの組織だったのに、それ自身が戦争を起こしてしまうなんて、世界は分からない。

上/それこそが、世界なんだから。仕方が無いさ。

若/あった。これで外に出れるわ。

[若草、棚をのける。扉がある。全員、そこをくぐって、廊下を走っていく]


[暗い部屋。緊急会合ぽい]

ジ/とうとうです。入られました。

ウ/彼らは、若草久美子、箱根宥嶽、上原達也、クリス・クランドール、アリス・クランドール、計5名です。

ト/現在、警備ロボ達が、妨害工作をしつつあるところなんですが…

神/失敗しているんだな。

ス/彼らは、今、3階の43号室の所に入りました。

神/そこには、誰がいるんだ?

ス/アリス・クランドールの、両親です。


[比較的明るめのベージュ色で統一された部屋。家具は、アリスの部屋と変わらない]

男K/誰だい?

若/オリンポス・クランドールとシフォン・クランドールですね。

シ/そうですが…あなた達は?

若/アリス・クランドールのご両親とお見受けいたしましたが…

[オリンポス、驚く]

オ/君達、娘が今どうしているか知っているのか?

若/ここにいますよ。お友達と共に。

[アリス、若草の陰から顔をのぞかす。オリンポスとシフォン、息を呑む]

ア/お父さん、お母さん?

オ/アリスか、そうなんだな?

シ/まあ、大きくなって…

[シフォン、感涙を流す。オリンポス、アリスを抱きしめる]

オ/よく、生きていてくれた…

[アリス、オリンポスから解放されると、クリスを紹介した]

ア/紹介するね。私の部屋に転がり込んできた、クリス。

ク/始めまして…クリス・クランドールと名乗らさせていただいています。

オ/じゃあ、二人は、友達と呼べる間柄なんだね?

[オリンポス、アリスとクリスに確認する。アリスとクリス、赤くなる]

ア/えっと…

ク/その通りです。

[クリス、慌てて肯定する。オリンポスうなづいて言う。]

オ/そうか。それだったら構わない。とりあえず、これからどうするつもりなんですか?えっと…

[オリンポス、若草を指差す]

若/ああ、紹介が遅れましたね。私は、若草久美子と言います。それで、こちらが、箱根宥嶽と上原達也です。

オ/そうか…娘をありがとうございます。なんとお礼をしたらいいか…

[外で、声が聞こえてくる]

若/とりあえず、ここから動きましょう。ロボット兵達が集まってきました。

オ/分かった。

[すぐに扉から出て行く]


[暗い部屋。みんな焦っている]

神/何だと!逃げられた?

パ/はい、ロボット兵達は、みんなやられました。

テ/事実、現在、どこに彼らがいるかも分かっていません。

神/急いで見つけろ!早くしないと…

[扉が開けられる。光がこの部屋の全てを映し出す]

ク/見つけないと、どうなるんだ?

神/クリスとアリスか。それに、他の人たちも勢ぞろいしているんだな。

テ/ようやく見つけました。ここにいます。

神/そんな事言われんでも分かっとる!

若/お久しぶりですね。皆さん。何人かいなくなっているのは、さて、何が起きたんですか?ロボット共和国元首相であり、現在の人類=ロボット国国家元首の神野口治田さん。

箱/やれやれだ。ようやく見つけたか…

女B/あれ?お兄さん達、だれ?

ト/こら!ここに来ちゃ駄目だろ!

[トム、少女のところへ歩いて行く。少女、トムに抱きかかえられる]

若/その子は?

ト/自分の子供だ。名前を、ジアス・ウィザースと言う。

ジア/よろしくお願いします。

[トムから降ろされて一礼する]

オ/なるほど、人工金属による永遠の命と言ったところか。

神/いや、実際は、永久の命ではない。彼女は、上原司以来初めての生きた金属による、有期寿命を持つロボットだ。彼女は、いずれ死ぬ事になる。

[オリンポス、驚く。その他の人たち、何も言わない]

神/そう、我こそが、この世界に生きた金属を蘇らせた人!人々は我の偉業を称え、石碑を建立し、さらに、永久に我こそが神であると褒め称えるだろう。

[神野口、笑う。アリスとクリス、言う]

ク/生きた金属って、それでも、彼女は、生きている。ロボットとどう違うの?

神/それは、ロボットとは、人間のしもべとして生かされているものの事を言う。つまり、その立場が変わった時には、人間とロボットの言う話も換わる事になる。だからこそ、我らがロボットで、そちら人間ではないのだ。

[クリス、笑って言う]

ク/それもそうだが、ひとつ忘れている物がある。

神/何だ?

ク/人間は、自らの意思を持って同族を増やしていく。しかし、ロボットは、それはない。

[神野口、笑って答える]

神/それは間違いだな。ジアスを見てみろ。彼女は、見た目はクリスを基礎としている人間だが、中身の知識はトムを元にして作られている。そして、人格データは、アリスを元にして作られた。

ク/何が言いたいんだ?

神/つまり、彼女は、ロボットじゃないって言う事だ。かと言って、人間と言い切る事も出来ない。つまり彼女こそが、新人類と呼ばれるにふさわしい存在なんだよ。元々の研究は、旧日本国で行われていた、国際法上違法とされていた人体実験だ。最初の被験者に選ばれたのが、11人の英雄達の一人である、上原司だ。彼がいたおかげで、生きた金属でも、生殖機能が見事に働くことを証明してくれた。さらに、彼は、我らの敵であったと共に、我らの中までもあった。いまでは、死んでいるとされているが、実際のところは分からない。本当は、彼は行方不明になっているんだからな。いや、彼だけではない、彼の仲間だった、桜井美春、宮崎達也、東間玉緒も、70歳前後になった時点で、突然行方が分からなくなっている。我ら出さえ知らないところへ旅だって言ったのであろう。

[みんな、黙る。銀色の金属の箱、なぜか光と共に開き始める]

神/なんだ!

男L/やれやれ、ようやく出る事が出来たよ。

男M/俺達、なんでこんなところに閉じ込められたんだっけな。

女C/そんなことより、私お腹すいたー。

女D/あれ?皆さん勢ぞろい。どうしたの?

ク/あなた達は、だれですか?

若/司、美春、達也、玉緒。久しぶりね。

男L/お、久美子か。久しぶりだな。何千年ぶりだ?

若/かれこれ5千年ぐらいにはなるかもね。

ア/ちょっとまって、彼らは、誰なの?

[アリス、若草に聞く]

若/そうだったわね。彼らは、11人の英雄達と言われている人たちよ。

ク/じゃあ、あなた達が…

男L=上原司(以下司と表記)/そう、この国の初期の閣僚達だよ。名前を教えておこう。自分が、上原司だ。

女C=桜井美春/私が、桜井美春よ。

男M=宮崎達也/俺が宮崎達也だ。よろしく。

女D=東間玉緒/最後に、あたしが、東間玉緒だよ。みんな、元気だった?

若/見ての通りよ。何も変わってないわ。

司/なるほどな…それで、神野口閣下は、誰もいないことをいいことに、自らの帝国を作り上げてきたと、そう言う事だな。

神/お前達に何が分かると言うのだ。無限の時間を生きなければならない我らは、世界を制することによって、全ての権限を入手した。そうしないと、我らが、簡単に滅ぼされることがありえるからだ。

司/確かに、その通りだろう。だが、自分自身、生体金属によって、長期間生きる事が出来る体をしている。さすがに、ロボット化はできないが、それに近いことを施されている。

神/しかし、お前は…

ア/ちょっと、とりあえず、神野口と言っていたわね。あんたは、どうしたの?

神/我ら、ロボット共和国の再興だ。それ以外に要求は無い。しかし、それはこの状況を保ち続けることが最もよい方法なのだ。分かるか?

ア/全然分からない。私は、お父さんとお母さんを取り戻すことが目的だった。それが果たされた今、何も望むものはない。でも、この世界には、あなたはいらないと思う。

[アリス、腰から小刀を取り出し、神野口を刺す]

神/う…こ、の…

[神野口、笑いながら刺されたところから小刀を抜く。アリス、両手についたオイルを見て震える。クリス、アリスに自らの服をかぶせる]

神/ロボットに、こうしても無意味なのは、知っているだろ。

[神野口、傷口に何かを貼る。オイルの流れが止まる]

神/ふー、さて、殺人未遂だ。ここで、極刑に処す必要がある。

[神野口、銃を腰から抜き、アリスを狙う。クリス、アリスの前に立ちはだかる]

神/お前、そこをどけ。

[神野口、すごむ。クリス、そこをどかない]

ク/アリスを殺すなら、まず僕から殺せ。

ア/クリス…

神/そうか、だったら…

[神野口、引き金を引く。玉が出てこない]

神/チッ、詰まりよった…

[司、素早く銃を奪う。宮崎と桜井、素手で神野口を押さえ込む。東間、神野口を引っ叩く]

司/玉緒、最後のは余計だ。

東/だって…そうしないと気がすまなかったから…

[司、銃をどこかへ捨てる]

司/さて、これで、貴様は終わりだ。観念しろ。

[神野口、笑う]

司/何がおかしい?

神/さて、お前はひとつ重要なことを忘れている。敵は、我のみではないぞ。

司/まさか…!

[周りを見渡す。壁からロボット兵達が現れる]

神/こいつらを取り押さえろ。

[ロボット兵、近寄るが急にその場に崩れていく。みんな、上原達也の方を向く]

上/これを忘れちゃいけないな。特殊なものだが持っていてよかったよ。

[銃の形をしている。周りを見渡す。若草と箱根以外のロボットは、皆倒れていた。]

箱/さっさと封印してしまえ。

[司、宮崎、桜井、東間が、印を結び、神野口、スリックス、パトリック、テンションを消し去る]

ト/…なんで、助けるんだ?

司/勘違いするな。お前達は、親子だ。トム・ウィザース。ジアスを大切に育ててやれ。それをするためだ。

[ジアス、司の足元に抱きつく。その後、トムの所に歩いて行く]

司/さて、これで、正真正銘、人類のものになったな。最初はどうしようか。

ナ/世界は、こうして、ロボット共和国と言う国から人類総合国と言う名前に変えられ、全ての閉じ込められていたロボット、人類は、全員好きな所で暮らし、法律に基づいて行政を進めて行くことが決定された。こうして、この世界に再び平穏がやって来た。


ナ/数年後、再び、最初の部屋にて…

[クリスとアリス、ベットの上に横になっている]

ク/なあ、アリス。

ア/なに?クリス。

ク/僕達が出会ってから、もう、7年経つんだね。

ア/そうね…

ク/この、新しい国が出来てから、7年目なんだな。

ア/そうね…

ク/ロボットと人類の完全な共存社会。それを目指して、みんなで7年間がんばってきたけど、今でもあちこちで争いが起きている。どうすればいいんだろうね。

ア/多分ね、どうしようもないと思うわ。今までの感情がそのままももてに出ているんだから。でも、いずれは落ち着いてくると思うわ。

[クリスとアリス、起き上がり、ベットに腰掛ける。棚の所は、扉がついている]

ク/そんなものなのかな…

ア/そんなものよ。人生って。

[扉が開けられ、ジアスが入ってくる]

ジア/入ってもいい?

ア/いいよ。

[ジアス、入ってきて扉を閉める。そのまま、椅子に座る]

ジア/どう?

ク/どうも、何も変わらないこの世界に、どうすればいいかなって、そんな事ばかり考えているよ。

ジア/私も、よく似たようなことを考えているわ。ロボットの遺伝型と、クリスの遺伝子。私は、宙ぶらりんな存在だなって。どんな事になるかは、私達でも分からない。でも、それでも、進んで行くのは、あなたから受け継いだ、この血のおかげなのかもね。

[ジアス、立ち上がり、クリスの横に腰掛ける]

ジア/世界は、変わらないわ。人間にロボットと言う、これまでなかった種族同士が仲良くする事は、ずっと未来になるかも知れない。でも…

ク/それでも、僕達は、進んで行かないといけない。未来は、次世代である、僕達に託されているんだから。

ア/それに、クリスも、もうそろそろ決めないといけないよ。

ク/何を?

[ジアスとアリス、目配せして言う]

ジア・ア/私達の、どちらが本当に好きなのかって言う事。

ク/へ?

[クリス、キョトンとする。ジアスとアリス、クリスにもたれかかって言う]

ジア/なにせ、私は、あなたの遺伝子を引き継いでいる。でも、結婚する事は可能よ。

ア/あらあら、それを言うと、私だって結婚は可能よ。それに、私は、あなたのような、クリスの子供のような事はない。

ク/ちょっと待て!まだ、僕達はみんな12歳だろ?決めるのは、時期尚早だと思うぞ。

[ジアスとアリス、立ち上がって言う]

ジア・ア/でも、結局は、選ばないといけないのよ。今はその時期じゃないとしてもね。

[ジアスとアリス、クリスを引きずる。ジアス・アリス・クリス、そのまま、部屋の外へと出て行く]

ナ/彼らが、どうなるか。それは、それぞれの歴史が物語っている。ただ、ここでは、合えてその話はしないでおこう。彼らは、この状況のままで推移していき、世界と共に、成長し続けると言う事だけを、最後に伝えておきたい。


(以降全てナレーション)/制作は、清正美高等学校300回生3年5組でした。


[自分の名前が呼ばれるたびに、舞台の袖からでてくる]

キャスト紹介。

スリックス・キャバーシ…麻井正平。

トム・ウィザース…池田義男。

ジアス・ウィザース…神田山一。

パトリック・ハンブーン…天龍裕香。

テンション・フリーツリー…武居豆鮎香。

神野口治田…興国空。

若草久美子…鷹中凛。

箱根宥嶽…師走正之助。

上原達也…宇木金平。

ウリリール・ジャッカン…中村夕菜。

ジョン・ヒャッキン…エア・アダム。

オリンポス・クランドール…伊口康平。

シフォン・クランドール…諏訪来瑛。

上原司…イフニ・スタディン。

宮崎達也…宮野瑛久郎。

桜井美春…長島麗。

東間玉緒…媛洲歓喜。

クリス・クランドール…安藤孝明。

アリス・クランドール…焼森乾。

照明担当…桜井山都/美月剛健/丹国シュアン。

照明総合[照明監督]…大前カリン。

音声担当…和彦結城/石之森楓。

音響効果作成…斉東顕子/竿灯佐和子。

音声総合[音声監督]…佐倉友美。

CG合成…嘉永徳鋭/嘉永清水。

音響チェック…西間緑。

照明チェック…平泉ミサト。

撮影…西田桜/蜩還/鱸鰹。

撮影総合[撮影監督]…海街要子。

雑用・事務一般…佐和泉水/国照由菅/成和也好。

ナレーション…手谷一郎。

総監督…望月徹生。

原作…尚文産商堂「自由への飛翔」。

制作・著作…清正美高等学校第300回生3年5組。


これで、3年5組、自主作成映画、「自由への飛翔」を終わります。みなさん、見ていただいてありがとございました。

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