★課題1:状況を理解しよう★
「──ダンジョンを適切に運営し、300日以内に20000ゴールド以上の黒字を出してください。
達成できれば、あなたは生き返って、元居た世界に戻ることが出来ます」
美しい女性の青い瞳がまっすぐに僕を見つめ、僕に語り掛けている。
「……え?」
と、僕は口をぽかんと開けた。
自分の置かれた状況が全く分かっていなかったのだ。
(……あれ? レオパは?)
思わずきょとんと首をかしげる。
(レオパはどこに消えたんだ……??)
──僕は名もなき大学生。今の今まで文字通り寝食を捨てて、無我夢中で某メジャーレトロ家庭用ゲーム機の名作・レオパで遊びつくしていた。
レオパというのは「レジャーはオレに任せろ〜夢のテーマパークを作ろう〜」……略してレオパというゲームの名前だ。
プレイヤーが遊園地の園長になって、テーマパークの造設・運営を行うゲームである。最初のステージはイギリスだ。
僕はそのレオパのゲームバランスの絶妙さに何度も感嘆の奇声をあげながらやり込みまくり、十日目を過ぎたあたりで頭に激痛が走って気を失い、気がつけばこのくらい場所に座り込んでいた……という状況だ。
クラクラする頭を抱えて立ち上がり、まわりの様子を確認しようとしたら目の前にこの女性がいたのである。
ゲーム以上に脈絡のない場面転換だ。すぐに状況を理解しろという方が無理だろう。
(……レオパ、レオパは!?
僕にとって最愛のゲームであるレオパはどこに行ったんだ?
僕は人類にとって一番楽しいゲーム・レオパであそんでいたはずなのに……)
と、僕は混乱冷めやらぬ頭を振りつつも、改めて目の前の女性をまじまじと見た。
──湿っぽい土のにおいが立ち込める洞穴 (の、ような場所)の中、彼女の姿だけがうすぼんやりと体の内側から白く光っているように見える。
青い瞳に金色の髪を持った、年齢は女子大生程度の女性に見えた。
(不思議な人だなあ……いや、明らかに人ではないようだが)
姿かたちは人間なのに、まとっている雰囲気からして明らかに人ではない……その姿のあまりの不思議さ不可解さに、僕はほんの二、三秒見とれてしまう。
(いや、見とれている場合じゃないか)
僕はすぐに我に返って、慌てて周囲をきょろきょろと見回した。
……何度見ても洞穴だ。十中八九洞穴だ。
耳をすませば水滴がぽちょんぽちょんと落ちているらしき音まで聞こえている。
篝火がところどころで燃えているから、完全な暗闇というわけでもない。こんなところで火を燃やして酸欠にはならないのだろうかと思わず不安に思ってしまうが、別に息苦しくもないし、それは今追求するべき疑問でもないだろう。
──そんなことより、ここはいったいどこだろう。
──彼女は今僕に何と言った? だんじょん? ゴールド? くろじ?? ナニソレ????
「……ええと……」
しばらくの沈黙ののち、僕はようやくそれだけ口にすることが出来た。
頭がまだレオパの世界から戻ってきていないのだ。あんなに面白いゲームを途中で中断してしまったなんて。レオパは人類にとって一番楽しいゲームだ。早く家に帰って続きをやらなければ。
「……ええと、まずは状況を理解させてください。その。まず、あなたは誰で、ここはどこですか?」
「私の名前は女神。そしてここは異世界です」
女性は間髪入れずに僕の質問に答える。メガミはともかく、イセカイなんて名詞は知らない。
「異世界? いかにも洞穴っぽい場所ですよね、ここって……変だな。
その、僕は自分の部屋で死ぬほどレオパをやって遊んでいたはずなんですが」
「てーまぱーく?」
「レオパです。大学の友達に貸してもらったゲームがそういう名前だったんです。面白すぎて時間を忘れてプレイしていたんですけど……異世界?」
「そう、ここは異世界。
文字通り、あなたがいた世界とはまったく別の世界です」
そう言って、女性は微笑んだ。僕は彼女の言葉を理解しようとして……失敗した。
「別の世界……よくわからないな。レオパで遊んでいたらここに来てしまったってことは、つまりここはレオパの世界ってことですか?」
「違います」
「じゃあ、レオパはどこに行ってしまったんですか?」
「レオパの話題から離れて下さい。
あなたは自室でテレビゲームをやりすぎて、脳血管が切れて死んだのです」
「脳血管って切れるんですね」
「専門ではないので詳細な説明は致しかねます。
……とにかく、あなたが元いた世界に生き返るためには、この『異世界』で課題を達成する必要があります。
状況をご理解いただけましたか?」
「課題……」
「そう、課題です。
『ダンジョンを適切に運営し、300日以内に20000ゴールド以上の黒字を出してください。
達成できれば、あなたは生き返って、元居た世界に戻ることが出来ます』」
女性は最初に言った言葉と同じ言葉を繰り返し、ニッコリと笑った。
だが、彼女の表情とは対照的に、僕は渋い顔にならざるをえない。女性が不思議そうに首をかしげる。
「どうしました?」
「いえ、まだ夏休みも十日目くらいだったのに死んでしまったのかと思うと無念で……」
「その十日間、寝食を捨てて文字通りすべての時間をゲームだけに捧げてしまったのが死因でしょうね。
……それで、課題を達成するつもりはありますか?
するもしないもあなたの自由ではありますが、どうなさいます? ちなみに課題の達成を放棄した場合は速やかに死ぬことになります」
「わかりました、やります。生き返ってレオパの続きをやりたいので頑張ります。
それで、だんじょん? をくろじ? にするにはどうしたらいいんですか?」
僕がそう尋ねると、女性は小さく微笑みながらフリップボードっぽいなにかを足元から拾い上げた。
……いや、フリップボードなどではない。
僕の目にはそのボードが、どう見てもレオパのプレイ画面下にある操作画面に見えた。
(──レオパだ!
なんてことだ……レオパのプレイ画面下にある操作画面とおんなじヤツじゃないか!!)
食い入るようにボードを見つめる僕をどう思ったのか分からないが、女性は淡々と説明をつづけた。
「この聖なる操作盤を使ってダンジョンを整備し、ダンジョンに挑戦してくる冒険者たちからお金を巻き上げてください。
300日以内に20000ゴールド以上のお金を巻き上げることが出来れば課題達成とみなします」
「なるほど、やることは施設の運営、クリア条件は一定金額を稼ぐこと……つまり僕は、ここでレオパをやればいいということですね?」
「へ?」
「 なんということだ……僕は死んでもレオパで遊び続けることが出来る運命のもとに産まれたんだ!!」
「全然違います。というか、頼むから真面目に異世界の話を聞いてください」




