渡せない片思いの手紙の話
「報われない片思いの話」の一時を書いた話です。
二十歳の誕生日の夜、ほろ酔いの俺は柄にもなく手紙を書いた。
渡せないと分かっている癖に。
手元のかすんだ視界に、少し苛立ちながら目元を擦りながらまわらない頭で書きなぐる。書きたいことは沢山あった。
それこそ、長編小説が書けるくらい。
けれどいざ書こうとすると全く手はすすまないもので、そのうち一粒、二粒と水滴が紙に落ちて、全く書けなくなった。
心地よかった酔いはさめて、かわりに虚しさだけが残る。アルコールの臭いに不快感を覚えはじめて浴室に向かった。
シャワーを浴びながら、この汚い気持ちも洗い流せたらいいのにと思った。そう思いつつ、男のあいつを好きだという気持ちを汚いと思う自分を嘲笑する。
全然さっぱりした気持ちにならないまま浴室を出て、脱ぎっぱなしにした服をひろいあつめる。固い感触が手にあたり、ポケットにものが入っていることに気づく。入っていたのはコルク栓、それをつい持って帰ってきてしまった自分が更にわらえた。
適当に身体をふいてまた手紙の前に座る。ポケットに入っていたものを眺めながら、今度は慎重に、丁寧に想いの丈を綴った。
渡せない、渡さないと思いつつ自分の溢れんばかりの思いとその悲しみとくるしさと愛しさと、精一杯の謝罪の言葉を、夜が明けて部屋に青白い朝焼けが差し込むまで夢中で書いた。夏休みの作文だってこんなに字を書いたことは無かった。
書いた紙の束を丁寧に折り曲げて封筒にいれて分厚く不格好なそれに封をした。宛名は書けなかった。
それをコルク栓と一緒に大事にしまう。
渡すことのできない手紙ですらなぜだか愛しかった。
「報われない片思いの話」に書き足した文から繋がります。
読んで頂きありがとうございます。