魔女の幻、無欠の貴族
屋根のない円形の劇場。
かつてはここを舞台に、華やかな演劇や歌劇が披露され、観客を湧かせていたのだろう。
しかし、今では廃墟となり、取り壊される事もなくその場に残され、壊れた本棚や机といった粗大ゴミが山のように不法投棄されている。
今日もまた、私は一日の授業を終えて、馬車が行き交う石造りの道を通り過ぎ、ボロボロの家屋が立ち並ぶ貧民街を抜けて、この場所を訪れた。
街の外れの貧民街の、さらに隅にあるこの廃墟は、とっくにそのキャパシティを超過して、もはやゴミ捨て場としての機能すら失っている。物で溢れすぎていて、粗大ゴミを捨てに来る人ももういない。
それが、私にとっては都合が良かった。
ゴミ山の隙間を通り抜けていくと、半径二メートルもない程度の、小さな円形のスペースがある。周囲は粗大ゴミに囲まれており、外からは見えない。
ここは私だけの領域だ。
秘密基地、と言い換えるとちょっとだけ気分が高揚する。
誰にも邪魔される事なく、自分の時間を楽しめる唯一の場所。
廃棄品の中から見つけた、比較的状態の良い椅子に腰掛け、読書を始める。
このまま静かに読書を続けて、日が暮れ始めたら家へ向かう。そんないつもの習慣を今日もこなす。
そんな予定だったのに。
私が読書を始めてから間も無く、走る足音が聞こえてきた。
その足音は劇場を通り過ぎる事なく、ゴミ山の辺りで立ち止まった。
そんな、勘弁してほしい。
何のために私がここに来たのか、少しは考えて欲しい。
こんなところにやってくるのは、普通に考えて貧民街の人間しかありえない。家が壊れたから仮宿を探しにきた、とかだろうか。
どうか私に気付かず立ち去ってくれ、そう願いながら黙り込んで、静かに足音に耳を澄ました。
私の願いも虚しく、足音は少しずつ近づいてきて、私だけの領域に侵入してきた。
一体どんな乞食が姿を現わすのか、覚悟して待ち受けていたのだけど。
私の目に入ったのは、意外な人物だった。
私より頭一つ分は小さい身体。
肩の辺りまで伸ばし、よく手入れされた茶髪。
貧民街に相応しくない、しっかりとした布で作られた服。あの服を買うお金で、きっと私の服は何十着も買えるだろう。
パッと見で上流階級の娘だと分かるその少女と、私は知り合いだった。
「うわっ、フラクティア!?」
人の顔を見て第一声がそれか。
そして相変わらず歳上でも御構い無しに呼び捨てにしてくる。
良いところのお嬢様らしい、流石の態度だ。
「やば、声出しちゃった……。お願い、静かにしてて?」
息を切らしながら、彼女はそう言う。
静かも何も、私はまだ一言もしゃべってない。勝手にお前が騒いでいるだけだろう。
そもそも、なんでお前みたいな雲の上の人間がこんなところに来たのか。
とりあえず事情を聞き出してみよう。
「こ、こんなところに何の用?……せ、セービアさん」
どうして私は二つも歳下のこの子にさん付けなのか。しかもどもってるし。
私の質問に、彼女はそっと答える。
「誘拐犯から逃げてきたの」
思わず「おぉ」と感嘆しそうになったがどうにかこらえた。
やっぱり本物のお嬢様ともなると、本当にそういうトラブルに遭遇するのか。
「放課後にブロウのヤツに呼び出されてね。わかる?今月から学校に雇われてる教師。アイツ、どうやら私を誘拐するために学校に潜り込んだみたいなの」
名前を言われても顔が出てこない。私は元々人の顔を覚えるのが苦手だ。
「放課後に用がある、って呼び出されたから行ったんだけどね。アイツと話してたら、後ろからいきなり誰かに捕まえられて。後は強引に小さな木箱に詰められて馬車に乗せられて。もうほんと最悪」
ため息をつき、天を仰いでから彼女は続きを語る。
「やばいなーって思いながら箱の中で揺らされてたら、隠し持ってた拳銃がいい感じに手元に転がってきてね。一か八か適当に撃ってみたら、馬が暴れ出して私の入ってた箱が外に放り出されたの。その拍子に箱から抜け出して、闇雲に走り回って、今に至るってわけ」
よく見ると、彼女の服はところどころ何かに引っ掛けたかのように裂けていた。服の事なんて気にしてられないほど、必死に逃げていたのだろうか。
それにしても大した幸運だ。偶然道具が手元に来て、そしてその道具のおかげで窮地を脱するなんて。街一番の富豪の娘に生まれるような人間は、やっぱり私なんかとは違うのだろう。
まあ、誘拐されかけた時点で不運なのかもしれないけれど。
ところで、私はその道具の名前を今初めて聞いたのだけど。
「け、ケンジュウって?」
「コレよ」
私が尋ねると、彼女は長いスカートの裏から、小さい金属製の道具を取り出した。
「銃はわかるでしょ?それの小型版。弾は一発しかないけれど、こうやって隠し持てるの。護身用に二つ持ってたのよ」
その小ささで銃なのか。銃なんて物騒なものを持ち歩いてたのか、この子は。
「ふうん……。大変だったのね」
そう言って、私は荷物をまとめ始めた。
「えっ、ちょっと。何してるの?」
「……帰り支度」
「私のことは?放置するの?」
「こ、ここにいれば、多分、見つからないよ」
巻き込まれたくない。
それが私の本心だ。
それに……。
「私がそばにいると、き、きっと、不幸になるよ」
◯
私は、魔女の子孫だ。
厳密に言うと、魔女狩りで狩られた人たちの子孫だ。
罪人、呪われた一族、そう言われ差別されながら14年間生きてきた。
魔女と呼ばれ石を投げられたことはあるが、魔法が使えたりはしない。
そもそも、魔法なんてきっと最初から存在しない。
「魔女」っていうのは邪魔者を排除するためのレッテルだったって説が主流になるくらい、現代では魔法が信じられていない。だってみんな、魔法を見たことがないのだから。
「魔女」がレッテルだと考えられるようになってからも、私の一族は差別され続けている。父さんや母さんが言うには、昔よりはだいぶマシになったらしいけど。
差別がマシになった影響で、魔女の一族も私くらいの世代から学校に通うことを許された。
授業も普通に受けさせてくれているが、家族曰く、昔じゃこんなことあり得なかったらしい。
ただ、同級生からの扱いが酷いことを相談すると、それは昔から当たり前のこと、と言われてしまった。
十二歳になった頃には父さんも母さんも亡くなり、私は自分でお金を工面しなければならなくなった。
幸い、私は勉強が出来る方であったため、学校から支援金をもらうことが出来た。
支援金の制度には感謝しかない。
しかし、支援金をもらい始めてからが大変だった。
学校では私の成績を妬んで嫌がらせをしてくる連中が現れ、住み慣れた貧民街でも働かずお金を得る私に対して、一部の人たちの当たりが強くなった。
ただ、そういった人たちはすぐにいなくなった。
私に嫌がらせをしていた人たちの身に次々と不幸が降りかかった。
馬車馬に蹴られる、家が火事になる、野良犬に噛まれる、程度は様々だったけど。
私に関わると不幸になる。いつしかみんながそう言うようになった。
実際、父さんも母さんも早死にしてしまったし、否定することは出来なかった。
それからは、周りの人が過度に私に干渉しなくなったし、私も誰かと深く関わろうとはしなくなった。
仲良くなった人が不幸になるところなんて、見たくないし。
今月の頭に、学校ではクラス替えが行われた。
クラスメイトと関わることがほとんどない私にとっては、どうでもいいイベントなのだけど、ひとつ、珍しい事があった。
同じクラスに、二つ飛び級してきた学生が入る事。
街一番の富豪である、セービア家の令嬢だ。
飛び級してきた事、家が元より有名である事、彼女本人の容姿が小柄で可愛らしい事、それらの要因が絡み合って、クラス替えの直後から彼女は人気者だった。
学生も教師も、みんな自分の方から彼女に近づいていく。お嬢様に気に入られたい、名家との繋がりを持ちたい、純粋に彼女に興味がある、目的は様々だった。
その様子を、私ははたから眺めていた。
飛び級してきただけあって、彼女は優秀だった。
クラス替え直後の試験では、いきなり最上位クラスの成績を残した。ギリギリ私の方が上だったけど。
この事に私は危機感を持った。
私は成績の良さだけが認められて、学校にいることを許されている。
私よりも成績の良い学生が増えれば増えるほど、私は価値を失っていく。
彼女は、私が学校に通い続ける上での障害に他ならなかった。
私は学校をやめたくない。
勉強をせず、この年齢から働き始めたら、今までの私の一族のように、使い捨ての労働者にしかなれない。
それは嫌だ。
せっかく、学校に行って勉強する権利をもらう事が出来たんだ。
勉強して、出来ることを増やして、まともな仕事に就きたい。
せめて、同級生のように、街で普通の暮らしをしたい。
被差別民として生まれたからって、死ぬまでみじめな生活はしたくない。
セービアは、上流階級に生まれ、裕福な家庭に育ち、容姿に恵まれ、学力も持っている。
私には学力しかない。他は最底辺だ。
それに、私よりも2歳下なのに同等の学力を持っているのだから、才能という意味ではきっと彼女の方が上だろう。
飛び級してしまう程の才能だ。
もしかしたら、すぐに私を超える力を身に付けてしまうかもしれない。
そしたら、私はどうなる?
たったひとり、私より上の学力を持つ学生が現れたところで、私の立場が危うくなるかというと、それは心配のしすぎかもしれない。
しかし、私は魔女の末裔だ。被差別民で、周りに不幸をばら撒く呪いの人形だ。私の存在を疎ましく思う人間はたくさんいる。
私が隙を見せたら。
私が自分の価値を示す事に失敗したら。
それにつけこんで、私を学校から追い出そうとする人間がいるかもしれない。
セービアは、私の価値を脅かす存在だ。
消えてしまえとか、事故死しろとか、そんな物騒な事は考えないけど……。
彼女が直接私に害意を示しているわけではないし。
でも、彼女の存在に嫌悪感を抱かずにはいられなかった。
私の欲しいものを全て持ち、私に害意を向ける事なく私を押しつぶしそうな、セービアという少女に。
◯
「そばにいたら不幸になるだなんて、あるわけないじゃない」
セービアは平気そうな顔でそんな事を言ってみせる。
「わ……私について、お友達からき、聞かなかったの?」
「聞いたわよ?ちょっかい出してた連中が火事に遭ったり目を患ったりしたって」
「それなら、わ、わかるでしょ?」
「んー、それについてなんだけどね」
彼女は自分の髪を指でいじりながら、言葉を続ける。
「関係ない不幸を、貴方のせいにしてるだけなんじゃないかなって。ほら、別に貴方と関わらなくても不幸に遭う人はいるでしょ?貴方の存在と不幸の間に、因果関係があるとは言い切れないわ」
「……ないとも、言い切れないでしょ」
私が反論すると、彼女は面倒くさいと言う感情を露わにしながら言い返してきた。
「例え貴方と不幸に因果関係があったとしても、私はとても運がいいの!家柄も才能も持って生まれてくるくらいにね。だから不幸なんて効かないわ!はい、この話終わり!」
強引に話を閉じられた。
自分で幸運とか才能とか言ってのけるか、この女。
実際、これ以上不幸がどうとか論争を続けても意味はなさそうなので、私も引き下がる事にした。
私はこのまま家に帰るだけだし。
嫌だなあ、家の近くはおっかない人が多いからなあ。
「ちょ、ちょっと待って」
鞄を肩にかけ立ち上がると、彼女に呼び止められた。
「お願い、助けて」
「そ、そう言われても……私、何も出来ないよ?」
「その……一緒にいてくれるだけでいいから」
振り向いて彼女の方を見ると、ひどく怯えた顔をしていた。
普段の自信に溢れた彼女からは考えられない、初めて見る表情だ。
卑怯だぞ、そうやって人の良心に訴えかけるのは。
この後私がお前と一緒にいるとして、リスクばかりでリターンなんてないのに。仮にお返しを保証されても、私とお前が無事に帰らないと意味がないのに。
その時、ふと脳内に疑問が生じた。
彼女を見捨てて帰ることは、本当に安全な選択肢なのか?
とりあえずこの場は、私に危害が及ぶことはないだろう。
しかし、その後。
彼女が無事に帰還出来た時、どうなるだろう。
『フラクティアが私を見捨てて逃げた』
そう言いふらすかもしれない。
そんな事をされたら、私は学校での立場を保っていられないだろう。
彼女が私を恨んで、何か工作を仕掛けてくるかもしれない。私の不幸が怖くないみたいだし。
彼女が無事に帰還出来なかった場合は、私が追い詰められる心配はない。死人に口はないのだから。
でも、そうなる可能性は恐らくない。
誘拐犯たちは別に彼女の命を狙っているわけではない。
最初の奇襲で殺さなかったんだし、人質として彼女を利用するのが狙いだろう。
なので、誘拐犯の目論見が上手く行こうと行かなかろうと、きっと彼女は無事に帰還する。
セービア家が誘拐犯の取引を無視して彼女を見捨てたら、その限りではないが……まあ、ないなこれは。
結論。
彼女をここで見捨てる事は、私にとってリスクが大きすぎる。
というか詰む。
彼女と一緒にここにいる、それ以外の選択肢は私になかった。
私はため息をつき、元々座っていた椅子に座りなおし、足元に鞄を置いた。
そんな私を見て、セービアの表情がぱあっと明るくなる。
「良かったあ、一緒にいてくれるのね!ありがとう!」
彼女の笑顔を真正面から見て、思わず目を閉じてしまった。
こんなにストレートに感謝を伝えられたのは、両親が亡くなってからは初めてのような気がする。
意を決して目を開く。
彼女の顔が近い。
くっ、顔のパーツのバランス良いなこいつ。
「さ、く、作戦はあるの?」
そっぽを向きながら尋ねてみる。
人の顔をじろじろ見続ける趣味はない。
「作戦……はまだないんだけど、打開の糸口はあるわ」
まあ、何とかして必死でここまで逃げてきたようだし、作戦がないのは仕方ないか。
「この時間になっても私が帰っていない以上、屋敷の人間たちが私を探しているはず。そして、私は貧民街で発砲した。この街で銃声が聞こえることなんて、ほぼあり得ない。だから、屋敷の連中は私が貧民街でトラブルに遭遇した、と推理して貧民街を探すはずよ」
「じゃ、じゃあ、屋敷の人たちに先に見つけてもらえれば……」
「私達の勝ちね」
勝ち、ね。
何人くらいいるのかわからないけど、このお嬢様を探している味方がいるのならば、事態の深刻度は思ったよりも軽そうだ。
「ね、ねえ、残った拳銃も撃っちゃえば?銃声で、屋敷の人が気付くかも……」
「気付くでしょうねえ、屋敷の連中も、誘拐犯共も」
言われてから自分の間抜け具合に気付かされる。
もしも誘拐犯が先にこの子を見つけたら、それでもう終わりだ。
「ま、そんなわけだから、ここでゆっくり作戦立てましょ。どうやって先に屋敷の連中と合流するか」
そう言うと彼女はその辺のガラクタを漁り始め、小さな椅子を見つけると、その上に腰掛けた。
腰を置く部分が明らかに傾いていて、見るからに座りづらそうだ。
「ねぇ、フラクティアって貧民街に住んでるんでしょ?この辺の道に詳しい?」
なんの遠慮もなく、彼女は私に尋ねる。
そんな気があるかは分からないが、貧民街暮らしを見下されているようで気分が悪い。
「く、詳しいよ。少なくとも、あなたよりはね」
私としては精一杯の仕返し。
言った後から後悔する。
根に持たれたらどうしよう。
「良かった、じゃあ貧民街走ることになったら案内よろしくね。私、この辺全然土地勘ないの」
良かった、あまり気にしていないようだ。
その時だった。
どこか遠くで、男が大声を出すのが聞こえた。
その声に、私もセービアもびくんと身体を震わせた。
ふと見ると、セービアの顔は青ざめていた。
「今の声……私を攫ったやつの一人だ。ブロウじゃないやつ。……ここ、バレたのかな?」
怯えている。無理もない。
パニックになられても困る、なんとか落ち着かせよう。
「い、いえ、バレ、バレたのなら……こ、こっそり近づくはず。多分、ば、バレてない……」
ダメだ、私も怖い。
声が震えるし、どもりも酷い。
落ち着かせるどころか、彼女に私の動揺が伝わってしまったかもしれない。
「そう……よね。そうよね。ええ、怖がってちゃいけないわ。作戦会議の続きをしましょう」
そう言うと、気合いを入れようとしたのか、彼女は両手で自分の顔をはたいた。
パン、と大きな音が鳴る。
彼女の両方の頬が赤くなっている。
「ね、ねぇ……今の音、まずくない?」
「あ……。もう過ぎた事は仕方ない、気にせずいきましょ」
「誘拐犯に見つかると、わ、私も危ないんだから……」
そこまで言ってから口元に手を当てる。
しまった、文句が口から出てしまった。
「そうよね、無責任だったわ……。ごめんなさい、気をつける」
私の言葉に、彼女はしおらしくなった。
彼女の反応に、私は違和感があることに気付いた。
自分でも正体が掴めない、曖昧な違和感。
そんな私の事など露知らず、セービアはすでに明るい表情に戻っていた。
「じゃあ気を取り直して、作戦会議しましょ。どうやって屋敷の連中と合流するか」
羨ましくなるくらいの切り替えの早さだ。
ほんと、私の欲しいものを何でも持っている。
「こ、ここにいるのは、微妙な選択肢、かも。多分、屋敷の人たちも見つけられない……」
「私は見つけたわよ?」
「あなたが初めてよ、わた、私の秘密基地に入ってきたの……」
ここを使い始めて半年くらいは経つが、この読書スペースに入ってきたのは彼女だけだ。
劇場の入り口までなら、たまにガラクタを漁りに来た人がやってくるけど、わざわざガラクタの隙間を抜けようなんて物好きはいなかった。
人が絶対に来ない場所を探さない限り、ここには辿り着けないだろう。
「秘密基地?」
セービアが私に尋ねる。
しまった、口が滑った。
「あ、あー……」
誤魔化すのももう面倒なので、説明する事にした。
学校でも家でも周りの人が気になって勉強が出来ない事、それで人の来ない場所に丁度いいスペースを作った事、それを密かに秘密基地と呼んでた事……。
「ふふっ。フラクティア、意外とアクティブだし、かわいらしいのね。イメージ変わったわ」
微笑みながら彼女はそう言った。
ぐ、恥ずかしい。
「言うんじゃ、なかった……」
「ふふ、ごめんなさい。でも、これでおあいこよ。何かに怯えてる私を見た人間なんて、屋敷の外ではあなただけなんだから」
柔らかい表情で、彼女が私を見つめる。
さっき見た彼女の笑顔とは違う、見てると心が掴まれそうな笑顔だった。
咄嗟にまた目を閉じる。
人心掌握術も優秀か、この子は。
それで周りの人間を堕として来たんだろうけど、私は堕とされないぞ。
その時、近くで足音が聞こえた。こちらに走ってくる足音。
私もセービアも口を閉じ、息を飲む。
ガラクタを蹴っ飛ばすような音が聞こえた後、足音はどこか遠くへ立ち去った。
「準備して、私たちの方から動いた方がいいかもしれないわね」
空を見上げながら、セービアがそう言う。
日がだいぶ傾いていた。
このままだと、いずれ夜になる。
貧民街を歩き慣れてる私でも、正直夜に出歩くのは怖い。
貧民街の治安はあまり良くないし。
そして、今はセービアも一緒にいる。
貧民街素人のお嬢様を連れて夜の貧民街を歩くのは、リスクが大きい。
セービアの格好があからさまにお嬢様っていうのも良くない。
貧民街は、金持ちを妬んでいる人ばかりだ。セービアの格好を見たら、誘拐犯じゃなくても危害を加えてくるかもしれない。
あれ、でも夜なら、格好もあまり見えないのかな……。
「ねえフラクティア、火を起こせるもの、持ってる?何か灯りになるものとか」
「え?持って、ないけど……」
「私もないわ。よし、動くなら今のうちね」
夜の貧民街はとても暗い。
灯り無しでは私でも何かにぶつかるかもしれない。
二人とも灯りを持ってないなら、夜は待てないな……。
「ル、ルートは、どうする?最短で市街地にむ、向かうか、人目の少ない道にするか……」
「最短で行きましょう。屋敷の人間も貧民街は慣れてないし、きっと分かりやすい道の方が見つけてもらいやすいわ」
「や、屋敷の人たち、見た目の特徴とかって、ある?」
「んー、まあそれなりの服は着てるんじゃないかしら。貧民街では目立つと思う」
「最短で市街地をめざ、目指しながら、身なりの良い人を探す」
「ええ、それで行きましょう」
二人で顔を合わせ頷く。
大したことは決めてないが、認識を合わせておくだけでも後々動きやすいだろう。
改めて鞄を肩にかけて、椅子から立ち上がる。
セービアは拳銃の様子を確かめている。
「よし、出発しましょ」
そう言ってセービアが先に秘密基地から出ようとする。
「ちょ、ちょっと!」
「ん?まだ何か準備中?」
「ち、違う……。私が先に出る。せ、セービアさんが見つかったら終わりなんだから、もっと用心して」
「あ、そうよね、ごめんなさい。あなたにも迷惑がかかるのよね……」
しゅんとしながら、セービアが戻ってくる。
さっきの違和感の正体が、少しずつ掴めてきた。
この違和感は、私の持つ彼女のイメージと、実際の彼女のギャップが原因だ。
「あのさ、お願いがあるんだけど」
自分の髪をいじりながら、セービアが言う。
「なに?」
「私の事、名前で呼んでほしい。セービアってファミリーネームじゃなくて」
「ど、どうして?」
「ファミリーネーム、あまり好きじゃないの。……私自身じゃなくて、私の家を指してるようで」
「あんな立派な家なのに?」
「立派だからよ。私は家じゃなくて私自身を見てほしいの」
「……あ」
家じゃなくて、私自身を。
この子、私とは何もかもが対極だと思ってた。
でも、そうじゃなかった。
自分自身よりも、生まれた家で判断される。
そう感じている点で、私とこの子は同じだったんだ。
私も、この子がお嬢様ってところばかり、意識しちゃってたな。
「ごめん、なさい」
「え?」
「私も、あ、あなたじゃなくて、あなたの家を見ていた」
謝罪の言葉が口から漏れる。
謝らずにはいられなかった。
家だけで判断されるのは嫌だって、私も身をもって知っていたはずなのに。
「いいからいいから。悪いと思ってるなら、名前を呼んで?」
ブルーになってる私を励まそうとしてるのか、明るい声で彼女はそう言う。
私は、そんな彼女に応えたい。
「……マナン」
「うん、ありがとう」
マナンがにこりと笑う。
今初めて、色眼鏡を通さず彼女自身を見れた気がする。
「じゃ、悪いけど前は頼むわね。……あ、アレア」
アレア。
そうやって自分の名前を呼ばれたのはいつぶりだろう。
というか、私は名前で呼んでと頼んでないんだけど……でも、悪い気分じゃない。
やってやる。
誘拐犯がなんだ。
絶対にこの子を無事に帰らせる。
音を立てないよう気をつけながら、秘密基地の外に出る。
空が夕焼けで真っ赤だ。
日が沈むまで、あと三十分もないだろう。
周りを見回し、誰もいないことを確認する。
「だ、大丈夫、来てもいいよ」
そう合図を送ると、後からマナンが出てくる。
ここからが本当の勝負だ。
誘拐犯に見つからず、屋敷の人たちに出会う事。
それが私達の勝利条件。
貧民街を歩き慣れてる私が先行し、無事を確認してからマナンがついてくる。
道のりは順調だった。
道が舗装されていない劇場付近のエリアを抜け、ボロボロの石畳みが敷かれた、貧民街の中でも市街地に近いエリアに辿り着く。
その時、マナンが小声でつぶやいた。
「やっぱり、私って幸運だわ」
「な、なに?突然……」
思わず尋ねてしまう。
「逃げ込んだ先で偶然アレアに出会えたんだもの。もしアレアに会えなかったら、私、あそこに籠るか一人で迷子になるしかなかったわ。……ありがとね」
ほんと、この子はストレートに感謝を伝えてくる。
私は感謝を伝えられた経験が少ないから、そういうことに耐性がないっていうのに。
「か、感謝するなら……無事に帰ってからにして」
照れを隠したくて、ちょっと強めの言い回しになってしまった。
「ふふっ、そうね。あとちょっと、よろしくね」
だけどマナンは、そんなちょっとの事を気にするほど小さな人間ではなかった。
その時、私の視界にひとつの人影が入ってきた。
貧民街の住人が着ないような、まともな服を着た男の人影。
マナンの屋敷の人だ。
「あっ……す、すいませーん!」
手を振りながら、出せる限りの大声で呼びかける。
男は私達を見つけると、「見つけたぞ」と大声で周りに呼びかけていた。
良かった、これで……。
「アレア、違う……」
横にいたマナンが震えていた。
「あいつの顔、よく見て」
言われた通り、男の顔をよく見てみる。
……あの顔、見覚えが、あるような。
「ブロウだよ、あれ」
気付いた瞬間、全身から嫌な汗が噴き出すような感覚があった。
そうだ、あの男は、ブロウだ。
私があまり顔を覚えていなかった、新任の教師。
マナンを攫おうとした連中の一人。
市街地の学校に潜伏していたのだから、まともな服装をしているのは当たり前だった。
最悪だ、何やってるんだ私は、どうしよう、頭の中で色んな思考がぐるぐる巡る。
そうして固まってしまっていた私を、マナンの手が引っ張った。
「とにかく、逃げるよ!」
そ、そうだ。
今は反省会なんかやってる場合じゃない。
逃げる。逃げるんだ。
あっ。
何かに躓き、思いっきり転ぶ。
貧民街のボロボロの石畳み、きっとそれに躓いた。
「あ……アレア!」
「い、行って!早く!」
私を気にしてマナンが立ち止まる。
止まるな、行け、あなたが捕まらなければ私たちは負けない。
後方から男の声が聞こえる。
「止まれセービア!そこの女に手を出されたくなかったら、大人しく捕まれ!」
ふざけるな、私ごとき被差別民を人質に使うな。
転んだまま顔を上げると、マナンが足を止めていた。
「何、してるの、行って!」
そんな私の声にも関わらず、マナンは走り出さない。
……やっぱり、私に関わる人は、不幸になる。
すぐ後ろまで足音が近づいている。
間も無く、ブロウが私の横を通り過ぎ、マナンを捕まえてしまうだろう。
バァン!
不意にそんな音が聞こえた。
あまりの音量だったので、耳が少しの間おかしくなった。
聴力が戻ってくると共に、男の呻き声が聞こえてきた。
前方にいるマナンは無事だ。
その右手から拳銃が落ち、ガチャンと音を立てた。
立ち上がって後ろを見ると、ブロウが腹を抱えてうずくまっていた。
腹から血が出ている。
「良かった、ちゃんと当たった」
「良く、ない……」
マナンの方に近寄る。
助けられてしまった。
その事に、ふつふつと怒りが湧いてきた。
「そ、その銃は、あなたの為のものでしょ……。わ、私なんかの為に、使わないでよ!」
「私なんかなんて言わないで!私はあなたも無事じゃないと嫌なの!」
そう、これだ。
今日私が気付いた違和感。
この子、私を『見下していない』どころではない。
私を『対等』に扱っている。
最初から呼び捨てで呼んできたのも、きっと対等に見ていたからだ。
……歳上なんだから対等ではなく目上なんじゃないのか、なんて事は気にしない。
「言ったでしょ、『私達』の勝ちだって。一緒に勝ちましょ?」
自分の頭くらいの高さにある私の肩に手を置いて、彼女はそう言う。
……昨日までは、気に入らない奴としか思ってなかったのに。
この半日で、すっかりほだされちゃったな。
彼女の意思を、尊重したくてたまらない私がいる。
その時彼女の向こう側から、男が駆け寄ってくるのが見えた。
「あっ……マナン!」
マナンは前後に振り向き、状況を確認すると、大きく息を吐いた。
「後ろにいる奴は、さっき私を攫った奴の一人。前の奴は知らないけど……まあ同じ一味でしょうね。挟み撃ち、か」
前?後ろからも?
振り向くと、確かにいかつい男がこちらに向かっていた。
そんな、万事休すか。
挟み撃ちでも、私がどちらかを足止め出来れば、そこからマナンは逃げられるだろうか?
でもマナンは道が分からないし、私が足止め出来る保証はないし……。
「アレア!考えるなら私もあなたも助かる方法を考えて!それ以外の指示は聞かないわよ!」
此の期に及んで、この子はワガママだ。
そんな事を言ってられる場合じゃないのに!
考えている間に、男達はどんどん距離を詰めてくる。
追い詰められるほど、今考えるべきじゃない事が思考を支配する。
今はこの事態を脱する方法を考えなくちゃいけないのに。
私が彼女に不幸をもたらした、私が魔女の末裔だからこうなった、私は無能だ、そんなどうでもいい事ばかり、私の頭は考えている。
違うだろ、打開策を考えろ──。
私が彼女を不幸にする。
役立たず。
違う。違う違う。
私と不幸の間に、因果関係があるとは──。
何が魔女の末裔だ。
魔法の1つも使えないくせに。
違う、なんで今更そんな事で悩んでるんだ。
そもそも、マナンが私の秘密基地に逃げて来なければ──。
あいつらが、マナンを誘拐しようだなんてしなければ!
何が何だか分からないけど、マナンに助けられた時以上に怒りのボルテージが高まってきた。
ふざけるな誘拐犯ども。
ふざけるな役立たずの私。
みんなみんな、大嫌いだ。
「ああぁ……ああぁぁああああ!!!」
私は怒りのあまり叫び声を上げていた。
よく見ていなかったけど、きっと横にいたマナンを怖がらせてしまっただろう。
ふと落ち着いて辺りを見回すと、二人の男は私達から離れた位置で、直立不動のまま固まっていた。
動き出しそうな様子はない。
一体何が……何でもいい。
今が、逃げ出すチャンス!
「マナン、逃げよう!」
横にいるマナンに声をかけ走り出そうとした、のだが。
「ちょ、ちょっと待って」
マナンに呼び止められる。
「から、だ、動かないんだけど……」
男達と同じように、マナンもその場から動けずにいた。
そんな。
私が逃げられたところで、この子も一緒に逃げられないと何の意味もないのに!
「どうしよう……あ、あれ」
しゃべりかけたところで、マナンが動き出す。
手首を回し、その場で足踏みをしている。
問題なく動けるようだ。
「よ、よし……逃げよう……あっ」
マナンの無事を確認し、私は彼女を連れ逃げ出そうとした。
しかし、マナンが動けるようになったと同時に、男達も動けるようになったようだ。
さっきのいかつい男は頭を抱えた後、腕を何回転かさせてからこちらに向き直った。
なんだったんだ、さっきの硬直は……。
何の役にも立っていない!
男達が前後から走ってくる。
今度こそ、私達の敗北か。
私の方に向かっていたいかつい男が、あと3メートルほどのすぐそこまで迫った時。
男のさらに後方から、凄いスピードで人影が飛んできた。
人影はそのままいかつい男の後頭部に飛び蹴りを食らわせ、続いてマナンのそばまで迫っていた男に立ち向かった。
黒い燕尾服を着た、若い男性。
貧民街の住人は、当然燕尾服なんて着用しない。
燕尾服の男はマナンを背に隠し、突っ込んでくる男の側頭部に回し蹴りをお見舞いした。
蹴られた男二人は、その場で倒れ気を失った。
「来るのが遅い!」
マナンが燕尾服の男に怒鳴る。
燕尾服の男は跪き、目線を小柄なマナンに合わせた。
「申し訳ありません、お嬢様。怪我などはございませんでしょうか」
「私は大丈夫よ。服は破れたけどね。それよりこっち、アレアを見てあげて。膝から血が出ているわ」
マナンが私を指差しそう言う。
言われてから自分の膝を見つめてみる。
そこそこの量の血液が流れ出していた。
さっき転んだ時に怪我したのだろうか。
今まで全く気付かなかった。
怪我を認識したら、その途端に痛みを感じ始めた。
なんだよ、さっきまで全く痛くなかったのに。
燕尾服の男が私の膝の応急処置をしている間に、街の衛兵数人がやってきて、ブロウたち一味を縛って連れて行った。
念のため、状況の確認をしてみる。
「ねぇ、マナン。えっと……この人は?」
燕尾服の男について尋ねてみる。
「セービア家の従者よ。その筆頭ね。優秀でしょ?今日は遅かったけど」
従者さんの方を見てみると、私の足の血は綺麗に拭き取られ、膝には既に包帯が巻かれていた。
「えっと……つまり、私達の勝ち?」
「そうよ?見たでしょ、衛兵が連中をしょっぴくの。あいつらの負け、私達の勝ち」
にぃっとマナンが笑う。
そっか、上手く行ったんだ。
マナンの言う通りだった。
彼女の幸運の前では、私のもたらす不幸なんて何でもないちっぽけなものだった。
◯
従者さんと合流出来た後、私はセービア邸に招かれてしまった。
最初は何が起こるか分からなくて怖かったが、富豪の食事にありつける可能性を考えたら、そんな不安は消し飛んでしまった。
期待通りの豪華なご馳走を堪能させてもらった後、私はマナンと二人、テラスでテーブルを囲んでゆっくりと話し始めた。
「アレアはやっぱり魔女の末裔だったのね」
マナンが突然そんな事を言うのでどきりとした。
「えっ……な、何?」
動揺を隠せない。
とりあえずもうちょっと説明してほしい。
身分とか差別とか、そういう話じゃないんだよね……?
「男二人に挟み撃ちにされた時のあれよ。あなたが叫んだ時ね、私、心臓を鷲掴みにされたような気持ち悪さがあったの」
「そ、それは……ごめん」
「ああ、謝らないで、いいのいいの。……それで、その後から身体が動かなくなって。男二人も動かなくなって。あの時、動けていたのはあなただけだったわ」
「う、うん……それが、どうしたの?」
何故か自信ありげな表情のマナンに話の続きを促す。
とりあえず、不安視してたような話じゃなさそうでほっとした。
「あれ、魔法でしょ?」
「え?そう……なのかな……」
魔法、そんな可能性は考えてなかった。
あの現象がどうして発生したか、なんて気にしていなかったし。
魔法とか信じてないし。
「あら、無意識に魔法を使ったの?あの場にいたあなた以外全員が硬直してたし、あなたが何かしたんだと思うんだけど」
「まあ……じょ、状況から見ると、そうね」
魔法。
実在するの?
「魔法、実在するなら……ま、『魔女』は、レッテルではない?」
脳内に浮かんだ考えがそのまま口から出てきた。
「あー、そうなるかもね。凄い、歴史解釈が変わるわね」
そう言い、微笑みながらマナンはティーカップに口をつける。
私、魔法使えたのか。
まだあの現象が魔法と決まったわけではないけれど。
「まあ何はともあれ、あの硬直で時間が稼げたから、ウチの従者も間に合ったわけだし。セービア家は魔女の魔法に助けられた事になるわね」
「あ、あの、マナン」
「ん、なぁに?」
「魔法の事、人には言わないで欲しい」
「ん、了解」
魔法が実在して、魔女の末裔が魔法を使った。
そんな情報が流布したら、何が起こるだろう。
とりあえず、良くない事が起こるのは容易に想像できた。
なので口止めを頼んだ。
昨日までの私なら、彼女を信用しきれないんだろうけど……。
今の私は、彼女なら信じても良いと思えた。
ティーカップを置き、マナンが私の顔を見つめてきた。
「でさ、アレア。お礼がしたいんだけど」
「お、お礼」
なんだか改まってしまう。
マナンを『お嬢様』のフィルターに通してはいけない、のは分かってるんだけど……街一番の富豪のお礼、となると、期待せずにはいられない。
「うちの庭の離れに、小屋があるんだけど」
「こ、小屋」
「それ、あげるわ」
「小屋を、私に。……えっ」
マナンが広大な庭の一角を指差す。
夜なので暗くてよく見えないが、確かに建物のようなものがある。
「ウチの使用人が掃除や手入れをやるから、ずっと一人ってわけには行かないけど、あなたが静かに勉強するには十分だと思う……どう?」
「どう……って」
ありがたいに決まってる。
家としても勉強場所としても、今まで私が使った中ではきっと一番だ。
「で、でも、いいの?」
「もちろん。ノブレスオブリージュって言ってね、貴族はケチしちゃいけないの。貴族に相応しい、上等なお礼をしなくちゃね」
そんな意味だったか、その言葉。
「う、嬉しい……あ、ありが、とう」
普通にお礼を伝えるだけなのに言葉が詰まった。
「ふふっ、喜んでもらえて良かったわ。……私、もっとアレアの事が知りたいの。これからよろしくね」
マナンは椅子に深く座って、夜空を見上げた。
「……こちらこそ、これからよろしく。マナン」
私も同じように、椅子に深く座ってみる。
……こんな気持ちいい椅子が、この世界に存在したなんて。
これまで暗いだけだと思ってた夜も、今日は月と星の光で明るくさえ思えた。