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たとえば君と僕、2人だけの世界。  作者: アヲイ ヨル
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暑い夏に涼しい雰囲気ホラーではなくが感じられる小説が書きたいなぁと思い、浮かんだ作品です。

しんとした、都会だけれど澄んだ空気と 記憶の片隅にとり残された想いを感じでもらえたら光栄です。




カーテンの隙間から射し込む朝日に目を細めると、それはもう眠りから覚めた合図だ。

 

「ん…さむ…。」


枕元のスマホを手探りで手に取り、うまく開かない目で確かめるとそこ表示されていたのはアラームが鳴るよりも30分早い時間だった。


「あー…起きたくない」


頬を纏うひんやりとした寒さから逃れるように布団を被りなおすけど、ここでまた寝てしまったら大確率で寝坊するって事は自分が一番わかっている。




朝賀 凛太朗、23歳。

職業はwebデザイナー。

彼女なし。




職業柄毎日パソコンと向かい合わせで、目や肩が悲鳴を上げているのを感じながらギュッと目を閉じ、ベッドの中で思い切り伸びをする。


このまま猫にでもなれたらいいのにな。…だめか。仕事に響くし、猫の体じゃ生きていけない。


なんて、バカなことを考えながら閉じていた目を開けると。





『伝えろ』 





天井に、でかくそんな文字が書かれていた。



「…っはぁ!?なんだこれ気持ちわるッッ!!!」



思わず勢いよくベッドから出ると一気に身体を包む寒さ。



「さっむ!!てかまじで何あの文字…」


布団の下に敷いている毛布を引きずり出して体を包みながら、天井をジロリと見る。


その文字はまるで、パソコンのフォントのように綺麗に文字に書かれて…いや、書かれているというよりは、プリントされてるみたいだ。



おそるおそるベッドに上がって文字に手を伸ばしてみる。



…天井の質と、おなじ…?


まるで、文字が天井から滲みでてる感じだ。

擦ってもかすれたりしないし、文字が濡れているなんてこともない。


昨日の夜、俺が寝る直前は天井にこんな文字なかった。

それに、誰かが夜中に部屋に侵入してこの文字を書いた?貼った?なら、眠りが浅めな俺は絶対気付いて起きるはずだ。



「…わっかんねー…」


頭を掻きながらベッドから降りる。

時計を見ると目が覚めてまだ10分程度しか経ってないみたいだけど、天井の変な文字のおかげで目はバッチリ覚めたし。



「仕事から帰っても変な文字残ってたら引っ越し考えるか…」


そんな俺のぼやきは室内の冷たい空気に溶けて消えた。






ヒーターをつけて食パンをトースターに放り込む。

その間に顔を洗おうと洗面に向かい、鏡の前に立つと映ったのは なんともまぁすげー寝癖の俺。


手に持ったままのスマホを構えて鏡越しにパシャり。


LINEを開き、大学時代からの友人であり親友である寺岡へ送…れない。



「ん?あれ??」



送れないというよりは画像が送信されないのだ。

試しに文字はどうだと打って送ろうとしても、画像と同じく送信できませんでしたのマークが表示される。


自分のスマホを確認するけど、ここはちゃんと電波が通っていて圏外にはなってないし。

ってことは、あいつが山にでも篭ってんの?ウケルンデスケド〜!!



…じゃなくて!!!!



つねにポケットWi-Fiと充電器とスマホのセットを肌身離さず持っている「ザ・現代人」のあいつが、圏外のところにいるだなんて全くもって考えられない。



と、とりあえず冷水で落ち着こう。


蛇口をひねってバシャリと冷水を顔にかけると、その冷たさに体がぶるりと震えた。







リビングに戻るとトーストのいい香り。


コーヒーを作りトーストを乗せた皿と一緒にテーブルに置く。

テレビをつけると 丁度いつも観ているニュース番組のチャンネルだった。



『もう12月ですね!寒さが厳しくなってきました。

それでは今日の天気予報です…』


そんな女子アナの声を耳に、コーヒーをすする。


『…そして、1位!

1位は牡牛座のあなた!!』


いつの間にか占いのコーナーになっていたらしく、自分の星座の名前に無意識にテレビに視線がいく。


『今日はなんだか不思議ないい事がありそう!

ラッキーアイテムは傘です!…』


傘か…

さっきの天気予報では今日は洗濯日和です!だなんて言ってたから、一本傘を持ち歩くのは無理そうだな。


元から占いは信じない方で、ラッキーアイテムなんて持ち歩く気すらないけど、そんな事を思いながら皿をシンクに置いて着替えを済ました。





スマホ。


持った。


パソコン。


持った。これのおかげで今日も肩がバキバキだ。


財布。鍵。定期。


…よし、大丈夫だな。



「いってきます」


誰もいない部屋に向かって、恒例となっている言ってきますを放つ。


すると、扉を開ける直前、靴箱の上に置いてある折りたたみ傘が目に留まった。



『今日はなんだか不思議ないい事がありそう!

ラッキーアイテムは傘です!…』



…ラッキーアイテム、か。

こんな傘ひとつで俺にも特別ないい事があるんだったら 最高だよな。


少し自虐的な笑みを浮かべ、俺は柄にもなくその折りたたみ傘を鞄に突っ込んだ。



ギィ…



扉を開けて、一歩外へ踏み出す。

学校に向かう子供の声。車や自転車の音。鳥の声。人々の雑踏の中に、俺は今日も飛び込むんだ。



…だけどおかしい。

俺が家を出る時間は、ちょうど通学ラッシュと重なっていて。


家のそばにある高校に向かう高校生たちで道が溢れている、はずなのに。



文字通り、そこには誰1人 いなかった。


しん、と静まり返った住宅街。

耳を澄ましても鳥の声ひとつ聞こえない。



「…は?」


口から出た声は震えてる。言っちゃえば膝も地味に震えてる。



なんだこれ。ほんと、なんだこれ。



「俺って夢でも見てんの…?」



顔を強めの力で叩いたりつねったりしても、痛みが俺の頬を襲うだけ。

ジンジンとしみる頬を撫でながら、俺は足を進めた。









いない。




いない。



いない。




どこにも、誰も、いない。



嘘だろ?



駅まで来ても誰もいないなんて。



まるで…




「…世界に、一人ぼっちにされたみたいだ」





そしておかしい事がもう一つ。

家のテレビがついた事、電気ケトルが普通に使えた事。



つまり、電気はちゃんと通っているようでコンビニの自動ドアはあくし、中にもすんなり入れる。


…店員はいないけど。



駅前の大通りに来てみれば、でっかいビルのでっかい液晶テレビもちゃんと点いていて。

家で見たテレビと同じように、普通に放送が流れている。


でも車ひとつ走っていないし、もちろん人がいないんだから電車も走っていない。


こんなの、遅刻確定だ。


…どうせ会社についても誰1人いないんだろうけど。




いつも揉まれている人混みが消えただけで、こんなにも世界から「音」がなくなるなんて思ってもみなかった。


静かすぎる。


誰もいない交差点に響くのは俺の走る足音だけ。


その静寂が寂しさを彷彿とさせる。




「せめて…せめて、誰かもう1人くらい俺と同じ状況のヤツいねぇのかよ…?」



スマホを手に取り、連絡先の一番上のやつから片っ端に電話をかけていく。


「くそっ、またダメか」


焦りから自然と口調も荒くなる。



寺岡もダメ、同僚の田中も河野も、実家の家族にだって繋がらない。


仲が良くてよく遊びに行った人から、あまり喋った事がないけど電話番号やLINEだけは知っている人まで見境なく電話をかけまくった。



すると、突然耳元で鳴る独特の着信音。



「つながった、!?」


がむしゃらに電話をかけていたから、誰に繋がったかわからない。


画面を確認すると、そこには『藤堂 陽菜』の文字があった。


それと同時に開始する通話画面。慌てて耳にスマホを寄せる。



「も、もしもし…?」


『もしもし、朝賀君…?』



スマホ越しに聞こえる声は、紛れもなく藤堂のもの。


焦りに焦ってどうにかなってしまいそうだった心が安堵のため息を生んだ。



「うん、久しぶり」


『久しぶり…』


「ところでさ、今、ひとり?」


『…うん、ひとり。外に出たら誰もいなくて…』


「藤堂はどこにいるの?」


『駅からちょっと歩いたところに、遊具がある大きい公園あるでしょ?そこ』


「わかった、今から行く」


『うん、待ってる』


じゃ、と加えて通話を切る。



まさか、俺と同じ状況の人が藤堂だなんて。









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