オリ2
あぁ…、吐いちゃった……。
ここは、学校なのに…。教室なのに…。
「「ッキャーーーー!!!!!」」
「やだ吐いちゃったよ…汚い」
「よ、吉山さんっ…だ、大丈夫?」
「うわぁ…やだ近寄らないでおこう」
「とりあえず、拭ける…?」
クラスメイトの声。声。声。嫌悪と恐怖の混じった視線。避けるように距離をとる人。
私…最悪だ…。もう…誰も、私を、私と、接してくれない。そう思うと涙が出てきそう。やだ、やだやだ…誰か……誰か…!
「吉山さん、俺ココ拭いとくから保健室行っておいでよ」
気遣うような声が教室に響いた。一瞬、空気が止んだ。喋った本人以外が皆、言葉を理解していなかった。その場での彼の行動は、とても真似出来るものではなかった。そして声をかけられた彼女も、その言葉に声を失っていた。
「…………え……………?」
私は混乱する。今、私が嘔吐してしまったものを拭いてくれている彼は誰?どうしてそんな事してくれるの?私に…優しくしてくれているの?
そうして私が戸惑っている内にも彼は私が出した汚いものを拭いてくれている。ハッとした私はすぐに止めさせないと、と思い近寄る。近寄ろうとした。
「寄らないで、貴女、自分が何をしてどんな格好をしているか解っているの?」
突き刺さる言葉。クラスの室長の女子が私に告げる。その言葉は一字一句空気に振動して私の鼓膜までしっかり伝わってくる。…あぁそうだ。私は服も顔も自分の吐瀉物でビショビショで、見れたもんじゃない。汚い。その一言で十分だった。
もう顔も見れない。上げれない。
「…………ご、めんな…さい……………」
冷たい視線を感じながら、1-5教室を出て保健室に向かった。
コン、コン。
「はーい。どうぞ入ってください。」
中から保健教諭の声がして、入室の許可がおりる。キィ…とドアを開き保健室に入る。
「どうしたの?何か…ッ?!あ、貴女嘔吐したの?!」
私の格好を見て理解したらしく、酷く狼狽している。少し距離を取ろうと後ろに椅子を下げている。…当然か。
「はい…すみません。着替えなどここでさせて貰ってよろしいですか?着替えたら今日は帰ろうと思っています。体調が優れないので…」
私が着替えを提案したら、教諭は少し驚いていたけれど、優しい目をして許可してくれた。今日はゆっくり休んで体を整えて明日は元気に来れるように!と人付きの良い笑顔で微笑んでくれた。私は有難う御座います、と礼を言いカーテンの向こうで着替えをさせて貰う。
少し、落ちつけてきたみたいだ。良かった。また、困らせたくない。
・・・・・・・
キィ…と誰かが室内に入って来る音がした。走って来たらしく息遣いが荒いのが聞き取れる。誰だろう…?
「どうしたの?体調不良?」
「いや、吉山さんの体調を伺いに…駄目でしたか?」
私…?!そうだ、この声はさっきの…!
「良いわよ、でも名前は聞いとくわね。サボリだと思われたら大変でしょ?で、君、クラスと名前は?」
「1-5、夕夜 七氏です。」
あ、私の前の席の人だ…!心配してくれている…のかな…?そうだったら嬉しいな…なんて私はフワフワ考えていて、着替え中だった。そこに彼が「吉山さんっ!大丈夫?!」とカーテンご開帳。
わぁい私今下着替えてる所☆
「…?!?!っぁ…!う…!」
「っうわぁ?!よ、吉山さんごめん!!」
サッとカーテンを締める彼。顔は真っ赤。何か可愛いな…なんて 思ったりしちゃう。
私の方は本当はビンタくらいするもんだけど嘔吐物処理なんてしてくれて更には心配して保健室まで来てくれる彼に暴力を震ったりしたくないからサッと服で隠した。早く着替えないと。
「…着替え終わった?」と恐る恐る彼がカーテンの向こうから声をかけてくる。「うん、終わった。」と私が答えるとホッとした表情でカーテンを開けてきた。
「吉山さん、大丈夫?」
「…うん、大丈夫だよ。」
大丈夫だ、私はまだ大丈夫。壊れてなんかない。そう自分に言い聞かせる。
彼にはさっきのお礼を言わないと。
「えっと…夕夜くん、ありがとう…私の、は…吐いたの、処理してくれて…ごめんね。」