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プロローグ

 ――――――「誰か助けて!」「何が起きているんだ……?」「ああ、どうか慈悲を……」


 理解が及ばず慌てふためく者。

 恐怖に呑まれ膝を突くもの。

 ただ神に祈り、縋るもの————。


悲鳴と嗚咽で満たされ、阿鼻叫喚が極まった舞台。民衆は大混乱の最中であった。


 彼の姿はそんな混沌とした街中にあり、中央広場の片隅から、狂気を纏った人々

を眺めている。

彼自身も動揺を隠せずにはいられなかった。大地が轟音をあげて蠢き、石レンガで建築された住居がみるみる倒壊していく。膝が震える。自らが振動しているのか、それとも世界が揺れ動いているのか。

それすらも曖昧に思えるような錯覚に苛まれ、これだけの喧騒だというのに、心拍が煩いほど身体に響いていた。


「あの……」


 傍らに立つ少女に声をかけられ、目をやる。彼女も、不安そうにこちらを見つめている。


大丈夫、と言い返そうとして、しかしその喉は音声を発せずにいた。恐怖と緊張のあまり、呼吸すらも忘れていたのだ。


それを認識して、自分がどうしようもない甲斐性なしに思えてきた。

尤も元来より、自己評価ではこのような状況において剴切足る人物ではないと分かりきっていた。

それでも、眼前の娘一人程度に、安堵を与えることすら出来ない自らを叱責したかった。

大恩ある彼女に、ここで借りを返さないわけにはいかない。


「……よし」


 彼は右隣に佇む少女に向き直り、発言する。


「俺が、何とかしてみる」


 生来の己を払拭すべく、彼は歩き出した。広場の中央にある噴水へ向かい、現在は放水が止まっている吹き出し口の上によじ登った。

背中のリュックサックから赤い棒状のものを取り出し、ゆっくりと数回深呼吸をする。


 少々の脱力を感じて、若干の落ち着きを取り戻す。もう一度大きく息を吸い直して、叫んだ。


「皆さぁぁあん!!! 落ち着いて下さい!! 係員の指示に従って速やかに避難してくださーい!! オラー一イッ!! オラー―ァイッッ!!!」


 赤く発光し、点滅する誘導棒で空を切り裂きながら、全力で発声する。

こんな風に大勢の前に立ち、声を張り上げて語り掛けるのは何年ぶりだろうか。裏返り、掠れながらも、必死に呼びかける。


 殻に閉じこもり、ひたすらに自信を防衛し続けてきた彼が、初めて誰かを守ろうとした瞬間だった。


「押さない! 駆けない! 喋らない! 『お・か・し』に則って移動してください!」


 これが、警備員「大竹」の、新たなる人生の皮切りである。

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