バラが咲いた
なみなみと張られたバスタブの湯に、お気に入りの入浴剤を入れていく。ぱかっと封を切って、1つ、また一つとそれを落としていく。落とすたびにぽちゃんという音とふわぁっとバラの香りが広がっていい感じ。
バスルームを支配する甘い香りに包まれながら、あたしはゆっくりとバスタブの中へ沈んでいった。そして、その内側いっぱいまで身体を伸ばして、大きく深呼吸する。
バラの香りが、全身に行き渡る感じ。
うん。ゴージャスな気分。それだけで、心のゆとりが出来ていくって感じ。…あたしだけかもしれないけど。
うっとりと自己陶酔に浸りながら、ほわぁんとため息なんかついてみる。それすらも甘いバラの香りのよう。気のせいだろうけど。
しっかし。
早くダーリン、帰ってこないかなあ?
そんなことを考えているあたしの頭の中は、きっと脳天気な顔したまま花園に寝転がっているのだろう。
愛しき彼は、いつもだったらそろそろ帰ってくる時刻のはず。なのに、そんな気配はつゆほど見せない。せっかく、ほかほか暖まったあたしの身体でぎゅーっと抱きしめてあげようかと思ったのに。そのままいちゃいちゃして、外で冷え切った彼の身体とココロを温めてあげようと思ったのに。
そう思ったら、時間がたつのが遅く感じられるようになった。
ああ、あのことも話したい、このことも話したい、あんな事もしたい、こんなこともしたい……。何より、彼を見つめ続けていたい。彼の、大きな手も、きれいな瞳も、厚い胸も、そしてどこまでも広い心も、何もかもすべて。
そう思ってるのにぃ……。
何してるんだろう? あたしも待ちくたびれちゃうよ。早く帰ってきてよー。えーん。
気がついたら、どこかのお花畑の中。バラのお花がいっぱい。ああ、バラの香りがいい気持ち。赤に白にピンクに黄色に……。バラの香りで頭の仲間でほんわかほんわか……。
「……い。おいったら」
むにゃ? なんか頭に当たった。痛いなあ、もう……。
「おい! 起きろって。いいから起きろ!」
「ほえっ?」
思いっきりどつかれた衝撃が頭に起こり、あたしはそこで我に返った。ぼやーっとした視点が徐々に定まっていくと、そこには愛しきダーリンの顔が。
「…ったく。寝るなよ、こんなとこで」
悪態をつかれて、あたしはようやくお風呂に入ったまま眠ってしまったことに気がついた。
「だってぇ、待ちくたびれちゃったんだもん」
むうっとむくれてみたら、なんか嬉しそうな顔。変なの。
「おぼれたらどうするんだよ」
とかきついこと言ってるのに、それとは裏腹に口元が緩みっぱなし。
あれ? 視線があたしの顔じゃない。それより下の方……。
あ!
「ちょ、ちょっと! どこ見てるのよっ!」
彼の視線は水面の辺り。そこにはあたしの丸い丘が2つ、ぽっかりと浮いている。
「んー? たまにはこーゆーのもいいかなあと」
「ちょっと! え……」
エッチ!と叫ぼうとしたけれど。その言葉は彼に飲み込まれてしまった。その唇ごと。そして、ひんやりとしたものが、あたしの胸に……彼の手だ。だけど、抵抗も出来ない。そのままあたしの芯まで溶かされていく感覚がする。
「甘くていい香り。バラみてーだ」
不意に離れた彼の唇がそう動いて、すでにお風呂でのぼせ上がっているあたしの身体が、さらに赤く火照っていくのを感じたのだった。