04 『短めに重大な長さ』
戦いに勝利し俺が感じたものは、勝利の余韻でもなんでもなく、虚しさというどうしようもない感情だった。
怒りに任せて強大な力を振りかざし、圧倒的物量の違いで倒した。
これまでの段階的に熱を上げていくような術合戦に、なんて無粋なことをしてしまったんだ。
しかし、それも俺だけが悪いわけではなく、あの魔族にも一因があるだろう。
なぜなら、俺を怒らせるようなことをしたんだから。
粋ではないことをしたことに後悔はあるが、あの魔族に対しての罪悪感はない。
まあ今日のことは忘れて、帰ろうか。
つまらなかったなあ……。
あ、魔族に話を聞くの忘れた。
いろいろダメだな、うん。
感情的になると、いろいろと目的を忘れてしまう。
今日のことを教訓にしようと思いながら、戦地を後にする。
後ろを向いたそのとき、背後にどさっという落下音が聞こえた。
「!」
驚くべきことだ。
あの魔法はすべてを消し去る。
あの魔族の体を消滅したはずなのだが……。
落下物を見てみると、それは金属のアクセサリーだった。
六角形を連ならせて輪にしたようなペンダントだ。
どこかで見たことがあるペンダントだな。
俺がアイツにやったペンダントと似てるな……。
確か、精神に作用する魔法を覚えたときに実験台がいなくて、ちゃんと成功するかを調べるためにアイツを実験台にしたんだよなあ。
流石に悪いと思って、このペンダントをプレゼントしたんだ。高かったです。
多分、同じ系統の物だろう。
「とりあえず戦利品としてもらっておこうか。あの魔法で実態を保っていられたということはそれ相応に強力な魔道具だろうし」
俺は流れるように手を虚空に突っ込み、ペンダントをしまった。
前世から生活的に使っていた魔法、『道具入れ』だ。
今世では一度も使っていなかったが、戦ったためか過去の記憶の想起が活発的になり、半ば反射的に使った。
「あれ?」
そして、一つの疑問に辿り着いた。
それはは『道具入れ』という魔法の仕組みについて。
『道具入れ』を発動することは先ほど行ったようにたいして手間もなく行うことができる。
しかし、一番最初に魔法を使う際には少し特別で、ちょっとした工程が必要なのだ。
最初に次次元に置物サイズの空間を作り、そこに施錠となる魔力の独特の波長を設定する――という。
次に使う際は、魔力の波長頼りに次次元に作り出した空間を探り、空間を繋げるというわけだ(波長を教えなければ他者は入れ物の空間のある位置が特定できず、その空間を探り当てることはできないってわけ。これが施錠代わりとなる)。
そして、いま重要なのは、俺が今、そんな面倒くさそうな工程をせずに、そのまま空間を使うことができたというわけだ。
これが何を意味するのかといえば、それは、俺が過去に築き上げた遺産(俺自身の所有物)を、今世でも使うことができるということだ。
それを確かめるために俺はまた空間を開き、手を突っ込み、中をあさる。
心臓が破裂しそうなほどにバクバクいう中、先ほどのネックレスを手探りで見つけ、横にどけて、さらにに手を伸ばした。
ごそりと、厚紙を束ね分厚い紙で閉じたような――つまり、本の感触が、指に触れた。
「やっべ、まじで。まじで?」
その本はやはり、前世で見覚えのある本だった。
『自伝 エル―――――』ふう。俺は本をしまった。
いや、日記だよ?ほんとだよ?
いや、ほんとだって。
それはともかく、これで瘴気の対策は立った。
後はもう対策を行使するだけでいい。
ただ、それは後ででもいいだろう。
今はまだ心が満足するまでここを満喫する。字でも覚えながら。