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02 『昔の過ち』

 そういえば、俺は本がわりと好きな方で、汚さずに保管する為に防腐加工とかしていたのを思い出す。


 俺には防腐加工をする知識などないが、魔法は便利なもので簡単にする事ができた。


 俺の本まだ残ってるかな……。

 多分もう現存しているの少ないだろうなあ……。

 折角あんなに集めたのに。

 それを一気に失うのは心の絶望すること。

 気にしてもしょうがないんだけどさ。

 よし、諦めよう。

 暇だったらまた集めればいいし。


 とにかく勇者のことだ。

 この本を伝承として参照している時点で、俺の信用度は低いが、実際に召喚されているのだ。召喚されたのは紛れのない事実だろうしな。


 少し考える。俺は勇者に会いたいのか。会いたくないのか。

 ――会いたい。


 勇者という単語に興味を引かれるのはあるし、なにより俺の元の世界からなんか持ってきてたらと考えると是非にも会いたくなる。

 久しぶりに日本語が見たい。


 そういえば勇者って俺と同じ世界から来るんだよな?

 ……わからないけど、まあいいか。

 どっちにしろ会いたいことに変わりはない。


 決めた。

 当分の目標は勇者にあって話すってことで。


 とりあえず目標も決まった。

 もうここにいる事もないだろう。

 帰ろう。


 家に帰ると、人気がなかった。


 探してみると、誰もいない。

 父さんは開拓の樵作業だろうが、母さんはどこへ。


 別に大したことではないが、夕飯時なので探す事に決めた。


 数分小さな村を捜索し、ようやく見つけた。

 母親は、祭りごとをする際に使う空き地のような場所で他の村の人たちと何か話していた。

 話している顔はやけに真剣で、子供という無責任な立場にいながら心配になった。


「どうしたの?」


 母さんに近づき、何をしているのかと聞いた。

 母さんは驚いたようにして、その後、戸惑うようにして言葉を渋る。


 子供には言えない様なことなのか?

 村の人たちが大勢集まっているようだし、浮気とかそういうのではないだろう。

 何故なのだろうか。


 母さんは他の大人の人と目を合わせた後、こちらに向かってこう言った。


「ふふふ、なんでもないのよ。さあ、かえってご飯の支度でもしようね」


 母さんは俺の手を強く握って、家まで連れて帰った。

 その様相は、俺でも分かる感情の強さがあった。

 その様子だと、普通の子供にでも隠せやしないぞ、母さん。


 =====


 さて原因を探ろうか。

 親の気持ちを考えずに俺は探索する気満々だ。


 多分危険生物でも出たんだろう。

 村の重役さんが書類を持っていたし、それは多分通達された形で知った。

 ということは、簡単には解決できないような事態が起こったんだろう。


 まあ俺の出番という事だ。

 ここまで育ててくれた礼として、恩返しでもしますか。


 俺はこれでも昔、そこそこ強い導師だったんだぜ?

 それこそ、教科書の重要人物一覧で誰コイツ?ってなるほどの。

 言っておいてなんだが、本当微妙だな。


 ま、それでも十分だろう。

 俺でも対処できないようだったら、この村の人じゃあ無理だろ。


 母さんも下級魔法しか使えないようだし。

 そういえば名前が変わって下位魔法だっけか?

 それの生活魔法ってやつしか使えないらしい。


 俺の食べたご飯も、随分と落ち着いてきた。


 こっそりとでて、こっそりと戻ろう。


 =====


 出て行こうとしたら母さんに見つかりました。

 なので、今草原に来ています。

 親同伴で。 


 ちくしょうめ。見つかるとは思わなかった。


 森にいこうと思っていたのだが、母さんがいる中行くことは出来ない。

 これを対策せないかん。


 久しぶりに使うか。魔法を。

 五年ぶりだろう。

 この生を受けてからは一度も使っていなかった。

 最初の二年は親は目を離さなかったし、今も練習できる時間などなかったしな。

 そりゃ、隠蔽しながらも出来たけど、今世はまあ使わないように気を使っていた。

 だから初めての魔法だ。


 無属性魔法であり、視覚をジャミングする魔法である無属性魔法『現実逃避ファンタズム』。

 その効果は、相手の望む幻影を与えるというもの。

 まあ、子供が楽しそうに遊ぶ様子が見えるはずだ。


 ――魔法『現実逃避ファンタズム


 魔力の波が蜘蛛の巣のように網状に絡み、この魔法のターゲットである母さんを包み込む。

 母さんは一瞬目を回し、何事もなかったかのように視界を戻した。

 そして、俺のいる場所からどんどん視線を動かし、見当違いの方向に目をやった。


 よし、今世初めての魔法成功だな。


 後は好きに遊んでも問題ないはずだ。

 遊ぶといっても探索だが。


 この草原には魔物はいず、安全なものだ。

 これじゃあ何も探せない。


 とりあえず、何が起こったのかを把握しなければいけないし、村の重役が持っていたあの紙でもかっぱらってこよう。

 そう後ろを向くと、生臭い息が顔にかかった。


 吐き気を催す。


 目の前には、緑色の人のものではない顔が待ち受けていた。

 反射的に後ろへ下がる。

 前を見ると、そこにはゴブリンがいた。


 この草原には現れないはずの魔物が目の前にいて、怪訝に思う。

 どういうことだ?


 とりあえず、倒すか。

 俺は前世から持ってきた動作で、半ば反射的に手を前に出した。


 そして、他にも数匹ゴブリンがいることに気付く。


 出した手を引っ込め、溜息を出す。


「面倒くせえ……。」


 手をポケットにしまい、上を見上げる。


「これが村の人たち気にしていた異変か?魔物が出やすくなるとか、安全な場所でも出没するとか。この草原でも出てくるとなると、随分と瘴気が濃くなっているんだなあ」


 瘴気が濃いと、魔物が出やすくなる。

 魔物が誕生する瞬間はどうしてか発見例が極端に少ない。

 前世でも全然見たことがなかった。

 まあ何度かは見たので、複数で方があるのは知っている。

 自然発生することがあれば、生殖行為で増える事も知っていた。

 今回は自然発生のほうだろう。 


「村の人たちに報告した方がいいだろうけど……俺が倒すと面倒な事に説明がややこしくなるよなあ」


 そんなこと呟いていると、、ゴブリンたちの目の色が変わった。

 その瞳孔のない緑がかった白い目で獲物を見据え、襲い掛かる。

 この場合の獲物とはオラだ。


 はいはい怖い怖い。


 適当にリアクションをしながら適当な魔法を使う。


「でもさ、もう君ら死んでるんだけどな」


 ゴブリンたちは一斉に首周りから血を噴出し、不思議な様子で倒れていった。

 弱いものである。

 何をしたのかがわからなかったのだろう。


「俺も鈍ったものだなあ。首から血が出ちまった」


 本当に狙っていた事は、首から血を出させることなく倒す事だったんだが。


 腕が鈍っていることを自覚して、憂鬱気に息を吐いた。


――「魔法『次元置換チェンジ


 無属性魔法の上級魔法であった。


 =====


 私の名はヘタリア・エンス。

 千年王直属幹部の中の一人だ!

 強いんだぞ!


 千年前私は仲間内で平社員だったわけだが、千年もたてば私も一人前の肩書きを手に入れた。

 魔族の中で私に敵う者は殆どいない。


 今日も今日とて王の命令を聞いて、世界中を飛び回る日々だ。

 最近の仕事はなにやら、魔物が出やすいように瘴気を振りまく事だ。

 魔物は魔族ならば少々調教し屈服させられるので、使いやすいんだろう。

 世界を狂乱に導く意味合いもあるに違いない。


 五百年前もこんなことしていた気がするが、そのときは人間の勇者に阻止された。

 今回はその勇者も老衰した事だし、千年追うも力を取り戻したようだし、行けるだろう。

 勇者さえいなければこちらのものだ。


 世界征服したら好物の饅頭をいっぱいほうばりたいものだ。

 餡子がいいな。


 さて、瘴気を振りまいたのはどこだったか。

 名も知らぬ人の村だった。


 一度様子を見てから帰るとするか。


 私の見た目は人間なので、人の宿谷に泊まっても問題ない。

 だからそうしているのだが、そこは夜に飯が出るのでな。

 その時間には帰らなくてはいかん。


 そう思いながら、空を飛ぶ。


 村を過ぎ、草原まで行った時に、なにやらゴブリンたちがやられているのを見つけた。

 そのやられ方が村人がやったにしてはおかしい事に気付き、近づく。


 ゴブリンが現れたということは瘴気が高まった証拠なのだが、それがこうもやられるとは。

 もっとも、ゴブリン程度ならおかしくはないか。


 そう思いながらゴブリンのやられ方を見ると、首周りから血を出しているようだ。


 ん?


 なにか、過去のトラウマが蘇った気がした。

 気のせいだろう。

 多分。


 さて、と、様子も見たし、どうやったのかは知らないが帰ろうと後ろを向く。

 向こうとして、気付く。

 死んだゴブリンたちの姿に違和感を覚えたことに。

 よくよく観察すると、ある事が判った。


「首から上がすげ変わっている?」


 そうだ、何処かおかしいと思ったら、メスの姿をしたゴブリンの顔が何処か男のように厳つく、オスの姿をしたゴブリンの顔がどこかメスのような感じだった。


 ゴブリンの顔など判別することは難しいが、その様子――胴体と頭の差異が他の固体にも見られる。

 つまりは、頭が入れ替わったという事だろう。


 その光景に、過去も過去、それこそ千年前の魔法マッド導師の姿が記憶の中から浮かび上がり―――――……。


『知っているか、魔物ってこうやって頭を挿げ替えてもそのままくっ付くやつとかいるんだぜ?』


『なあ、最近どんなヤツでも頭を入れ替えてもくっ付いたままにできるようになった!結局死んじゃったけど』


『新しい魔法の習得に成功したんだが……被検体がいなくてな。……さっせーんw』


「ひぎゃぶろふうッ!?」


 過去の記憶が蘇り、人から出たものとは思えない声が出た。

 出したのは私だ。


 ああ……

 あぁ、ああ。


 まさか生きているのか?

 戦死したと聞いていたが。


 ……有給たまってたよな?


 しばらく休暇をとる事にした。

 暫らくの間は故郷でハネムーンでもしようか。


 私は、部下に仕事を押し付け、何事もなかったかのような顔をして休暇を取り、暫らくの間実家で親孝行に精を出した。

 親は私の様子を見て何処か違和感を感じたらしく、どこか優しかった。

 久しぶりに帰ってきたのもあるだろうけどな。


 私はしばらく、過去を振り返ることを辞した。

 あの記憶が下がるまで――……。…。・・・。


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