あなたを手に入れるまで
短編なのに15000文字超えててすいません。
視点が切り替わるところでライン入れてありますが、視点が変わるのが嫌いな方にオススメしないくらいコロコロ変わります。
ちなみに悪役令嬢モノではありません。
糖度は低めだと思います。
何とははっきりと言えないけれど、ずっと違和感があったように思います。
なぜと聞かれても答えようもないほど、小さな違和感がずっと胸の中に燻っていたように思います。
それがなぜなのか、理解したのは私が5歳になった年に引き合わされた彼らの顔を見た瞬間のことでした。
あぁ、私はこの世界に生まれ変わったのだ・・・と。
私はその瞬間に巻き起こった記憶の渦に飲み込まれ、意識を手放しました。
周囲にいたお父様や他の大人たちは、極度の緊張からくる失神だとそのときは思ったようです。
その後数日の間、私は高熱を出して両親とお兄様に随分と心配を掛けたらしいです。
私の今の名前はリシャーナ・アイリス・リンデンバーム。
前世の名前は思い出せないけれど、日本に住んでいた普通の女子大生だったと思います。
読書が好きで、本屋や図書館によくいっていたことは思い出しました。
そしてこの私の名前が、好きで読んでいた小説の続編に出てきたキャラの一人。
ヒロインではない、どちらかというとヒロインのライバルキャラという位置づけだったと思います。
前世の記憶があいまいでハッキリと思い出せない部分が多くて、どういった経緯でヒロインのライバルとなっていたのかは思い出せないのです。
ただ、ヒロインとの実技訓練時に対抗心から魔力暴走を引き起こし、最愛の人を傷つけてしまう。
そしてそのことが原因で自己崩壊を引き起こし、最後は破滅してしまうキャラだったと思うのです。
ヒロインは逆にその実技訓練の事故が元で、自身の恋心を自覚して怪我をした王子と心を通わせてハッピーエンドといったあらすじだったと思います。
つまり二人は、魔術師としてではなく恋のライバル関係でもあったようです。
かいつまんだ内容は思い出せるのに、ヒロインと私の好きな相手が王子だったということは思い出せるのに、肝心の王子の名前が思い出せないのです。
王子を好きになってしまうことが最大の問題なのであれば、好きにならないように、接触しないようにすればいいと思われるのですが、いかんせん我が家は王家と密接な関係にある由緒正しい侯爵家の筆頭。
王妃様とお母さまは従姉妹で幼い頃からとても仲がよかったこともあり、結婚後も交流が耐えない。
そんな我が家で王子と接触せずに過ごすというのは、無理があると思われました。
そして件の王子・・・現在ビスタ王家には王子が二人いらっしゃるのです。
ギリアム・レオン・ビスタ第一王子とルキウス・シオン・ビスタ第二王子。
双子の王子で見た目はよほど親しい者でないと見分けが付かないといわれるほど、よく似ていらっしゃる。
そして小説で覚えている部分は、全てにおいて二人に共通するものばかりでどちらがヒロインの相手になるのかさっぱりわからないということ。
仕方ないので二人とも一定の距離を置いて接しているのですが、お兄様ととても仲がいいらしくて幼少時から何かと私にも構いたがるので困ってしまうのです。
邪険にするわけにはいかない、でも親しくなるわけにもいかない。
私はどうするのが正解なのかわからないまま、二人とお兄様が通う中等魔術学園に今年入学します。
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このセーヌ大陸には魔力を有する者と魔力を持たない者が存在しています。
魔力を有する者はそれだけで各国で職に就くことができ、高等魔術を扱える者は更に高い地位を手に入れることが約束されているようです。
そんな魔力を持つ者たちが魔力制御を覚えるために通うのが、各国に存在している中等魔術学園です。
さらに上の高等魔術学園は大陸に2つしか存在せず、さらに高等魔術を学ぶために厳しい実技訓練などを実践する施設です。
そしてこのビスタ王国は、その2つしかない高等魔術学園を有する大国の一つでした。
小説の舞台は高等魔術学園だったと記憶しています。
ならば私は高等魔術学園に進まない道を選ぶほうが無難なのでしょう。
この中等魔術学園にいる間に、魔力制御を確実に習得する。
そして、高等魔術学園には進まずに家庭教師を就けてもらい、淑女教育を更に徹底してもらおうと思います。
前世と変わらず、今も私は読書が大好きです。
おかげで自宅である侯爵家の書庫にある多くの本を幼い頃から愛読書として育ち、様々な知識は蓄えてあります。
そして知識は持っていても損にはならないと実感しているのです。
高い魔力を有する者がいるということが、どれだけ国と我が家に力を与えるのか・・・
国を守る力、国を豊かにする力、国を平穏にする力、全てにおいて魔力が必要となる世界・・・それがこのセーヌ大陸。
それだけに両親が強い魔力を持つ私に期待している王家との婚姻関係。それでも、私はあの小説と同じ未来には行きたくない。
私が高等魔術学園に進んでしまったら、王子の一人を愛してしまったら、そして小説と同じように傷つけてしまったら・・・私はやはり自分で自分が許せないと思うから。
既に芽生えてしまっているこの淡い想いは、絶対に育ててはいけないのです。
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中等魔術学園に入学して魔力制御と基礎知識を徹底的に身体に叩き込んだ私は、14歳になりました。
今日でお兄様と双子の王子は中等魔術学園を卒業します。
その卒業記念パーティーで私はお兄様のパートナーになると聞いていたのに、会場にお兄様にエスコートされて到着してみればお兄様は双子の王子が連れていた令嬢の下へいき、私はそのまま王子達と取り残されてしまいました。
「お兄様!!どういうことですの!?」
「今日のパートナーはルキウスと交代したから、ルキウスと踊ってくれ。」
「!!・・・当日になって何をおっしゃってるんですか!!」
「ルキウスの相手が嫌なら、ギリアムでもいいぞ?
余った方はマリア嬢と踊るらしいからな。」
「どっちでもいいみたいな言い方は失礼ですわ!!」
お兄様の言葉に私は怒り心頭で、制御を覚えたにも拘らず今にも魔力が溢れだしそうでした。
「くっくっ・・・デイルも素直にリリーナ嬢と踊りたいから、リシャーナは俺達に任せると言えばいいのに。」
「まぁリシャーナはデイルのパートナーってことにしないと、ここに連れ出せなかったんだから仕方ないんじゃないか?」
「まぁ、本来は卒業生のパートナーは婚約者か身内の者ってなってるからな。」
「それでリシャーナは、どっちと踊りたい?」
楽しそうに笑っている双子の王子は、そう言って私に向かってそれぞれ手を差し出した。
「私に選べとおっしゃいますか・・・
殿下達こそ、婚約者がまだいらっしゃらないのですから、気になるご令嬢でもお誘いすればよろしかったではありませんか・・・
お兄様がおっしゃっていた、マリア様とか・・・」
マリア・リリー・ベルガモット伯爵令嬢、彼女こそ小説の主人公であり私のライバルとなるはずの女性。
私と同じ年で現在中等魔術学園の同級生でもあります。
「マリア嬢はちゃんと誘ってあるよ、あぶれた方がパートナーになる予定でね。」
「それで、どっちと踊るんだ?」
「私は・・・」
どちらの手も取れない・・・そう言葉にする前に、強引に手を引っ張られました。
「あぁもう!じれったいな、全く。
俺がパートナーで決定するからな!
別に構わないだろう?」
「はいはい、どうぞ。じゃあ俺はマリア嬢を迎えに行ってくるよ。」
引きずられるように会場へと向かう私に、ギリアム殿下は笑顔で手を振っております。
「あ・・・あの・・・ルキウス殿下。」
「なんだ?あぁ、悪い痛かったか?」
「いえ、大丈夫ですが・・・殿下はマリア様と踊られなくてよろしかったのですか?」
もし彼がマリアのことが好きなのならば、私のパートナーでは申し訳ない。
「気にするな、ギリアムがマリア嬢のことを気に入っているみたいだからな。
兄の恋路は応援してやらないとな。」
少し意地悪そうに口の端だけでニッと笑ってそう言ったが、彼自身もマリア様のことが好きなのだとしたら自分の想いは封印するということなのでしょうか・・・そう、私と同じように。
そうだとしたら、この先の未来で彼女と幸せになるのは彼なのでしょう。
「パートナーが私で申し訳ございません。
あの、今からでも他のご令嬢にお願いすれば・・・」
「何を言ってるんだ?
今更ほかの令嬢に誘いなんかかけれないし、ここまで着てリシャーナを帰したら俺が怒られるだろうが?」
申し訳なさにしゅんと項垂れる私の顎を片手で持ち上げて上を向かせたルキウス殿下は、私の目を覗き込んで再びニッと笑った。
「なんでリシャーナがすまなさそうにするんだ?
俺はリシャーナがパートナーでよかったと思うぞ?
子どもの頃からの付き合いで気心は知れているし、他の令嬢達みたいに俺に媚びた態度は取らない。
あぁ、あと香水臭くもないしな。
俺は香水臭いのは嫌いなんだよな。鼻が曲がりそうだからな!」
「まあ・・・殿下ったらご令嬢達がお聞きになったら、ガッカリしてしまうことをおっしゃらないでくださいませ。」
ルキウス殿下の言葉に思わず私の頬が綻んでしまいました。
「そうそう、リシャーナはそうやって笑顔でいる方が可愛いぞ。
だがまぁ・・・うん・・・俺以外には見せてくれるな・・・」
ルキウス殿下に可愛いと言われて思わず顔から火が出るかと思うほど、ドキドキしてしまって再度俯いた私には、その後の殿下の呟きは聞こえていなかったのでした。
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俺には幼馴染が二人いる。
一人は学友でもあるデイル・シリウス・リンデンバーム、次期リンデンバーム侯爵となる男で、学業面ではよきライバルでもある。
もう一人はデイルの妹で2つ下の、リシャーナ・アイリス・リンデンバーム。
リンデンバーム侯爵が目に入れても痛くない可愛がりようを見せる令嬢で、俺達双子の王子の婚約者最有力候補だ。
ただ、どちらの婚約者にするかで意見が分かれていたらしく(母上に至ってはどちらの婚約者でもいずれ嫁いできてくれるならいいと思っているらしい)最終的には、王太子となった王子の婚約者とすることを決定したらしい。
つまり表面上は俺達には婚約者がいないことになっているが、実際は二人で彼女を取り合っている状態ともいえる。
今現在便宜上産まれた順で第一王子、第二王子と俺達は位置づけられてはいるが、王位継承権は揃って第一位。
今後の動向とそれぞれの意思で、王太子として指名され正式な婚約となるらしい。
まぁ王太子と指名された方が彼女を選ばなかった場合は、彼女は片割れの婚約者となるらしいのだが・・・あいつが選ぶかどうかわからない以上、彼女を確実に手に入れるためには王太子になる道しかない。
それは強いては王になるということだが、いいじゃないか。
彼女を手に入れられるなら、俺は王になってみせよう。
あの笑顔を俺だけのモノにするために、努力は惜しまぬ。
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俺には双子の弟と兄弟のように育った幼馴染の兄妹がいる。
幼馴染の一人デイルは、同じ年なこともあり学友としても共に過ごしていて、よきライバルだと思える。
そして妹のリシャーナはずっと可愛い妹のようだと思っているんだけど、どうやら俺の片割れは少し違う気持ちのようだ。
多分俺とデイルしかまだ気づいていないと思うけど、あいつがリシャーナを見る目が他の令嬢達に向ける目と全く違うこと。
リシャーナに対しては口調は砕けているから周囲からはそう見えないのかもしれないけれど、大切な宝を扱うときのように優しく手を触れること。
他の令嬢達には態度こそ紳士的だが、あからさまにあいつの放つ空気が迷惑そうだからね。
でもそんな態度の違いもリシャーナには全く気づかれていないらしく、いつも自分の相手をするのは幼馴染だからデイルに頼まれているから仕方なくだと思っている節がある。
まぁデイルがあいつへの意地悪で、リシャーナにそう思わせている部分もあるんだけどね。
俺も多少は意地悪したくなるのは、可愛い妹が取られる気分だからかな。
今後どうなるかはあいつ次第だろうけど、せっかく間近で見れるんだからどうなるかじっくり見ておこうかな。
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どうすればいいのか悩んだまま過ごした中等魔術学園の残り2年間勉学と魔術制御、そして淑女教育に励んで参りました。
その結果私が高等魔術学園に入学することを拒むことは、実質不可能な状況になってしまいました。
中等魔術学園を主席での卒業となった私が、高等魔術学園に入学する道以外を選ぶことは許されなかったのです。
そして、次席だったマリア嬢も小説の通り高等魔術学園に入学。
殿下達とお兄様は高等魔術学園の最高学年に在籍。
とうとう小説の舞台が完成してしまいました。
高等魔術学園からは全寮制となります。
長期休暇などでない限り、他国から進学してきた生徒達は自宅に戻ることは適いませんが、お兄様や殿下達は馬で1時間も走れば着く場所にリンデンバームの本宅があるため休みのたびに連れ立って帰ってこられます。
王宮はさすがに少し遠いために、殿下達はリンデンバーム家に毎週のように来られて、学園での様子を話していき、その様子をお父様が陛下や王妃様にお話されているのです。
これだけで、どれだけ我が家が王家と親密な関係にあるかが、他の貴族達に知れるというものです。
そして、そんな貴族の令嬢達から私は嫉妬と羨望の眼差しを浴びせられる日々。
殿下達を独り占めしているように見えるのですから、仕方ないことなのでしょう。
この状況でどれほど私の心が悲鳴を上げているか、誰一人気づかないのだとしても・・・
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今年で高等魔術学園も最後の年となる。
卒業と同時に、俺かあいつのどちらが王太子に相応しいかが父上より宣言されることになる。
そして、リシャーナとの婚約が決定される。
リシャーナ自身が俺を選んでくれるなら、王太子になどならなくても構わないが・・・
もし、王太子になってもリシャーナが俺を選ばなかった場合。
俺はあいつを・・・許せるだろうか。
リシャーナを手に入れられなかったとき、俺は平静でいられる自信がない。
世界を破滅させるほどの絶望を味わいそうだ。
だからどうか、リシャーナ・・・俺を選んでくれ。
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「入学おめでとう、リシャーナ。」
「ありがとうございます、ルキウス殿下。」
「これは俺達からのお祝いだ。」
「ありがとうございます、ギリアム殿下。」
殿下達から高等魔術学園へ入学のお祝いとして、揃いの髪飾りと耳飾りを贈られた。
私は殿下達それぞれと目を合わして、ゆっくりと淑女の礼をとってお礼を言う。
「相変わらず、リシャーナとデイルだけは俺達の見分けがつくな。」
「これだけ見分けられるのは、父上と母上以外はリシャーナとデイルだけだぞ。」
「お兄様と私は幼い頃より、殿下達と一緒に育ってきたようなものだからでしょうか?
殿下達の声も仕草も、癖の違いもわかりますわよ。
あと、好みの違いも知っておりますわね。」
少し首を傾げて言う私の言葉に、殿下達はそんなに違いがわかるのかと感心していた。
私が二人を見分けられるのは、ずっと片方だけを見つめてきたせいだろうけど・・・それを殿下達に言うことはない。
私のこの想いは、抑えても抑えてもここまで育ってしまったけれど、この想いが実ることはない。
私の想いが育つということは、小説と同じ道を選んでしまっているということ・・・
そしてこのままその道をいくならば、この方を傷つけてしまう日が来るということ・・・
そうなる前に、あの事故が起こる前に私は己の命を絶たねばならない。
この方を傷つけた後に絶望の中で絶つよりも、傷つける前に・・・私は消えねばならない。
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高等魔術学園にリシャーナが入学してきた。
俺達は装身具を祝いの品として作らせていたので、それを持ってリシャーナの元へと行って来た。
相変わらず、俺達をしっかりと見分ける彼女に感心と喜びが湧き起こる。
父上や母上はさすがに間違えないが、幼い頃より傍に仕えている侍女長や侍従長達でさえ、俺達を時折間違える。
普段毎日接している、彼らでさえ間違えるのに、リシャーナとデイルは俺達を間違えたりしない。
デイルがいうには、顔が同じだが纏っている魔力の色が全く違うらしい。
デイルは魔術師が持っている魔力を色で見えるようだ。
そしてリシャーナは俺達の声も仕草も、癖の違いもわかるという。
誰もが同じ声だという俺達の声の聞き分けさえ出来るという。
それがどれだけ俺達にうれしいことか、リシャーナにはわかっていないんだろうな。
それにしても、日に日にリシャーナの表情が曇っていくのが気になる。
どうしたのか聞いてみても、何でもないと無理に笑顔を見せる。
俺がみたいのは、あんな笑顔じゃないんだ。
いったい何があったんだ。
マリア嬢とは仲良くやっているようだし、それとなく彼女に聞いてみるか・・・
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今日は、ルキウス殿下に突然話しかけられてしまいました。
ギリアム殿下とはよく風魔法についての話をするので、はじめはギリアム殿下かと思っていたのですが、話していると違うことに気づいて、申し訳なくて謝罪しましたが、殿下はいつものことだと笑っておられました。
ルキウス殿下は、私の学友であるリシャーナ嬢の様子がおかしい理由を聞いてこられました。
「それで、マリア嬢。
リシャーナと一番長く過ごしている君になら、理由がわかるかと思って聞いたんだが・・・」
「申し訳ございません。
私も、リシャーナ様が塞ぎこんでいる詳しい理由まではわかりかねますわ。
ただ・・・」
「ただ?」
「誰か想う人がいらっしゃるのではないかと・・・」
「想う人?」
「はい。
恐らく殿下達の最高学年の方だと思います。
殿下達の実技訓練を、遠めに見ていらっしゃる姿をたまに目にいたします。
とても切なそうな目を向けて、溜め息をついていらっしゃるので・・・」
私がそう告げた途端、殿下の纏う空気が急激に冷えたように思われました。
私は一瞬息を飲んで、恐ろしくて殿下を直視することが出来なくなってしまったほどでした。
私の告げた内容が殿下の気に障ったことは明白で、私は思わず謝罪してしまっていました。
「あぁ、すまない。
君が悪いわけではないんだ。
そうか、リシャーナの想い人が俺達の学年にいるのか・・・そうか。」
「あの・・・ルキウス殿下・・・」
「ありがとう、突然すまなかったな。
リシャーナとはこれからも仲良くやってくれ。」
そういうと、殿下は冷気を纏ったまま立ち去ってしまいました。
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リシャーナに想い人がいるらしい。
それも俺達と同じ学年の誰かだという・・・いったい誰だ。
最高学年に今現在在籍している男子は16人。
そのうち俺達3人を除外したとして、残り13人。
最高学年にいるならば、卒業後に一代限りの爵位を持つことも可能だ。
ならば身分差でリシャーナが悩むことはありえない。
リシャーナほどの令嬢から想いを告げられて、受け入れない相手がいるというのか?
それは既に決まった相手がいる場合と、既に想う相手がいる場合。
とにかく、誰がリシャーナの想い人なのか突き止めておかなくてはな。
リシャーナの心が俺にないのなら、リシャーナが選んだ相手がリシャーナを幸せに出来ないのなら、相手の男は生かしてはおかん。
リシャーナの幸せな笑顔だけが、俺にとっての幸せだ。
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「リシャーナ。」
「ルキウス殿下、どうかなさいましたか?」
「少し話があるんだが、いいか?」
「次は移動教室で、実技訓練場に行かねばなりませんの・・・授業の後でもよろしいでしょうか?」
「構わない、俺も次は実技訓練だから一緒に行こう。」
殿下が私の教室まで来られて声を掛けられるなどと、何があったのでしょうか・・・
何か悩まれてるようにも見えますが、授業が終わってからでもいいということは、そこまで切羽詰まった内容ではないということでしょうか・・・
いったいどうされたのでしょう。
何もなければいいのですが・・・
「リシャーナ様。」
「あぁ・・・ごめんなさい。
マリア様、はじめましょうか。」
物思いに耽ってしまい、マリア様に声を掛けられるまで実技訓練が開始したことに気づいておりませんでした。
今日は最高学年も同じ時間に実技訓練らしく、離れた場所でルキウス殿下達も訓練中です。
同時に訓練中・・・同時・・・と思い至ったとき、私の頭に小説の内容がよぎりました。
「実技訓練・・・殿下がすぐ近くにいる・・・魔力暴走・・・そんなのダメよ・・・」
その直後、マリア様の悲鳴が当たり一面に響き渡っていたのを聞きながら、私の意識は暗闇へと堕ちていったのでした。
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「リシャーナ様ぁぁぁー!!!いやぁぁぁ、誰かー!!!」
その悲鳴に一斉に訓練中の生徒と教授陣と共に俺が目を向けたとき、リシャーナは全身血まみれで吹き飛んで行た。
「リシャーナ!?!?」
「リシャーナ様、リシャーナ様・・・なぜいきなり無防備に!?
しっかりしてください、リシャーナ様!!」
泣きじゃくるマリア嬢をギリアムが宥め、俺は血まみれのリシャーナを抱き起こして治癒魔法を掛ける。
治癒魔法が苦手だなどと言ってられるか・・・俺の命に代えても助けてみせる。
すぐに救護担当の教授が呼ばれ、横から治癒魔法を掛けていく。
その間にも、リシャーナの白い肌が血の気を失って青白くなっていく。
「傷は全て塞がりましたが、出血が多すぎます。
とにかく、救護室へ運びましょう。
ここでは身体が冷えてしまう。」
「俺が運ぶ・・・ギリアムはマリア嬢を連れてきてやってくれ。」
「あぁ、わかった。
マリア嬢、行きましょう。
あなたもひどい顔色だ。失礼。」
そういうと、ギリアムは真っ青になって泣きじゃくっているマリア嬢の身体を抱き上げて、俺の後に救護室へと向かった。
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私は死んだのでしょうか。
もしあのまま死んでいたのだとしたら、私はあの方を傷つけなくて済んだはずです。
でも、もしも無意識に魔力暴走を引き起こしていたとしたら・・・恐ろしいことです。
マリア様にはひどいことをしてしまいました。
私のせいで、彼女にもひどい苦痛を味合わせてしまっていることでしょう。
それでも私は・・・小説と同じ未来は選びたくなかった。
願わくば、私がいなくなることであの方が幸せな未来を歩まれますように・・・
出来れば誰も傷つかない未来でありますように・・・
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目の前の光景が信じられない。
寝台に横たえられたリシャーナの顔は、まるで蝋人形のように血の気がなく青白い。
それでも、かすかに呼吸はあり生きてくれてはいる。
「少しは落ち着いたかな、マリア嬢。」
ギリアムから暖かい飲み物を受け取り、少し落ち着きを取り戻したマリア嬢に、何があったのか聞いてみた。
「実技訓練開始から、様子はおかしかったのです。
なんだか上の空と申しましょうか・・・訓練が開始したことにも気づいておられなくて、声を掛けてやっと気づかれたという感じでした。
そして、あの時・・・私が魔法を放った瞬間に・・リシャーナ様は・・・全ての防御を解除されて・・・私の魔法を無防備に・・・」
その瞬間を思い出してしまったのだろう、マリア嬢は再び泣き出してしまい、ギリアムがそれを宥めた。
「マリア嬢が悪いわけではない、気に病む必要はない。
攻撃魔法を目の前にして、無防備になるなど自殺行為だ・・・」
「ギリアム・・・マリア嬢を寮まで送り届けてやってくれ。
俺は、リシャーナを看ている。
デイルはどうした?」
「デイルは侯爵に連絡しに行ったよ。」
「そうか・・・」
マリア嬢の肩を抱き、ギリアムは救護室を出て行った。
治癒魔法でも流れた血は元に戻せないため、あとは本人の体力だけで回復するしかない。
救護室には、時折様子を見に救護担当の教授がやってくるが、今は俺とリシャーナだけだった。
「リシャーナ・・・なぜこんな・・・何をそんなに悩んでいたんだ。
俺ではお前の力になれなかったのか・・・教えてくれ、リシャーナ。」
血の気がなく冷え切った小さな手を握り締め、俺はリシャーナが目を覚ますことを願うほかなかった。
その後、侯爵がデイルと共にやってきて、リシャーナは自宅へと運ばれていった。
俺はそれに付き添い、侯爵に願い出てリシャーナの部屋でずっとリシャーナを看る許しを貰った。
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ずっと暗闇の中にある一本の光る道を歩いていました。
周りには何も見えず、ただひたすらそこに道があるから歩いていました。
ふとした拍子に、誰かに呼ばれた気がしたのですが、周りには何もありません。
「なんだか懐かしい気がするのは気のせいかしら・・・
前にもこの道を歩いたことがあるような・・・
何も見えない暗闇なのに、光る道があるこの光景・・・
いつだったか歩いたことがある気がする・・・」
何も見えないし聞こえないのに、不思議と怖くないこの空間を私は知っている気がします。
そして時折聞こえてくるかすかな声・・・
それは誰の声だったのでしょう。
「遠い記憶の彼方でも、こうやってこの道を歩いて誰かの声が聞こえていた気がするわ。
あれは誰の声だったのかしら・・・」
そして今聞こえてくる声は誰の声なのかしら・・・
とても切ない、心をえぐられるように響いてくる声。
「あれは・・・誰?
私は知ってるはず・・・あれは・・・・・・殿下?」
どうしてそんなに悲しそうな声を出されているのですか?
何がそんなにあなたを苦しめておられるのですか?
殿下・・・私の命よりも大切な、あなたを悲しませているのはなんですか?
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「リシャーナ・・・頼む、目を開けてくれ・・・」
俺はリシャーナの手を握り、ずっと祈るように額につけていた。
そんな俺の耳に、微かに聞こえた声に俺はすぐさま反応してリシャーナの顔を見た。
そこには、俺が愛して止まない青灰色の瞳があった。
「どう・・・されましたか?
殿下が・・・悲しまれるほど・・・何がありましたか?」
そしてそう掠れる声で呟いたリシャーナの瞳には、俺への気遣いの色だけが浮かんでいた。
俺がなぜこれほど憔悴しきっているのか理解出来ず、何が原因なのかと心配する思いだけがそこにあった。
「リシャーナ・・・よかった。
このままお前を失ってしまうのかと・・・よかった。」
「殿下・・・」
ひんやりとした手が俺の頬を優しくさする。
俺はどうやら泣いていたようだ。
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呼ばれた声があまりにも切なくて、私は暗闇の中で声のするほうに走っていました。
そして気がついたそこには、とても憔悴しきっているルキウス殿下の姿がありました。
なぜそんなに苦しんでおられるのですか・・・
何があったのですか・・・
「どう・・・されましたか?
殿下が・・・悲しまれるほど・・・何がありましたか?」
普通に聞いたつもりが、随分と掠れた声しか出ず自分でも驚いてしまいました。
そんな私の声にすぐさま反応して、殿下がこちらに目を向けられます。
「リシャーナ・・・よかった。
このままお前を失ってしまうのかと・・・よかった。」
「殿下・・・」
ただ、何度もよかったと言う殿下の頬を涙が伝っていました。
私はいたたまれなくなり、そんな殿下の頬に手を伸ばしていました。
「お泣きに・・・ならないで・・・何か悲しいことでも・・・ありましたか?」
普通に聞きたいのに、声が掠れて喋るのがなぜか苦しい。
なんてもどかしい状態なのでしょう。
「これは嬉し涙だ・・・すぐに水と、侯爵達を呼んでくる。」
そういうと殿下は握っていた私の手を離し、部屋を足早に出て行かれました。
その段階で、私は自分がどこにいるのか気づいたのでした。
そして自分がなぜここにいるのかを思い出したのでした。
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俺が慌ててやってきたことに、デイルと侯爵は最初最悪の事態を想像したようだったが、俺の表情を見て違うことを悟ってすぐに医者を呼びに行った。
その後、俺は侍女に水を頼んで再びリシャーナの部屋へと戻った。
「殿下・・・」
「手を貸そう、起きれるか?」
「私・・・」
「話は後だ、まずは水を飲むといい。
丸二日意識がなかったんだ・・・喉が渇いているだろう?」
そう言って背中を支えてやりながら、リシャーナを寝台から起こすと水の入ったコップを口元に持って行ってやる。
ゆっくりと水を飲み、深く息を吐いたリシャーナを再び寝台に横たえる頃、侯爵が医者を伴ってやってきた。
医者が診察する間、俺と侯爵達は部屋から追い出されたが、医者の「後は食事と休養をしっかりと取れば回復するだろう」という言葉に全員が安堵し、診察の後寝てしまったリシャーナを置いて、俺は一度王宮へと戻ることにした。
リシャーナの意識が戻ったことを、ギリアムや父上達に報告するためだ。
そして、俺の想いと願いをこの際父上達にはっきりと示すことを決めたからだった。
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「リシャーナ様・・・」
マリア様は私の部屋へ入った瞬間にそういうと、そのまましばらく身動ぎせず立ち竦んでしまいました。
「マリア様・・・ごめんなさい。
あなたにひどいことを・・・」
「何をおっしゃいます!
リシャーナ様がこのような目にあったのは、私のせいではございませんか・・・
リシャーナ様にもしものことがあったら・・・私・・・わたくし・・・」
そう言って、今度は私に縋りついて泣き出してしまわれました。
「マリア様のせいではございませんわ。
全てはあの時、私が全てを放棄してしまったせい・・・
私は・・・あの時・・・自分の命さえも放棄してしまったのですから・・・」
「!?・・・なぜですリシャーナ様!・・・なぜそのような・・・」
縋りつくマリア様の背を撫でながら、私が言った言葉にマリア様は信じられないというように目を向けました。
なぜ死を選ぼうとしたのか・・・と。
「私の想いが育ってしまったから・・・願ってはいけない想いが育ってしまったから・・・
実るはずのない想いが・・・あの方を傷つけてしまう想いが、育ってしまったからですわ。
このまま行けば、私はあの方を傷つけてしまう。
あの方を傷つけてしまえば、私の心は絶えられずに壊れてしまうでしょう。」
「わかりません・・・なぜリシャーナ様の想いが、お相手の方を傷つけてしまうのですか!」
「俺がリシャーナの想い人を殺してしまうかもしれないからか?」
突然割って入った声に、私もマリア様も驚いて扉のほうを見ました。
「俺がリシャーナの想い人を知ったなら、嫉妬で殺してしまうかもしれないからお前は自分が死ぬことを選んだのか!?」
「殿下・・・何を・・・」
そこにはルキウス殿下とギリアム殿下が立っていました。
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マリア嬢と共に俺達は侯爵家にやってきた。
マリア嬢は先にリシャーナの部屋へと侍女に案内させ、俺達は侯爵に挨拶に行く。
抑えきれなくなった俺の気持ちを、侯爵にも伝えておくためだった。
そして俺達がリシャーナの部屋の前に着いたとき、その言葉が聞こえた。
「私の想いが育ってしまったから・・・願ってはいけない想いが育ってしまったから・・・
実るはずのない想いが・・・あの方を傷つけてしまう想いが、育ってしまったからですわ。
このまま行けば、私はあの方を傷つけてしまう。
あの方を傷つけてしまえば、私の心は絶えられずに壊れてしまうでしょう。」
「わかりません・・・なぜリシャーナ様の想いが、お相手の方を傷つけてしまうのですか!」
「俺がリシャーナの想い人を殺してしまうかもしれないからか?」
リシャーナの言葉に、俺は知らずに扉を開けてそう言っていた。
「俺がリシャーナの想い人を知ったなら、嫉妬で殺してしまうかもしれないからお前は自分が死ぬことを選んだのか!?」
「殿下・・・何を・・・」
俺の言葉にリシャーナは驚きを隠しきれず、目を見開いていた。
「リシャーナの想い人が最高学年にいることは知っている。
随分と思い悩んでいたこともわかっている。
それが俺でないこともわかっている。
おかげで俺は相手の男を殺してやりたいほど、嫉妬しているからな!
だが俺は、リシャーナが幸せそうに笑っていられるならそれでいいんだ!
お前が選んだ相手が誰であっても、俺はお前さえ幸せならそれでよかったんだ!!
なのに、お前が俺達以外を選んだとき相手が傷つけられると思い至って死を選ぶなど・・・誰が望むものか!!」
今まで大事に育ててきた関係、大切に守ってきた相手、それが自分の嫉妬心のせいで死を選ぼうとしたことが許せなかった。
「俺は、お前が笑顔でいてくれればそれでいいんだ・・・」
「殿下・・・私は・・・」
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ルキウス殿下の突然の言葉に、私もリシャーナ様も驚いて声も出ませんでした。
そんな私をルキウス殿下の後ろからそっと手招きして、ギリアム殿下が連れ出されました。
「リシャーナと感動の対面だったとこ悪いが、ルキウスに少し譲ってやってくれないか。」
「それは・・・構いませんが・・・あの・・・」
「たぶん今回の件は、お互いの気持ちの行き違いなんだ。
昔から両思いなのに、お互いがそれに気づいてなかったからな。
デイルと二人で、どうなるのか見てきたんだ。」
ギリアム殿下の言葉で、私は納得してしまいました。
リシャーナ様がいつも最高学年の集団の中で、誰をずっと見つめていたのか。
そして何を勘違いされたのか、ルキウス殿下は自分自身に嫉妬されていたのか。
「まぁ、ルキウスがさっさとリシャーナに気持ちを伝えていれば、今回の事故は起きなかったんだから、マリア嬢が一番の被害者だな。」
「そのようなことは!」
「とりあえず、二人はほっといて俺とお茶でも飲んでないか?
出来れば、この先もずっと一緒に飲んで欲しいんだけど?」
「え?・・・あの・・・それはどういう・・・」
ニッと口の端を上げて笑う殿下に、私は思わず息を飲んでしまったのでした。
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殿下は何を言っているのでしょうか・・・
私が好きな人を殿下が知ると、嫉妬で相手を殺してしまうとはどういう意味でしょうか?
殿下が殿下自身に嫉妬するなんて・・・意味がわかりません。
「殿下・・・あの・・・どういう意味でしょうか・・・
殿下が私の想い人に嫉妬していると・・・聞こえたように思いますが?」
「そう言ったつもりだが、わからなかったなら言い直そう。
俺はリシャーナを愛しているから、リシャーナが俺以外の男が好きなことに嫉妬している。
殺してしまいたいほどにな!」
私は聞き間違えてしまったでしょうか・・・
殿下が私を愛していると言ったように聞こえます。
何の間違いでしょう・・・殿下が私を選ぶはずなどないのに。
そう思った私は、思わずポツリと呟いていた。
「殿下が殿下自身に嫉妬なさるなんて変ですわ・・・
私・・・耳がおかしくなってしまったのかしら・・・」
「リシャーナ!」
「はい?」
「もう一度言ってくれ!」
「ですから・・・殿下が殿下自身に嫉妬するなど、おかしなことですわ・・・と・・・あっ・・・」
私の呟きに殿下は何を驚いたのか聞き返してきました。
それに私は何も考えずに言い直し、そして自分が言った言葉にやっと思い至り私は自分の口を押さえていました。
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リシャーナは今なんと言った?
俺が俺自身に嫉妬している。
それはつまり・・・
俺はそれを確信したくて、リシャーナに聞き返していた。
「ですから・・・殿下が殿下自身に嫉妬するなど、おかしなことですわ・・・と・・・あっ・・・」
そういうと、しまったとばかりにリシャーナが己の口を手で押さえていた。
だがもう遅い、しっかりと聞こえた。
「ハハッ・・・そうか、そうだったのか・・・俺は俺自身に嫉妬していたと・・・クックッ・・・俺はバカか・・・」
「あ・・・あの・・・殿下・・・今のは・・・」
笑い出した俺にオロオロとして、リシャーナは声を掛ける。
そんなリシャーナの手を取り、俺は手の甲に口付けた。
「リシャーナ、聞いてくれるか。」
「は・・・はい、ルキウス殿下。」
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突然笑い出してしまった殿下に、私はどうしたものかと思っていると、殿下がいきなり私の手を取って口付けてきた。
さらに驚いている私に、そのまま声を掛ける。
「何でございましょう?」
まだ寝台の背もたれに身体を預けている私の手を取って跪いた殿下は、もう一度私の手の甲に恭しく口付けた後、こう言ったのでした。
「俺・・・いや私ことルキウス・シオン・ビスタは、リシャーナ・アイリス・リンデンバーム侯爵令嬢に婚姻を申し込む。
リシャーナ・・・俺と結婚してくれるか?」
「な・・・にを・・・」
殿下の言葉に頭がついていかず、私は言葉を続けられませんでした。
「俺はずっとリシャーナだけを見てきた。
デイルの妹としてじゃない、一人の少女として最初は気になり、今は一人の女性として愛している。
それこそ、リシャーナが誰かを思っていると知って、その相手を嫉妬で殺してしまいたいくらいに、愛している。
あのまま目を覚まさなかったら、俺自身も後を追ってしまいそうだった。
それほど、リシャーナ・・・お前に恋焦がれている。
返事をくれるか?」
「私・・・私は・・・ずっと殿下だけを見てまいりました。
殿下はずっと、私のことは妹のようにしか見ていないのだと・・・
私の想いが膨らみすぎて、いつか殿下を傷つけてしまうのだと・・・」
震える唇で、それだけ伝えるのがやっとでした。
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リシャーナに求婚して思いを伝え、返事を待つ間は永遠のように思えた。
「私・・・私は・・・ずっと殿下だけを見てまいりました。
殿下はずっと、私のことは妹のようにしか見ていないのだと・・・
私の想いが膨らみすぎて、いつか殿下を傷つけてしまうのだと・・・」
震える声でそう告げるリシャーナに、もっとはっきりとした言葉が欲しくて俺は訴える。
「それで、返事は?
もう一度言おうか、俺と結婚してくれないか?」
「は・・・い・・・喜んで。」
泣き笑いの顔で、リシャーナは承諾の言葉を告げた。
その言葉がどれだけ俺を舞い上がらせたかわかっていないだろう。
「やっと、俺だけのリシャーナだ。」
そう言って、俺はリシャーナを抱きしめてその愛らしい唇を奪った。
まだ病み上がりの彼女に無理はさせられないから、軽い口付けであるが・・・
「元通り元気になったら、心行くまで君を堪能させてもらうよ。」
俺の言葉で真っ赤に染まるリシャーナの顔が、可愛すぎて更に俺をそそることを、彼女が気づくのはいつのことだろうか。
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前世の記憶の小説と、この世界は全く同じではなかった。
それはここが小説という物語の中ではなく、現実の世界だから。
私が知るリシャーナという登場人物の未来と、私自身の未来は違うのだとわかった今は、何も恐れることなく私の思いを育てられる。
私の想いが、この方を傷つけることがないとわかった今・・・私は幸せでいられる。
「リシャーナ、愛しているよ。」
「私も・・・愛しております、ルキウス殿下。」
そして私は、この方の隣で笑顔でいられる。
読んでいただきありがとうございました。
切ないのをがんばったんですが、イマイチ成功していません!
どうやったらもっと切ないお話になるんでしょう・・・精進いたします。