No.38 錯覚
出されたお題を元に、一週間で書き上げてみよう企画第三十八弾!
今回のお題は「ヒマワリ」「枕」「テーマパーク」
5/12 お題出される
5/14 だいたいのプロットが固まる
5/17 だいたい書いた後に“放送中の例のドラマ”の存在を知る
5/18 そんなの関係ないと投稿
知らなかったんですもの仕方ないじゃないですか(滝汗)
今、俺は恋人……と思われる“存在”と観覧車に乗って向かい合っている。
彼女……と思われる“存在”の目線、で合っているだろうか、なにやら見られている感覚があり、無言の圧力にも似た感覚を覚える。
「あ、見て! さっき乗ったジェットコースター。ここからだと全部が見えるね」
うら若い、鈴虫の泣くような声で、彼女であろうその“存在”が言う。
なぜ、こんなにも、回りくどい言い方をしているのか……それは、目の前に居る彼女の首から上が……
「なに? ちょっと酔っちゃった?」
そう訝しむような雰囲気を感じながら、俺は姿勢を正した。何分にも気分が悪い。なにせ、目の前には首から上がヒマワリの存在が、俺の彼女の声で俺に話しかけているのだから。
事の発端は、曰く俺が交通事故に巻き込まれたことが原因、と思う。今からひと月前、大学から下宿先の寮への帰り道。寮の手前のコンビニに、切らしていたノートを買いに行った。一度寮の入り口をくぐったが、ノートの事を思い出して道路を横断しようとして跳ねられた。……居眠り、だそうだ。
そして十数時間の手術と一週間の昏睡を経て目が覚めた時、寝にくい病院の枕に頭を固定された、俺の顔を覗き込むヒマワリを見た。
医者曰く、脳に障害が残ったのではないか、という話だった。よりにもよって、なんで彼女の首から上だけがヒマワリに見えるのか。表情は分からず、目線も顔色も分からない。首から下は彼女のそれであり、くすぐったがる彼女を触って確かめた限りでは、確かに彼女だと俺の記憶が告げていた。とはいえ、ヒマワリの部分は触った通りの植物のような触感だった。
以来、俺は彼女を避けてきた。元々可愛らしい人で、笑顔がまぶしい女性だった。そのあいくるしい表情を俺に向けてくれるのが嬉しくて、彼女の事を本気で思っていた。だが今は……恐怖さえ感じる。……人には見えない。
このひと月である程度の感覚は分かった。同時に、彼女へ俺の後遺症に関しても話したのもあってか、彼女は顔以外でなんとか自分の意志を告げる方法を模索してくれていた。だがそれでも、俺は彼女との距離を感じずにはいられず、やや距離が空きつつあった。だから、久々の、退院して初めてのデート、という訳になったのだが……
目の前でヒマワリの花が首を下げながら、静かになったのを見た。同時に微かに聞こえる鼻をすする音。
「あ! 見て、ほら、えーと、あそこのモニュメント。上から見るとああなってたんだね」
それでも彼女は明るく、文字通りヒマワリのように俺に話しかけてくる。
「なぁ……なんで、まだ俺のことを気にかけてくれるんだ?」
俺は思っていることを口にした。
「え?」
「だって、俺、お前を不幸せにしか……出来てないだろ?」
「そ、そんなことないよ! 後遺症は……きっと、すぐに治るよ! ……うん、治るって」
そういって、ヒマワリは彼女の腕を使って、彼女の胸に俺の手を取って当てた。彼女の首から上は、皮膚が捻じれるように上にひねり上げられ、途中から緑の産毛の生えたヒマワリの幹に変わっている。彼女には悪いが、怪物にしか見えない。
「いや、治らないかもしれない……治らなかったら、その……」
「……」
彼女は無言で、そのまま固まったようになっていた。彼女の胸に宛てられた手から伝わる鼓動が強く手を御仕返すのが伝わる。微かに肩が震えるのが分かった。
「ごめん……」
「何で謝るの?」
「……ごめんな」
俺は彼女を、ヒマワリをじっと見つつ自分の思いのたけを言った。
「俺さ、君の笑顔が好きだった。だけど、それが見れないんじゃ……君の姿が人に見えないんじゃ、君を愛せるか分からない。なら、それならいっそ他の人のところに!」
彼女は俺の言葉を遮って、俺を抱きしめながら、震える声で言った。耳元で彼女の優しい声がする。彼女のぬくもりが、確かにここにあるのを感じる。
「私ね、ヒマワリで良かったと思うの。他の花じゃなく、ヒマワリなのは理由があると思う」
彼女はそう言いながら、静かに俺の背中を撫でた。そして泣きながら俺に聞いてくる。
「ヒマワリの花言葉、知ってる?」
「ヒマワリの……花言葉?」
俺は彼女から感じる、俺の視界が変貌してしまったとしても変わりない愛を感じて、どうしたらいいのか分からなくなっていた。
「あなただけを見ています。ヒマワリの花言葉……」
「俺、俺は……ごめん、ごめんな」
彼女が悪いわけじゃない。悪いのは神様とかそういうので、俺の視界が変わってしまったことが問題なのに、俺は彼女の外見を恐怖して遠ざけて……
俺は彼女を引き離し、そして、一つの決心をした。今の自分たちの居る場所は、地面からおよそ60mというところだろうか……これなら、もしかしたら……
俺はヒマワリに、彼女に向きなおった。気が付けば、俺も泣いていたようだ。
「ごめんな。やっぱ、君が幸せになるために、俺、正常に戻りたい。だから……」
俺は観覧車の窓を肘で割り、中から外閉めの閂を引き抜き、扉を開けた。
「これでもし……もし正常に戻ったら、俺と一緒になって欲しい!」
「待って! 止めて! 死んじゃうかもしれない!」
「もし死んだなら……他の、俺より良い奴のところに行ってくれ」
「そんな……そんなの……あんまりだよ」
俺は彼女の肩を抱き、ヒマワリの中心部へ口づけした。口に当たる感触は紛れもなく植物のそれで、人の皮膚の感触は無い。
彼女は、一瞬戸惑い、そして今一度俺に抱き付き、俺が口づけした部分よりやや下の部分を俺の口に当ててきた。
「鼻の頭にキスじゃなく、ちゃんと口に、ね」
もう、高さが足りなくなってくる。窓ガラスを割ったことで観覧車の下の方で見上げる野次馬が集まりつつある。行かなければ。そして神様、どうかこの仕打ちが、終わりますように……
俺は彼女を離し、開け放ったドアから身を乗り出した。そして彼女に言い、飛び降りた。
「愛してるよ」
空中で空を切る感覚があり、直後に彼女が俺の腕を掴もうとしてくるのが見えた。だがそれは間に合わず、野次馬の悲鳴の中、俺の体は強い衝撃と共に、無理な方向へひん曲がるのを境に、俺の意識は途切れた。
そして、次に視界に入ってきたのは、病院の天井だった。今一度、この寝にくい病院の枕に首を固定されていた。
俺は、生きていた。いや、助けられたらしい。手術はまたしても十数時間かかり、昏睡状態が一週間以上、そして、これから何年かはリハビリが待っているらしい。と……俺の彼女、妻から聞かされた。こんな体になっても、彼女は俺の事を大切に思ってくれるらしい。良かった。俺の好きな人が、彼女で良かった。だって、こんなに、俺の為に泣いてくれているのだから。
飛び降り以来、俺の目に移る彼女の姿は、記憶のそれになっていた。もうヒマワリの怪物なんかじゃない。彼女は優しく微笑んでくれている。
リハビリはとんとん拍子に進み、依然と同じ、とまではいかなくてもある程度身の回りの自分の事は自分でできるようになった。もう退院しても大丈夫だと言われ、俺は自分の家に帰るより先に、彼女の御両親に挨拶に行くことにした。リハビリの最中も支えてくれた彼女なら、俺はこの先も一緒に居たい。そう思ったからだ。
彼女の両親に会うことを彼女に打診した結果、難なくOKが出た。こぎれいな服を着て、杖を突きながら、という形ではあるが彼女の両親に会うため彼女の家へ。
体が悪いことも有り、バスを利用してゆっくりと彼女の家に向かうことにした。そう言えば、彼女の家に行くのはなんだかんだ言って初めてかもしれない。
「あ、見て。ここから先、ヒマワリ畑があるの。あたり一面ヒマワリが咲いてるのよ」
彼女がそう言って、指さす方向を見た。
その光景を見て、俺はやっと、自身の身に何が起きていたのかを思い知った。理解した。そして、その“ヒマワリ畑”に恐怖し、思わず叫んだ。
あたり一面に、彼女の死んだような首が並ぶ光景を見て……
すみません
まさかの公共の電波で流れてるものとネタ被り……
なんでや! なんで一致する点があるんや! orz
ちなみに、件のドラマの存在を知ったのは昨日の事です……プロットもう固まったっちゅうねん……
ちなみに
最後の場面に解説を入れると「ヒマワリが彼女の顔に見えるように再手術された」という事です……
ということは……?
ここまでお読みいただき ありがとうございました