*普通の日々…だった
人間は醜い。人を裏切り陥れ己の格を上げようとする――
「…で……、何時になったら俺はハーレムになれるんだぁぁぁぁぁぁあっ!!!!!!」
「うるさい。此処は公共の場なんだから声量とか考えろよ」
「…っ、だって、だって……、お前は羨ましくないのかよっ、目の前でこんなラブラブモードMAXのリア充を見て…!完全に非リアへの嫌がらせじゃねぇかぁぁぁぁぁぁあっ!!」
「…あー、ハイハイ。わかった、わかったから…少し黙ろうか?」
「………っ」
俺の名前は、京極 雅也。彼女居ない歴17年の可哀想な男だ。
―っていうか、自分で可哀想って言ってる時点でダメか…
…で、こいつ。俺の隣に居る冷静優等生イケメンメガネ男子は、神戸 紀。『紀』と書いて『おさむ』と読む。
俺の同級生で、唯一の親友でもある。
俺は基本、イケメンは嫌い…いや、大嫌いだが、紀は別だ。
……色々借りもあるしな
「…まぁ、紀はモテるから良いだろうけどよ…、俺は生まれてこのかた、女の子に1度もコクられたこともないんだぞ!」
俺は悲しい過去を思い出す。
中学生時代、好きだった女の子に、授業が終わった後突然教室に呼び出され、言われた詞………
「今でも忘れねぇぞ…。て言うか、一生忘れられない気がするっ」
「あー、もうそんな話いいから。俺、先帰るぞ」
「そんな話とか言うなよ!俺にとっては命より大事な話なんだからな!?」
叫ぶ俺を無視して、校舎から出ていこうとする紀。
「…ちょっ、紀っ、待てよ!」
俺もすぐに紀の後を追いかけた。
「…で、その女の子には何て言われたの?」
家への帰宅路を歩いている途中、紀が聞いてきた。「それがさぁ~、思い出すのも嫌なくらい辛い事だったんだよな~」
俺は伸びをしながら言った。
「へぇ。あ、そ。なら話さなくていいや。別に特に聞きたいとも思った事ないし」
紀は冷たく言い放ち、「じゃあ」と言って分かれ道で分かれ去っていった。
「………なんだよ、ひでぇ」
一人残された俺は、寂しく家までとぼとぼ歩いていった。
午後3時を回った頃だった。
生まれて初めて俺は金縛りというものにあった。
……か、身体が動かない。…て言うか、喋ることすら出来ない…
突然襲ってくる恐怖に俺はただただ怯えるばかりだ。
そんな時、ふと部屋の隅に妙な光を見つけた。
蒼白く、たまに赤、そして緑や紫に変化する不思議な光―
俺は金縛りのせいで身体を動かすことは出来ないが、目だけはその光をずっととらえていた。
光は動く気配が全くなく、いつまでも部屋の隅に留まっていた。
………なんだ、あれ
金縛りから解放された頃、例の光はだんだん薄れていってきた。
「……っ!!!」
俺はその光が消える前に、と急いで光っている場所へ走っていった。
―と、次の瞬間、
パアァァァァッ…!!!
無数の目映い光が俺の全身を包みこむ。
抵抗する気はない。…なんと言うか、穏やかな気持ちに浸れてるから。
暫くの時間が経ち、光がだんだん収まってきた。
「……っ」
恐る恐る目を開けてみると…
「…何処だ…此処」
今までに見たことのない景色。
「俺の…部屋じゃない」
ヴィィィン…
奇妙な音がしたのでふと、頭上を見上げると…
「なんだ……これ…っ!?」
紫、白、黒…様々な色紙混じり合い、大きな渦を巻いていた。
「あら、もう来ちゃったの?」
背後から女性の声が聞こえた。
振り返るとそこには、紫色の髪を靡かせた女性が立って、微笑んでいた。
「……っ、貴女は…」
俺が問いかけようとした詞に被さるように女性は言う。
「心配しなくても良いわ。大丈夫。貴方は生きてる」
…何が言いたいんだ?
「…あの」
「あぁ、自己紹介が遅れたようね。…私の名前は、カッツァーネ・テイト。以後お見知りおきを」
女性は俺の詞を遮るように言い、スカートを持ち上げ会釈をした。
「あのっ、俺が聞きたいのはそういう事じゃなくてっ…」
「あらら、貴方方は常識を知らないのかしら?…おかしいわね。確かにしっかりとしたパートナーが居ると聞いたのに」
………何が…言いたいんだ…?
「相手が名乗ったのよ?…己の名は名乗らない気?」
カッツァーネ・テイトさんは笑顔で…しかし確りと俺の目を見てくる。
「……っ。…俺の名前は、京極雅也。…あの、さっき言ってた"パートナー"って何の事ですか?」
俺は自己紹介の後、気になった事を問う。
テイトさんはまた微笑み、
「何れの日にかわかるわ。…今は少し早すぎる。…貴方が此方の世界に来るのも、"私のパートナー"がどういう存在なのかという事を知るのも…」
意味のわからない事を言う。
「…俺には少し…いや、大分レベルが高すぎる話ですよね?…全然話についていけないんですけど…」
するとテイトさんは頷き、片手を前に出し、俺に向けた。
「だから言ったでしょ?"何れの日にかわかる"って…。焦らなくても良いわ。今度は私の方から向かえに行ってあげるから」
ギィィィィン…
凄まじい鉄の擦れるような音が、辺りに響き渡り、テイトさんの片手―俺に向けた手の前に、魔方陣のような物が現れる。
「………っ!!!???」
魔方陣が蒼白く光ったと思った思った瞬間、俺は又光に包まれていた。
身体が宙に舞うような気分…
目を覚ましたとき、まず最初に目に飛び込んで来たのは…
「お早う。…っていうか遅刻するぞ」
「…っ、紀っ!?何でここに!?」
「向かえに来たからにきまってんだろ。…寝坊か」
……寝坊っていうか…
「早く支度しろよ。置いてくぞ」
「あ…、あぁ」
俺と紀は毎日登下校を共にしている。…が、
「俺が遅くなるようなら先に行けば良いって言っただろ?」
「あぁ。勿論そうする気だった。…けど」
「けど?」
「……なぁ、雅也。…恋ってどんな感じだ?」
「………は?」
…は、はい…??こ…、恋……ですと!!!???
「んなもん知るかぁぁぁぁぁぁあっ!!!!」
紀のヤツ、わかってて言ってんだろ?俺が彼女居ない歴17年ってことをぉぉぉっ!!!
「…ふ、ふんっ、どーせ俺は一度も恋愛なんかしたことありませんよー」
やさぐれる俺に対し、
「違う。恋愛じゃない。恋だ。…人を好きになった事くらいはあるだろ?」
……あぁ、そっち
「勿論だ。てか毎日恋しちゃってるから。街中ですれ違ったりする巨乳なオネーサンとかマジたまんねぇ…」
ボコッ!!!
ニヤける俺に紀はカバンで殴ってきた。
「痛てぇっ…!!」
俺は殴られた場所を擦る。
「何時になったらその変態的思考回路は止まるんだろうな」
紀はカバンを肩に担ぎ、
「ほら、もう時間無いし…、走るぞ」
学校の方へと走っていった。