そろそろそんな時期
「あのさ、いつも思うんだけどさ。」
「何?」
「俺が鳥だったらもっとうまくいい生き方ができたような気がするんだよね。」
私は隣で突然喋り出した男に胡乱な目を向ける。まあこの男はいつも唐突に何かよくわからないことを喋り出すのでなれてはいるのだが。
「うん、まあそうかもしれないな。」
私はテキトーに返事をする。本当にすごくどうでもいい。私の部屋にあるゴミ箱の位置くらいどうでもいい。
「だって鳥になったらいろんなところにいつでも好きなように行けるんだぜ。これってすごくないか?」
「夢を壊すようで悪いけど、鳥って思ったよりもいろんなところに行ってなくないか?」
「どういうこと?」
男は少し首をかしげる。こいつの首のかしげ方はやはり少し角度が深い。
「だって渡り鳥は同じところしか行かないし。私たちの周りにいる鳥だって決まった場所にばかりいるじゃないか。近所のスズメやカラスが海外旅行に行ってくる。なんて話は聞いたこともないし。あいつらは思ったよりも縛られてるよ。」
隣の男はたいそう驚いた表情をしている。こいつは二十三年間何を学び生きてきたんだ?常識で考えたらわかるような類の事だと思う。
「そうか、あいつらも縛られているのかあ・・・・。」
「そうよ。鳥に夢見んな。」
「そっか、そっか。なんか残念だなあ。」
「そんなことより手を動かして、これが終わったらあなたは自由なんだから。」
「そうだね。こんなこと早く終わらせないと。」
そういうと私と夫は年賀状を書き始めた。私と夫は相変わらず手書きにこだわっている。もう今年も終わりに近い。