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猫と兎  作者: 惣山沙樹
虚言と現在 vain/presant
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05:下らない話

 陽奈と会った翌日、平日と同じ時間に目が覚めてしまった僕は、散らばった服をかき集め、洗濯機のスイッチを入れる。コーヒーを飲んだ後、コンビニへ行き、店頭に並んだばかりの弁当を買う。それを食べ終わり、洗濯物を干し、掃除機をかけようかと思案する。


「いい加減、要らないもの捨てるか……」


 その前に、まずは物の整理だ。

 ここで暮らすようになって三年、無駄な買い物たちが部屋を埋め尽くしている。ほとんど読みもしない雑誌や、使わなかった百円均一の小物。入社時の研修資料なんかも、これから特に必要ない。

 片づけに熱中していると、昼がとっくに過ぎてしまい、時刻は午後三時。不思議とお腹が空かない。再放送のクイズ番組を見ながら少し休憩した後、夕方まで続行。掃除機をかけ、洗濯物を取り込み、ベッドに突っ伏す。

 かなり、疲れた。

 引っ越しのことを考えると、もっと物を減らすべきだろう。ここに越してきたときは、弟もまだ大学生だったから、こき使うことができた。それに、家電は新しく買ったものがほとんどだったから、運ぶのは電気屋がやってくれた。

 夕飯を食べてから、もうひと踏ん張りしよう。

 そう決意したのに、門木からお誘いの電話が来る。


「お前、どうせ暇だろ?」

「暇じゃねえよ。部屋の片付けしてたんだ」

「そんなの後でやれって。な、ちょっとだけ付き合えよ」

「……はいはい」


 門木の勢いに押され、僕は渋々ダウンジャケットを羽織る。男同士の下らない食事だ、服装はどうでもいい。

 それから僕は、陽奈に吐いた「友人と会う」という適当な嘘が、本当になってしまったことに気付く。たまにはこんなことも、あるものだ。


 呼び出されたのはファミレスで、財布の中身を気にしていた僕にとって、比較的有り難い場所だった。チキングリルにドリンクバーをつける。昨夜のフレンチは、この何倍お高かったっけな。


「そっか、志貴も転勤言われたか。実は俺もだ」

「今年異動する同期は多いんだろうな。特に、独身の若い男はさ」

「どこ飛ばされるんだろ。俺、田舎は嫌だな……」


 僕たちのような独り身は、遠方に飛ばされることが多い。一つ上の先輩も、遠く雪国へ行ってしまった。所帯持ちでも、夫婦だけなら関係ないし、田舎が嫌ならとっとと子供を作るしかない。


「場所も不安だけど、人が変わるのも面倒だよ」

「ああ、志貴って上司に可愛がられてるもんな。俺の上司はクソだから、それだけ考えるととっとと転勤したい」

「雇われの身だからね、与えられた環境で何とかしていくしかないよな」


 土曜日のファミレスには、家族連れが沢山いた。僕たちみたいに、寂しい男だけのグループも。食事を終え、コーヒーを取りに行く。このまま何時間も居座れるのだから、本当に安いものだ。

 ふと僕は、陽奈とのクリスマスを思い出す。あの時も、ファミレスでチキングリルを食べた。そして僕は、来年は豪華な所へ連れて行くと言った。

 そんな回想は、門木の調子良い大声にかき消される。


「そうそう!うちの会社の内定者懇談会行ってきたんだ」

「はあ?なんでお前が?」

「俺たちのときも、若手社員への質問コーナーってあっただろ?それに呼ばれた」

「……なんでお前が」

「人徳ってやつだろ!」


 門木はしょっちゅう合コンを企画したり、社内の人間関係に詳しかったりと、やたらコミュニケーション力が高い。それを人徳と言い換えて良いものなら、納得はできるが。


「今年の新人、女の子比率が下がっちゃったみたいだけど、それだけ厳選されたってことかな?みんな美人だったぞ!」

「ふうん、そう」

「頼れる先輩として、しっかり名前は売ってきた。若手会するときは、志貴も呼んでやるよ!」

「別にいいって」


 ちなみに門木は、背が高くガタイがいいので、第一印象だけだと確かに頼れるお兄さんだ。しかしその実、恋愛には臆病なのだと最近知るようになった。こうして調子よく女の子の話をしているが、すぐに手を出すようなことはしないし、もちろん浮気もしない。僕なんかより、よっぽど誠実な男性だ。


「なんだよ、最近ノリ悪いな。お前雰囲気イケメンだから、年下の女の子とか簡単に落とせるぞ?」

「褒めてるのか貶してるのか、どっちだそれは」


 生憎、年下の女の子はあまり得意じゃない。一度付き合ったことがあるのだけれど、気を遣いすぎて上手くいかなかった。それに、今の僕には、新しい女の子と関わる余力がない。

 あと、二ヶ月。転勤してしまう前に。僕は夕美を、見つけなきゃいけない。話をしなくちゃいけない。陽奈の意志も、伝えなくちゃならない。


「ハーフ系で綺麗めな子もいたぞ。しかも、けっこういい大学でさ。あれは綺麗すぎて、逆に彼氏がいないタイプと見た!」


 門木の女の子談義は留まることを知らず、僕はそれをBGMに、薄いコーヒーを飲み続けていた。

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