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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある娘の転生録シリーズ関連

とある家庭の事情

作者: 笹目結未佳

 



 むかしむかし、あるところに、

魔族社会で暮らす一人の娘がおりました。

彼女の名はマドレーヌ・シフォン。名門貴族、侯爵家の長女として生まれ、

何不自由しない優雅な生活をしておりました。


 黒いつややかな髪は緩やかに後ろでまとめ上げ、

ルビー色の美しい瞳をした彼女は、とても華やかな容貌ようぼうの娘でした。


 そんな彼女にとても悩む事が出来てしまいました。

彼女の弟、ガレット・シフォンの恋愛問題です。



「姉さん。俺さ、恋人が出来たんだ」


「あら、良かったじゃないのガレット。それでお相手はどんな子なの?」


「うーんと……そうだな。毛はハシバミ色に近いかな」



 ……毛? 普通、髪というのではないだろうか?

しかも黒いラインのような線が真ん中にあるらしいのです。

それを聞いたマドレーヌはその彼女を頭の中で想像しました。


(も……モヒカン?)


 弟はパンクロックな彼女がお好みらしい。それも奇抜な髪型の……。


 果たしてこの家に馴染めるだろうか? ……と思わず不安になる。

気を取り直して話の続きを促すマドレーヌ。人の趣味はそれぞれと言います。

できた姉として、弟の女の趣味には口を出さないようにしました。



「目はくりくりとした黒い瞳でね。

 手なんかもう、こんなっ、こんなにちっちゃくて可愛いんだ」



 そう言って弟、ガレットは指先で3、4ミリ位の大きさを示してきました。

いやっ! 幾らなんでも小さすぎるだろ!! そんな娘がこの世に存在するか!!

そんな事をマドレーヌは内心で盛大にツッコミながらも、

冷静を装い手に持っていたカップに口付けます。


 その時のマドレーヌは、弟の照れ隠しだろうと思ったのです。


「そ、それでそのお嬢さんは、一体どちらの家柄の方なのかしら?」


「ん? ああ、実はもう俺の部屋に住んでいるんだけど、

 あんまりに可愛いから人間界からさらって来たんだよね。

 今は逃げられないように、自室のおりで監禁しているんだよ」


「ぶっ!?」



 思わず口に含んだお茶をマドレーヌは吹いた。

それは目の前の弟、ガレットに掛かったが、彼は恍惚こうこつした目でいて、

姉がした粗相を全く気にしていないようだった。



 ――今、なんと言ったか……さらって来た?


(しかもなんか、監禁しているって平然と言ってのけたわよ!?)


 不穏な言葉を羅列する弟に、マドレーヌは一抹の不安を感じました。

我が弟ながら、その発言は「こいつ、やばい」と感じるには十分です。

いくら力社会でまかり通ると言っても、弟がやっている事はめられないレベル。

流石のマドレーヌも頭を抱えたのは言うまでもありません。


 とてもじゃないですが、姉は弟の行動に賛同は出来ないと思いました。

貴族の娘はスマートかつ、エレガントに行動するのが彼女の信念です。



(同じ屋敷に住んでいるのに、私は全く知らなかったわよ!!)



 家族にも黙っているという事は、ランクの低い娘なのだろうか?

マドレーヌの住む世界では、格付けを持って上下社会が成り立っていました。

つまり、力、血筋、名声である。


 最高位は魔王様で、その次が純血種の魔族という順になるが、

ランクが低ければ低いほどに、その扱いは酷くなる。

弱いものは狩られる側、搾取される側となり、生き残れない世界なのである。


「俺、父さんに反対されても、この愛を貫くよ」


 きらきらとした瞳で弟は話す。どうやら遊びではなく本気の恋らしい。

いやしかし、その方法はかなり間違ってはいないだろうか?

交際を申し込む前に監禁とは、やり方が横暴すぎる。


(どうしようこの子、今のうちに自首させるべきかしら?)



 力社会と言えど、素性の知れぬ娘をさらえば、

いずれは醜聞となって、後でしこりが残るだろう。


 そんな訳で、今すぐその娘を此処に連れて来なさい、とうながしてみます。

裏口からその娘を逃がして、金を握らせ、この件を他言無用にして貰い、

ガレットにはその娘の事は諦めて貰わなくては……。

優しいお姉さまは両親に知られる前に、弟の不祥事をもみ消す事にしました。



「ああ、勿論だよ」


 そう言って、弟がうきうきとしながら連れて来たのは、

予想とは違い、実に意外なもので、小さな小さな……こげ茶色の毛玉でした。


「……え?」


 テーブルの上に、ちまっと乗せられたソレ。

大きさは……そう、卵よりも少し小さ目の大きさです。

しかし、それが上下に揺れているのに気が付くと、

マドレーヌは持っていたカップをソーサーの上に置き、

その物体をまじまじと眺めました。



「紹介するよ。俺の恋人のリーゼ、ハムハム族のジャンガリアンなんだ。

 可愛いだろ? えるだろ?」



 何という事でしょう……っ!?

弟ガレットが連れて来たのは、眠っているハムスターです。

魔族の中には、人間に恋する者も居ると噂には聞いていましたが、

これは例外中の例外です。


 よりにもよってハムスター……ちんまりと、ころころした丸いハムスター。


 つまり……コードネーム・ネズミ。


 マドレーヌは卒倒しそうだった。


――うちの弟が悪いどぶネズミにだまされているわ――っ!?



「ちょっと誰か! 害獣の駆除業者を呼んで頂戴!!

 うちの弟が、変なネズミに洗脳を受けているわ!!」


「何を言うんだ姉さん!! リーゼは害獣なんかじゃないよ!

 それにリーゼはネズミじゃなくてハムスターだ!」


「一緒じゃないのっ! ちょっとー!」


「違うって!! だあああっ! もう!!」



 思わず立ち上がり、部屋の外に居る使用人を呼ぼうとしたマドレーヌに対し、

ガレットはタックルで姉に飛び掛り、それを阻止。

あわれマドレーヌは床へと豪快に倒れこんでしまいました。


「う……うう……」


 痛いけれど、今はそれ所じゃありません。

弟の名誉の為にも、このネズミには消えて貰わなくては。

きっと魔性のネズミなのでしょう。


 どうやってこのガレットをたぶらかしたのかは分かりませんが、

見た目に反して、とても恐ろしい事が出来るネズミだと分かりました。


「ハムスターに、そんな力があったなんて……っ! 恐るべきネズミだわ。

 人畜無害じんちくむがいそうな姿で、私の弟を洗脳するなんて!」



 このハムスターには、魔族を凌駕りょうがする力を秘めているのかもしれません。

「ハムパニック」とマドレーヌはこの緊急事態を名づける事にしました。

これは直ぐに家族会議をしなければなりません。



「――ガレット! 姉さんが悪かったわ、

 早く嫁か恋人を探して来いなんて、もう二度と貴方に言わないわ!!

 だから一緒に病院に行きましょう、姉さんもついて行ってあげるから」



 弟は心労の余りに手を出してしまったのでしょう。

それもよりによって生存競争界、最下層のネズミに……。

しかも相手はすぴすぴと現在ものん気に眠っている最中ではないか。



「ち~ちゅは~……」



 胡桃くるみを抱きしめたままで、今もほとんど微動だにせず、

テーブルの上でころんと無防備に寝転んでいるそのネズミに、

マドレーヌはひざに置いてあったおうぎの先っぽでつんつんと突ついてみます。

素手で触る勇気はとてもありませんでした。


 すると、相手は寝言で「ちゅ~?」と言って、鼻をひくひく動かしました。

一瞬、ただの人形か何かだと思ったが、やっぱり本物のようです。

可愛い弟がこんなネズミと恋仲なんて……と、思わず眩暈めまいがしました。



「ああっ、駄目だよ。起こしたら可哀相じゃないか。

 ハムスターはね。1回の睡眠に15分位掛けて寝て、

 合わせて1日約14時間も寝なきゃいけないんだから」


「寝すぎよ! 1日の半分以上寝るんじゃないの!」


「いいんだ。リーゼはそれで……この寝ている姿も可愛いからさ」



 ガレットはいそいそと胸元からハンカチを出して、

リーゼというハムスターにハンカチを掛けてやります。

どうやらそれが彼女のお布団の代わりのようでした。


 恐ろしい魔族が目の前に二人も居るのに、何と言う警戒心のなさでしょうか。

手に持った胡桃くるみを時折かじかじとみながら寝ています。

……器用なネズミです。寝ながら食べているなんて。


(躾が鳴ってないわ……いえ、ネズミに躾がまかり通るものなのかしら)


「朝食を食べている間に、そのまま眠っちゃったんだよね」


 ガレットはそう言いながらリーゼのほほに触れると、

リーゼはガレットの指を、眠ったままぺろぺろめ始めます。


 寝ぼけていても、ガレットだと分かっているのか甘えてくれているようで、

そんなリーゼを見たガレットは、その場にバタッと倒れると、

「超絶に可愛い、え死ぬ!」と、

ごろごろと頭を抱えながら床を転がっていました。


 ……どうやら既に末期のようです。

思わずマドレーヌは、今の内に弟を葬るべきかとまで悩みました。



「ガレット、よく聞いて頂戴。こんなネズミと貴方は結ばれないわ。

 子だってなせないし、お母様達だってきっと反対するわよ」


 案の定、両親にこの問題を話すと父は激怒し、

母もそろって一人と一匹の恋を反対しました。頭の心配も勿論されます。



「……ガレット、お前は何を血迷ったか、

 そんな何の役にも立たぬネズミ。この私が許すと思ったのか?!

 それも人間界生まれのネズミなんかと」



 だからすぐに、そのネズミを処分しなさいとまで言われます。

逃がすのではなく殺せと言うのです。

けれどガレットは、そんな父に何かを悟ったようにこう言ってのけたのです。



「俺の愛は、父さんが金髪碧眼の女を好むのと一緒だよ。

 人間界にも何人か愛人を作っているじゃないですか」



 なんと、此処でガレットは地雷の投下です。

父が愛人との愛のメモリーを、部屋に大事に隠していた事も暴露しました。

母は怒り心頭で、「まだ清算してなかったのかーっ!」と隣の父に飛び掛り、

ガレットのことなど、最早どうでも良くなりました。



「母さん、父さんに比べたら俺の愛情は可愛いものだと思わない?」


「ええそうね。憎たらしい人間の小娘どもに比べたら、

 子ネズミの存在なんて、どうでもいい存在だわ」


「ちょっ! お前!?」


「お母様!?」


「私はそれよりも、とても大事な用がある事を思い出したわ。

 さあ貴方……楽しいお仕置きの時間ですよ?」



 母の手には小型の稲妻が出現します。

父の絶叫の中、ガレットとマドレーヌは周囲に防護壁の魔法を掛け、

そそくさと居間を出て行きました。



「父さん、貴方の尊い犠牲は忘れません」


「ガレット……恐ろしい子!」



 家族会議から一転、夫婦の修羅場へとすり替えられ、

ガレットは自らの手を汚さずに相手をわなめる事に成功します。

彼にとって、リーゼラブ、ハム最高。ちっさいは全ての正義でした。

だから、彼女の為なら何をしてもいいのです。それこそがガレットの持論でした。



(そ、そういえば前にもこの子……)



 思い出すのは、そう、ガレットが幼少の頃の話です。


 小さい頃、ガレットは可愛いものを奪われた時の恨みが激しい性格で、

大事なクマのぬいぐるみを、年の離れた兄のブレッドに捨てられた時には、

舞踏会で着る兄の衣装の背中にクレヨンで「ガレット君参上」と落書きをしたり、

兄が眠っているうちに、つるっぱげのヅラを装着させ、

そのヅラに600年も外せない呪いを掛けたのです。


 当然、そんな兄は社交界で嘲笑の対象となり、

兄は婚約者に「ハゲの人は嫌い」と逃げられました。


 それでも満足しなかったガレットは、「ぐれてやる」と捨て台詞ぜりふを吐き、

庭先で兄の引き出しから失敬した、タバコ型のチョコをもりもり食べて、

不良になったつもりになっていました。


 ……余りに低レベルな報復なので、家族に放置プレイされておりましたが、

どうやらガレットは、その時の反動が来ているのかも知れません。

マドレーヌは、あの時にちゃんとカウンセリングを受けさせておけば……と、

今更ながらに悔やみます。あの時に家族との間に溝が出来てしまったのでしょう。



「ちいちい、ガレット様、お帰りなさいませ」


「ああ、ただいまリーゼ。目が覚めたんだ。今日も楽しそうだね」


「はい、ガレット様が沢山玩具を下さるので、とても楽しいです」


 ガレットが自室に戻って来ると、リーゼは既に目が覚めていました。

滑車をくるくると嬉しそうに回す、この小さな小さな恋人のハムハムを見て、

ガレットは悦に入って喜びます。そして傍らでまた新しい遊具を組み立ててやりました。


 その最中に、滑車の中で転んだリーゼはころころと中で転がり、

わきにぽてっと落ちて来ました。けれどリーゼは痛くないようです。

けろっとした顔で、またも滑車台によじ登り、せかせかと走り直します。


 ちいちい、ちいちい。今日も大忙しです。


 ……これの何処が、監禁された哀れな娘に見えるでしょうか?

悲壮な様子など一切見られず、好き勝手絶頂に遊びまわっている様にしか見えません。



「み、認めないわ!」



 マドレーヌはあのネズミ……いえ、ハムハムと戦う決意をしました。

もしかしたら、これは陰謀。何者かが姿を変えて弟に近づいたのかと思っていたのです。

絶対に化けの皮をはがしてやると思い、リーゼの居るおりの前に近づきました。


「あれ? 姉さん」


「ちい?」


「……」



 マドレーヌは胡桃くるみに糸を巻きつけて、リーゼの反応を見てみる事にします。

まずは相手の出方を知る必要がありました。



「ほら、ネズミ。食べなさい」


「ちい?」



 マドレーヌがおりの端から、胡桃くるみを結んだ糸を垂らし、

差し出した胡桃くるみの存在にリーゼが気付くと、

嬉しそうに、てけてけと此方に近づいてきます。


「ちい~胡桃くるみです~」



 飛びついて胡桃くるみにかじり付く、

その瞬間を狙ってマドレーヌは糸を引いた。



「ち?」



 ぷらん、ぷら~んとハムハムが一匹釣れました。


「勝った……っ!」


 なぜかマドレーヌは得体も知れぬ優越感に浸りました。

いつの間にかハムハムと遊んでいる事に本人は全く気づいておりません。

これこそが、ハムスター属性リーゼの魅力でありました。


 

「ああっ!? 何するんだよ姉さんっ!!

 リーゼをいじめないでよ! 可哀相じゃないか!

 それに、リーゼにご飯を上げるのは俺の役目なんだからね!」


 しかし、当のマドレーヌは弟になど、かまっていられません。



「く……っ、なかなかやるわね」



 あやうく誘惑される所だったマドレーヌ。頬をわずかに染めながらの捨て台詞です。

ぶら下がっているリーゼが、なぜか少しだけ可愛く見えてしまいました。



「ち~……」


「リーゼ、その胡桃くるみは諦めるんだ。俺が新しいのをあげるから」


「ちい……はい、ガレット様」



 胡桃くるみから名残惜しそうに手と口を離し、ぽてっとお尻から落ちたリーゼは、

ガレットから新しい胡桃くるみを貰い、むぐむぐと頬袋に入れます。

後でおやつにして食べる気のようです。



「ちい、ありがとうございます。ガレット様」


 頬袋を前足で触って嬉しそうなリーゼの姿。


 ……まごうことなきネズミです。魔性でも何でもありませんでした。



(……となると、問題はネズミの方じゃなくて、ガレットの方に問題が?

 ああっ、うちの弟にそんな趣味があるなんて……っ!)



 兄に相談したくても、彼は幼い頃のガレットの復讐で自尊心を傷つけられ、

今も自室で絶賛引きこもりの真っ最中です。役には立ちそうにありません。

とりあえずマドレーヌは、兄のブレッドの部屋に行くと、

「ハゲにはハゲなりに良い所がある」と実に前向きな言葉を紙に書き、

ドアの内側にこっそり貼り付け、毛生え薬をテーブルに置いてあげました。



 ……数分後、部屋で絶叫するブレッドの声が聞こえた気がしましたが、

今、気になるのは弟の方です。兄の方は既にアウトオブ眼中でした。

彼女は気が変わりやすい性格なのです。



 その後、マドレーヌが次の対策を考えている最中に、

運命の日がやってきました。ハムハムのリーゼに不幸があり、

短すぎる生涯を終えることになったのです。


 ガレットはリーゼを失った事に荒れました。元に戻るどころか悪化です。

空になった恋人のおりを見て、毎日泣いていたかと思えば……。



「うわあああっー! 人間界に嫌がらせしてやるー!!

 人間どもを恐怖のどん底に落としてやるーっ!!」


「ガレットーッ!? 戻って来なさ~い!!」



 ガレットは手に油性のインクペンを数本持って、人間界に殴りこみに行きました。

なぜ凶器ではなく、ペンなのかは知る由もありません。


 ……しかし数ヵ月後、弟の意図が分かりました。

人間界で落書きをしまくる変わった魔族が居ると風の噂で聞き、

マドレーヌは頭を抱えてうずくまります。



「……それ、うちの弟だわ」



 直感で分かりました。やる事が低レベル過ぎました。


 みかねた父は、息子に新しいハムスターをと勧めて見ますが、これを拒否、

理解されぬ恋ですが、ガレットは本気のようでかたくなに愛を貫こうとしています。

……ハムハム馬鹿もここまで行くと絶句します。


 そして数年後、弟の腕には真っ白な子ウサギが抱かれていました。

ウサギはあの「リーゼ」の魂の生まれ変わりという事で、

天上の神を脅して取り返したのだといいます。

愛情も此処までいくと、ドン引き以外の何物でもないでしょう。


 人間界への嫌がらせは、リーゼを取り返す為だったようです。

ですが、神様を脅して成功する魔族なんて、聞いた事がありません。

しかも要求するものが低レベル過ぎました。


「美味しいかい? リーゼ」


「キュウキュウ……はい、ガレット様」


「ああ……ふわふわ……いやされる。

 後でグルーミングもしてあげるからね?」



 何が、あのガレットの心をこんなにもとらえたのでしょう?

どう見ても、リーゼという娘は食べてばかりの動物です。

先程から、もっきゅもっきゅとキャベツを幸せそうに食べていました。

マドレーヌがまたもわなをしかけて悦に入るも、

やはり、自分がそのふわふわの毛並みに誘惑されてしまいます。


 そんなこんなで二度目の別れの日が訪れ……。

弟はまた荒れてしまったのは言うまでも無く、

ガレットの悲しみは恋人を奪った神へと向かいました。

人型に抜いたジンジャークッキーに「神、全力ではげろ」とチョコペンで書いて、

むしゃむしゃとそれを食べていたのです。


 神様相手にこんな呪いが効くのかは……分かりません。

いえ、そもそも、あれが呪いの範疇はんちゅうに当てはまるのかも謎の行為です。

けれど、弟のガレットは本気のようで、マドレーヌは静かに見守る事にしました。


 そして再度弟が連れて来たのは……リーゼという名の幼女。

どうやら弟は、本物の犯罪行為にまで目覚めてしまったようです。

家族は当然これを反対しますが、効き目などありません。

マドレーヌのお説教を聞きながら、弟のガレットはといえば、

自分のひざに幼女を座らせて、幸せそうに愛の語らいをしていました。



「待っていてね? リーゼ」



 リーゼの手には、ガレットが作ってくれたココアの入ったカップ。

中にはハート型に抜かれたマシュマロが浮んでおりました。

それを嬉しそうにガレットは、ふうふうと息を吹きかけて冷ましてあげています。



「愛しているよ、リーゼ」


「あい、わたしもでしゅ、がれっとしゃま」


「ああっ! 可愛い!! さ~て、今日はどんな服を着せようかなあ?

 あ、小さい子が喜ぶ食事も研究しないとね」


 傍らには「良い子の育児書」の本があります。

育てる気満々のようです……姉は白旗を振りました。


「ま、負けたわ……」



 少なくとも、ハムハムやウサギに愛を語らうよりはましでしょう。

弟は次男坊だし、恨まれて何かされても困るので、お姉さまは放置する事にします。


 ……その後、人間の娘であるリーゼを見て、

彼女に絡んでいじめてきた魔族が居る事を知ると、ガレットが……。



「俺の嫁になにしてくれやがったんだ――っ!」



 ……と、魔界大戦争を引き起こそうと大暴れ。

リーゼが絡むとガレットはとんでもなく強くなりました。

一ヶ月で魔界の首都が荒野になってしまうほどで、

有力貴族は勿論、力の弱い魔族もガレットの怒りを恐れて逃げ出します。

姉のマドレーヌは、そんな弟を遠く離れて見守る事しか出来ませんでした。


 いえ、さじを投げたという方が正しいのですが。


「ガレットしゃま~」


 ですが、リーゼとガレットの間は常に平和です。

争いごとなんて起きようもありません。


「ガレットしゃま、おうちへ……かえりましょ~?」


 リーゼのお願いで弟ガレットはみごとしずまり、

それまでの騒乱もなんのその、ガレットはリーゼの姿を見るなり態度をころっと変え、

荒野の中で仲良く家へと帰る二人の姿がありました。


 そして、この一件で、リーゼはガレットの家族にみごと婚約者と認められ、

幸せな日々を送る事になったのです。


 姉のマドレーヌは、リーゼの事でガレットを怒らせないようにしようと、

心の中で固く誓ったのは言うまでもありません。




 めでたし、めでたし。



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