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薄緑の浅瀬  作者: Macaron
5/5

師と弟子

ポカンとしている遥の顔を見ながら、


(もうそろそろ十年あちらでは五年になるのか)


早いものだと思う。

同時にずっと幽閉させられている沙凪には、

どれぐらい長かったのだろうとも思う。


(こんな無防備な顔最初にあった時以来かな?)


いまだポカンと口を開けている遥を見ていてふと


謡と遥に――巻き込まれた一般人に――この世界の事を

始めて話した時の事を思い返した。

         ・

         ・

         ・

「一花謡、一花遥。

俺の弟子、みたいのにならないか?」


言ってしまった。

GM側の俺が一般のプレイヤーと関わってしまったら

色々な弊害があるのにだ。


「弟子みたいなのって」


「何ですか?」


二人で一文を喋るのが鬱陶うっとうしい。

が、まあユニゾンで会話されるのよりはましと割り切った。


「この世界で生活するすべを教えてやる、といっているんだ」


戸惑っている二人に考える隙を与えないようにたたみかける。


「弟子にならないのならエルフかダークエルフの村に送っていくぞ?」


よほど離れ離れになりたくなかったのか、

この一言で踏ん切りがついたようだ。

謡がおずおずと話しかけた。


「わかりました

けど…この世界って一体何なんですか?」


おそらくこの世界に堕とされてしっまたすべての人が抱くであろう疑問

俺はその問いに答えるすべがあるのだが、とりあえず


「今日はもう遅い

詳しい話は明日するから今日は寝てくれ」


なんて言うと、


「知らない人と寝るのはちょっと怖いんですけど…」


遥が本気かふざけているのかわからない事を言った。


「さすがに子供に不埒な事をするほど落ちぶれてはいないぞ?」


「「子供じゃありません!今年から中学生なの!」」


二人のお気に召さなかったようだ

が、正直どうでもよかった。


「中学生は十分ガキだ

せめて大人料金になってから物申せ

…わかったらもう寝ろ」


一方的に言って俺は二人から離れて火の番をした。


二人はしばらく文句を言っていたが、

横になったとたんすぐ寝てしまった。


「なんでこんな事をするのかな…」


誰へのセリフかわからない呟きは、

そのまま森の中に消えていった。





日が昇ってしばらくすると二人が起き始めた。


「おはよう二人とも」


反応がないまだ寝ぼけているようなので、

氷を作って・・・・・二人のほっぺたに押し付けた


「きゃっ」


「つめた!」


反応は上々。どうやら目が覚めたようだ。

もう一度朝の挨拶をするとやや恨めしげな声の挨拶が返ってきた。


「さて、それじゃあこの世界について説明をしようか」


二人の注意がこちらに向く


「簡潔に言う。この世界は電脳世界だ

そして五年、体感時間では十年間絶対に・・・この世界から出ることはできない」


「やっぱり、この世界はゲームの中なんだ」


遥がポツリと呟いた。


「それは違うぞ、遥。この世界はゲームではない。

ある意味ゲームだったらまだ良かったんだがな」


「ゲームだったら良いってどういう意味ですか」


敵意をはらんだ謡の言葉に俺は説明を入れていく。


「この世界が本格的に稼働するのは今回が初めてだ。

だからどんな致命的なバグがあるのかわからない。

さらに、この世界は国が主導となって動いている一大プロジェクトだ。

このプロジェクトが動き出してしまった以上、

外国の介入なども問題解決にはならないだろう」


二人はこの異常事態に国が率先して関わっていることにショックを受けているようだ。


「それで結局あなたは何ですか・・・・・・・・?」


しばらくして謡がこう言った。


「俺はこの世界、‘フロンティア’と上が読んでいる世界で

デバッガーをしている」


「‘でばっがー’ってなに?」


「ゲームなどをはじめに動かしてバグや問題点を探す仕事の事だ」


「そうじゃなくて!

どうして黒森さんは私たちを助けてくれるんですかって聞いてるんです!」


「自己満足だ」


俺はこう答えながら内心驚いていた。

この子達はこの境遇に泣き言ひとつ言うのでも、

こちらを憎悪して敵対するのでもなく

俺の立ち位置を訪ねてきたのだ。


「俺は間違いなく加害者側の人間だ。

だが、たとえ手遅れでも女子供おんなこどもの脱落者を減らしたかったからだ」


そう、これはおれのエゴ

上司への定期報告で散々罵られても曲げなかった自論。

己の性質を停滞させ(・・・・・・・・・)なお残った本心だ


「…一応納得はしました

じゃあとりあえず、石碑ってなんなんですか?」


「石碑ってのは開発者側がこちらの一般人へ介入するための――」


言葉を続けているとふと影が差した

不思議に見上げるとそこには巨大なムカデがいた


「おぉ…ファンタジー…」


俺は無意識の内に呟いていた

        ・

        ・

        ・

いまだポカンとしている遥の頬っぺたを突いているとふと空が陰った


(なんだかデ・ジャヴだな)


そう思い見上げるとやはり巨大なムカデの顔があった


「おっ、どこ行ってたか今まで沈黙を保ってた飛沫もついに行き場を話すか?

へっへっへ、年貢の納め時ってヤツだな!?」


軽薄な声が残念なくらい姿と合っていなかった




おまけ


遥: 師匠、なんで‘フロンティア’に普通の人がいるのにデバッガーが働いてるの?


飛沫:なんでも予算と時間が足りなかったらしく

   ある程度動かしてみて問題がなかったから強行したらしい。

   俺の上司が低い声で文句言ってて怖かったからよく覚えてる


上司:『飛沫、給料30%カットに危険手当も無しね?』


飛沫:すみません!

   勘弁してください!!


謡&遥:???

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