物語の始まり
電脳世界‘フロンティア’
増えすぎた人類が新たな領土としたのは電子の海だった
‘新天地’を冠した世界は世界規模のヴァーチャルワールド
‘アース’の先駆けとして開発された
電子の海という無形の世界で
ヒトはどこまで人であるかを研究する巨大な実験場
――プロジェクト名『Creat Monsters Ploject』
「そうえば、この世界の初めってどうなってたの?
どうして飛沫は‘フロンティア’に来たの?ねぇ――」
唐突な‘彼女’の問い
だが彼女はずっとこの狭い家にいたのだ
俺が外の話をすれば疑問に思うのは当然なのかもしれない
「それで――結局――なんで――どうして――ちょっ――」
俺は彼女の声を聞き流しながら始まりの時を思い出していた
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『黒森飛沫、あなたを‘フロンティア’の‘観測者’に任命します
期間は5年を見ていて下さい』
『拝命しました。
が、‘フロンティア’の大きさは本州ほど
広大な中でいったい何を観測すれば?』
『バグ、もしくは看過できないほどの環境へのダメージを
発見次第報告して下さい
また‘フロンティア’の住民は我が国から一万人選別して
招待しますので‘フロンティア’内でどうなっているか
などをモニタリングして下さい』
言い回しに違和感を覚えつつも話を進めていく
『――では、‘フロンティア’内の詳しい資料をください』
『わたせまさん』
『…なぜですか?』
『観測者と一般の方々との間の情報量が違いすぎると不都合があるからです
また、観測者にはある仕掛けを施させてもらいます
この任務の報告は夜に連絡しますのでその都度してもらうことになります』
何やらツッコミたくなるセリフだったが
いつものことなので特に気にはならなかった
『了解しましたそれでは失礼します』
しばらくした後、
俺は正式に‘フロンティア’実働部隊に異動となり
観測者として‘フロンティア’の中に入って行った
俺が‘フロンティア’に初めて降り立ったところは
水中都市の広場だった
頭上には太陽と思われし光がゆらゆらと揺れ
水没したことをやさしく照らす…
「――なんだよこれ!
ここはどこだ!
この姿はどういうことなんだ!」
不意に聞こえた怒声に我に返りあたりを見まわした
そこには青い目と髪に長い耳、
簡素な服に青い刺青を全身に入れた人たちが
パニックに陥っていた
(事前に知らされていないのか?)
訝しがっていると不意に上司の声が脳裏に響いた
『聞こえていますね?
これは観測者にしか聞こえていないので
反応しないでください』
『さて、ここがどこであるかを私たちは
観測者以外に一切説明していません』
「なっ」
思わず息をのんでいる間も話は続いていく
『この計画は大まかに分けて
・電脳世界への適性を調べる第一フェーズ
・さまざまな負荷実験を行う第二フェーズ
・現実に戻った時の影響を調べる第三フェーズ
の三つに分かれています』
周りの喧騒が遠くなった感じがした
(一万人を五年間拘束するのか!?)
こちらの混乱をよそに話は続いていく
『第一フェーズは‘開拓村’
いわゆる始まりの町から出られないようになっています
が、第二フェーズに入ると外に出られるようになり
同時に‘敵対生物’が
プレイヤーを襲うようになります』
『観測者には第一フェーズは関係ないので
周りに気づかれないように開拓村から出て
他の開拓村を見ておいてください』
(もう聞きたくない!!)
こちらの反応を知ってか知らずか
話は無情にも進んでいく
『あぁ、安心してくださいデスゲームではありません
国民の命を無駄にする訳にはいきませんから
ただし、五感や欲求も忠実に再現します』
「ふざっ――」
ついに我慢できずに声を漏らす。が、
『至って真面目ですよ?
この実験のスポンサーは国です
このプロジェクトは人類の目標、‘人類の完全データ移住’
の先駆け、露払いも兼ねているのです
あぁ、‘フロンティア’なんてピッタリの名前なんでしょう
そうそう、仕掛けはもう各々にセットしているので
後で確認してください。今夜個別で説明します』
こちらの声が聞こえていないがごとくセリフを無視された
…本当に聞こえていないかもしれない
観測者全員への一斉通達らしいし
『――それでは観測者の皆さん頑張ってください』
ブツッ
安物の無線を切るような
盛大なノイズを立てて通信が途絶えた
「クソッ」
このまま突っ立っててもらちが明かない
そう判断して俺は上司の指示に|(業腹なことに!)従い
パニックになっている‘開拓村’を出て外洋に出て行った
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「――ねぇ!ちょっと!なんで急に黙るの!
私の存在無視!?せめてなんかリアクションを――」
「わかった。そうだな、話そうか尾崎」
「苗字で呼ばないで!名前で呼んで!それかあだ名!
それに急に何の話をしてくれるの?」
俺が物思いに耽っている間も騒ぎ続け
最初の質問を忘れてしまっている彼女を微笑ましく思いながら
「‘フロンティア’の一番最初の話だよ紗凪サン」
「‘さん’はいらない!」
あまりにも予想どうりのリアクションに笑いながら
俺は話し始めた。
寝物語にはいささか重すぎる
俺とこの世界の始まりのオハナシ
沙凪:セリフを無視するって、上司さんすごいよね。
飛沫は聴覚の情報を視覚で認識できるの?
飛沫:言葉の綾です。
あまり虐めないで下さい…