暑い熱意もほどほどに!
なんで!?好きなんじゃねぇの?
あっけに取られていると、横で後藤がぼやく。
「ほら。コックリさん、フラれて傷ついてるじゃん」
「これ、傷ついてんの!?傷つく通り越して恨んでねぇ!?えー・・・どうしたらいいの後藤!」
「今からでも好きですって言うんだよ」
何で俺が得たいのしれないもんに告白せにゃならんのだ!
そう突っ込みたくなるのを必死でこらえておずおずと口を開く。
「あー、えっと、こっくりさん?あのですね?先ほどの発言は冗談というかなんと言うか、その、アレなんで!気にしないでください!俺って思っていること素直に言えないっつーか、いやマジ、コックリさん、大好きですから!だから、許してください。すいませんでした!」
俺の思いが通じたのか佐々木さんは怨念のようにつぶやくのをやめてくれた。
「これ、コックリさん帰ってくれたのか?」
俺の質問には答えず、後藤は佐々木さんを向いて話しかける。
「佐々木さん?大丈夫?」
「・・・・。あ・・・私・・・」
「佐々木さん。コックリさんに乗り移られてたんだよ」
どうやらコックリさんは帰ったらしくようやく意識が戻った佐々木さんは、始めはボーっとしていたが、次第に顔を青くさせると体を震わせていた。きっと体をのっとられるなんてすごく怖かったに違いない。
「わ・・・私、その・・・っ、ごめんなさい!!」
「あ!佐々木さん!?」
佐々木さんは止めるまもなく走って教室を出て行った。このままほうっておくわけにもいかないし、しょうがない。
「山手?」
教室を出ようとする俺を見て後藤が声をかけきた。
「俺、佐々木さん見てくる。心配だし」
「・・・わかった」
「?どうした?」
なんだか後藤の返事の歯切れが悪い。立ち止まって聞くと後藤はばつが悪そうに下を向いた。
「いや、俺さっき、こっくりさんが佐々木さんに乗り移ったとき、正直・・・嬉しかったんだ。佐々木さんのことなんて考えずにただ、こっくりさんがきてくれた事がうれしくって・・・乗り移られてる佐々木さん、きっと苦しかっただろうし、怖かったはずなのに、俺、自分のことしか考えてなかった・・・最低だなって・・・」
ったく。いまさらかよ!
そう怒鳴ってやろうかと思ったが、後藤は本気で落ち込んでいるのか下を向いたままこっちを見ない。
俺はため息を付いて後藤をおもいっきり足蹴りしてやった。
「いてっ!?」
「あのなぁ!お前が自己中でサイテーことなんて俺は最初っから知ってるんだよ!俺に言ってどうすんだ!そういうことは佐々木さん本人に直接言って謝れ。ていうか軽くビンタの一発でももらって来い!」
後藤はしばらくぽかんとしていたが、にやりと笑うと立ち上がる。
「うん。強烈な一発、もらってくる」
後藤が教室から走って出て行くのを見送って俺はため息を付いた。
全く、世話が焼ける。
開っぱなし窓を閉めようと立ち上がったとき、
―――ガララ
ドアが開く音に振り返るとそこには先ほどかけていった佐々木さんがいた。
「あれ?佐々木さん?さっき後藤が追いかけたんだけど、会わなかった?」
「ううん・・・その、ごめんなさい」
佐々木さんは下を向いたままポツリとつぶやいた。
「え?・・・あぁ。こっくりさんのこと?気にしなくて良いよ。乗り移られてたんだから仕方ないし」
「ううん・・・違うの」
「違うって何が?」
佐々木さんはしばらく黙っていたが、何かに決心したような顔で俺を見て口を開いた。
「私、こっくりさんに取り付かれてたんじゃないの」
「え?でも、確かに・・・」
佐々木さんは首を振る。
「あれは、私なの」
―――はい?
「私ってどうゆうこと?」
「私、後藤君のことが好きなの!」
――――はいぃ!?
「ちょっと待って!意味わかんない!さっきのが佐々木さん本人で、後藤が好きって・・・えぇ!?どうゆうこと!?」
混乱する俺に佐々木さんは静かに口を開いた。
「山手君も知ってると思うけど・・・私、すごく人見知りで、いつも言いたいこといえなかったの。そんな私だから、クラスの人は私と話をしようとしてくれなくって、友達もいなかったの。でも、後藤君はこんな私にでも気軽に話しかけてくれて、やさしくしてくれて、私、すごく嬉しかった!それで、気が付いたら後藤君のこと好きになってて・・・」
―――いや、たぶんそれは単に怪談を誰でもいいから話したかっただけだ。
いつもの後藤を知っているので、とっさにそう思ったがあえて言わないでおいた。
「そ、それで?」
「それで、こ、告白しようと決意したんですけど、やっぱり人見知りだから、言えなくって・・・でも、こっくりさんを使えば出来るかなって・・・」
―――あぁ。なるほど!それで、こっくりさんで告白・・・って!
「伝わるわけないから!」
「はい・・・その通りでした」
落ち込む佐々木さんに俺は、思わずため息が出ていた。
じゃあさっきの俺の告白はなんだったんだ・・・
そこで、俺はふと気になったことを聞いてみた。
「じゃあ、『許さない』って言ってたのは・・・」
佐々木さんは「あ、それは・・・」と顔を上げおずおずと話してくれた。
「後藤君が、こっくりさんに告白してたのが許せなくって・・・」
―――こっくりさんに嫉妬!?
俺は、もはや何を話せばいいのかわからなくなっていた。
結論を言うと、後藤も霊マニアで十分変人だが、佐々木さんはそれのさらに上を行く変人だ。
「あの、それで、山手君にお願いがあって戻ってきたの・・・」
「え、協力してってこと?」
佐々木さんは控えめにうなずいた。
俺は、思わず考え込んでいた。佐々木さんも後藤も外見はいいほうなので、お似合いだとは思うが、たとえ変人同士だとはいえ、後藤に彼女が出来るのはなんか負けた気がしていやだ。
―――いや、待てよ?もし佐々木さんと後藤がくっつけば俺が後藤の心霊スポット巡りに付き合わされることもなくなるんじゃ・・・
「佐々木さん」
「は、はい」
「ぜひとも、協力させてもらいます」
「ほんとう!?」
佐々木さんは、嬉しそうに目を輝かせた。
「もちろん。俺でよければ、全力で協力させてもらうよ」
俺の満面の笑みに佐々木さんも笑顔でお礼を言った。
―――いやいや、お礼を言うのはこっちだよ。
俺は、黒い笑みを浮かべていたが、佐々木さんが気づくことはなかった。
「それで、俺はなにをすればいいんだ?後藤の好きな心霊スポットくらいしか知らないけど」
「うん。それも教えて欲しいけど、まずは・・・」
「まずは?」
佐々木さんは変わらない笑顔で、口を開いた。
「私を・・・殺して欲しいの!」