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隣の異世界シリーズ 小話集  作者: 尾黒
隣の職人ドラゴン様
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隣の職人ドラゴン様!

『隣の職人ドラゴン様』の、その後のお話。

ヒロイン:トーワ 職人ドラゴン:ローシャ



 緑生い茂る山道を、ゆったりとした足取りで歩くのは小さな小屋ほどもある大きなドラゴンだ。

 美しい鱗を陽光にきらめかせながら歩くドラゴンは、背に小さな少女を乗せている。

 ドラゴンの広い背に生えた大きな羽の根元に、少女は上手く足を挟んで落下防止に努めている。

 ゆらゆらと揺れるドラゴンと、慣れた様子で騎乗している少女。

 遠目からであれば、どこか眠気を誘う光景であった。


 この光景、実はこのあたりに住む人間含む動物たちには見慣れたものであるのだが、初めて見た者はすべからく驚く。そして、自分の身を心配した上で、少女の身をあんじる。

 しかし、すぐに気が付くのだ。

 少女が一切うろたえず、ドラゴンと触れ合っていることに。

 



「ねえ、もうちょっと早く歩いてもいいよ」


 落ち着いた少女の声が風に乗って流れる。その細く小さな手が、立派なドラゴンの、羽の付け根を撫でた。

 少女の声に、僅かに歩く速度を緩めたドラゴン。


「だが、トーワが落ちて怪我など負っては困る」


 唸るようなドラゴンの声は、少女の身体を伝って全身に響く。


「私はそこまで鈍くないし、やわじゃない、と自負しているんだけどな」


「この間、おれの尾に躓いて転んだ挙句、そのまま顔面で地面を滑り、食器棚に突っ込んで行ったトーワが何を言う」


「この間って、もう半年も前の話しじゃないの。いい加減その話は忘れてよ。ローシャったら、いつもいつも余計なことばかり覚えているんだから。ドラゴンは長生きさんなんだから、くだらないことは忘れていいのよ」


「おれは、自分の尾を切り落とそうかと本気で思ったのだぞ。トーワが血まみれでこちらを向いたときに、な」


「なら、落ちないようにくらでもつけようかしら」


「今度用意しよう」


「冗談で言ったのに……。これだから世間知らずのドラゴンは……」


 鞍なんぞ乗せたら、乗り物扱いしているように思われてしまうじゃないの、と、少女がむくれて告げれば、ドラゴンは、ちら、と背に視線を向けた。


 むくれたままの少女の足が、速度を上げろといわんばかりにドラゴンの鱗の並ぶ身体を蹴る。

 蹴られても痛みなど感じないドラゴンは、いつもの事だと、視線を前に戻して道を進む。


 彼らが進む先は、山の麓の村。

 今日は少女の作る椅子を買い付けに来る商人との商談があるのだ。


 少女が作る椅子は、以前から世話になっている大工の工房に置かせてもらっている。ドラゴンの作る物も同様である為、彼女らはいつもこうして一緒に村へ降りる。


 ドラゴンが飛べば一瞬でつく距離だが、散歩がてらの移動時間は、ドラゴンにとって幸せな時間なのだ。


 少女に促されるままに進む速度を速めながら、ドラゴンは笑い含みで呟いた。


「別におれは気にしないが」


 少女の乗り物であっても、彼女と共にいられるのならば苦ではない。むしろ、自分以外の獣が彼女を運ぶなどもってのほかだ。

 そんな気持ちでいるドラゴンの呟きに、少女はため息をついた。


「気にしなさいよ。おばかさん。ローシャは私の乗り物なんかじゃなくて……」



  ……旦那様(予定)でしょう。




 ごすっ、と、痛そうな音を辺りに響かせながら、ドラゴンの鼻面が道の横の木に衝突した。


 木に鼻面を押し付けたまま全ての動きを停止させてしまったドラゴンに、少女はまた、おばかさん、と笑って言った。



「ととととと、トーワ!!!」


「はいはい、いいから進んでちょうだい。約束の時間に遅れてしまうじゃないの」




 少女は今月の終わりに16歳になる。彼女の前世での感覚で言えばまだまだといった年齢ではあるのだが、あまりに待たせてもかわいそうなのではないかと思い始めたこの頃。


 彼女の為の嫁入り道具を、何故か夫となるドラゴンが何年か前から嬉々として作製、買い付けしているという事実を知るのは、もう少し後の事である。


 とにもかくにも。

 彼女らは今日も、ゆっくりと道を進んでいくのだった。




END

結局、ラブい感じのものにはなりませんでしたな。

まあ、私の書くものですのでこんなもんですすみません。


ドラゴン、ガンバ! と、応援してあげてください(笑)

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