お仕事
「姫様!どうして!!」
私は姫様を守るものとして、大声で叫んだ。
十字架の元まで歩いてゆく姫様。
十字架はいつもなら私もよく目にするもの。
けして邪悪なものではないはずだった。
でも、私には黒く交差したそれが禍々しい物に見えている。
姫様の顔は、何かを愁うような、寂しそうな表情だったのをはっきりと見た。
何かしら、不穏な雰囲気を感じて。
私はその場でひたすら叫んだ。
追いかけていけばよかったかも知れない。
でも、足は動かなかった。
いやぁな夢だったなぁ。
何が嫌と言うわけではない。
ただ、気味が悪かった。
夢ははっきりと見えない。
ただ、姫様が不思議な表情でおかしな十字架の元へ歩く。
どことなく神秘的な雰囲気だった。それにもかかわらず、恐ろしかった。
姫様依存症にでもかかっているんではないかと、バカみたいなことを思った。
「私の新しい任務・・・ですか」
そういえば、新しい仕事が入った。
このこと自体はいつものこと。
ただ問題は。
私一人でだった。
もしかしたら、いつも傍らに姫様がおられたから、今の夢は私が寂しく思って見たものかもしれない。
案外、姫様依存症は当たっているのかもしれない。
私のいない間、姫様の護衛はエルや腕の立つ兵士や騎士を引っ張ってくるそうだ。
今日が任務の出発の日だった。
一人での仕事、長期間の仕事、城の外での仕事。
今の自分をこれからを見つめるにはいいのかもしれない。
「お願いしますよ」
「わかってますよ、先輩」
彼女はいつものとおりニコニコと笑って心配ないと表情で語った。
「じゃあ、姫様にも会ってきます」
「はいはい、死なないくださいね」
「縁起でもない事を言うね…」
私は死なないつもりだ。
うん、死にたくはない。
「行ってしまうのですね…」
「っひ姫様!」
「どうしてこんなところにいるのですか?」
「使用人たちに訊いて回ればすぐにわかりますわ、だって全ての使用人は私の言うことを聞き入れなければならないんですもの」
「つまり?」
「使用人たちに言付けしていたと、先輩を見ておくようにって、ですよね?」
「そういうこと、私の一番大切な人ですものね、互いにすれ違ってそのまま仕事の時間になって行ってしまうなんてことはつまらないと思ったので」
「はぁ・・・」
「まぁ、これで心置きなく任務に就けるでしょう?頑張ってくださいね」
「おあついですねぇ、あつあつですねぇ、というわけで目の毒になるので先輩はそろそろ任務に行っちゃってください」
茶化しているつもりなのだろうが、姫様の心のうちを考えると、気が気ではない。
こうも周りに広がってしまったことだ、姫様に後々悪いことがないといいのだけれど…
やっぱり、好いてくれて、いや、愛してくれると公言してくれたのは私はすごく嬉しいけれど、やっぱり女というのが引っかかる…よね?
「ほら、悩んでるのはお前だけだぞ、資料と装備は渡したからさっさと行って来い」
「だ、団長!どうしてここに!」
「いや、使用人たちに聞いてきた」
団長は険しい顔をやわらかく見せた。
「姫様の気持ちを無駄にするな、姫はお前が考えていることぐらいわかってる、あと、この後公務が入ってるから時間かけて姫を引き止めるな」
「知ってますの?」
「ああ、使用人たちもな、鋭いやつはお前が城の中に来たばかり頃からな」
「悩み事は吹っ切れたんじゃないですか?先輩」
「わかりました、行ってまいります」
「はい、頑張ってくださいね、一週間ですよね、無事に帰ってきてください、待ってますから」
ニコニコ動画のようにタグを読者が自由に付けれたら、私の作品には失踪関連のタグがつくでしょう。
お久しぶりです、相変わらず誤字脱字には注意してください。
いつもは長々と書いている前書き後書きですが久しぶりすぎて何かこうか・・・?となったので今回はこのあたりで。
次回予告。
新しい任務に就いて、心機一転頑張ろうと意気込むフィリア。
目的地ではすでにたくさんの兵士たちがいて・・・?