塞ぎこんだ思い
「おい、終わったんだろう?」
「あ、はい」
慌てて、剣を下げる。
きっちりと痛みが来る、攣ったのかな。
「エルは少し片付けろ、お前は医務室までついて来い」
それだけ言い、私に手招きをする。
訓練場で貸される木剣をエルに渡し、私は騎士団長へついていった。
大きな扉を抜け、上品な雰囲気の廊下を歩いている。
いつもの光景なはずなのに、気分が沈んでいるせいか、周りはいつも以上に華やかに見えている。
強くなる、そう思ったのに、やっぱりそれだけじゃ何をすればいいか、どこまですればいいか、それが見えない。
剣を振るっていれば筋肉は付く、走り回れば脚力は上がる。
それらをやってどうなのか、仮に力をつけようと足を速くしようと、それだけでは私の理想の強さにはならないことは明白。
魔物に負けない強さはどうすればいいか。
「団長・・・私には、経験が無いのでしょうか…」
「ああ、そうだな」
団長の言葉は案外重かった。
経験なんてどうやってやればいい?
力はいつでもすぐにつけようとすることは出来る。
でも、経験はおいそれと体感することは出来ない。
「言っておくが、姫をほおって置くようなやつに魔物と戦わせることなんて出来ないからな」
少し間をおいて出てきた団長の言葉。
「ここ最近ずっと気がつけば敵の、魔物の本を読み元気があれば訓練だ、姫は基本エルに任せているんでろ」
「はい、でも私は強くならないと・・・魔物から姫様を守れませんし」
「お前の仕事は、確かに姫の剣であることも含まれるが、それ以上に大切な役目が盾であることだろうが」
団長の言葉はいつに無く冷たい。
「弱ければ守れません」
「そういう意味じゃない、盾になって死ぬだけなら誰でもこなせる、極端に言うと子供だろうと老人だろうと、だがお前もエルも似た年齢で性別は女だ、お前以上に強いやつは城にいるのにわざわざ二人に剣と盾を任せているんだ」
ふぅ、と団長が息をついている。
私は下を向くことしか出来ない。
「いいか、姫はあと数年すれば国王らの決めた婿と結婚だろう、自由にできるのはそれまで、それまでの間、姫は今もこれからも重圧だけの世界に身をおくんだ、だが人間がそばにいれば重圧は減るかもしれない、それがお前のような歳の近い人間ならなおさらかもしれない」
「あと数年?」
「ああ、その数年の間がどれだけ長いか、俺にはわからん、だがその時間の間、お前には姫の支えになってて欲しいんだよ、誰も鬱な姫は見たくないんだ」
それはそうだろう、姫様は国の人気者で、この国に居る人たちのほとんどがそんなことを思うはず無い。
「ほら、しばらくは休暇だ、ゆっくり考えろ」
今と昔とで、姫様を守りたいと思う気持ちはまったく変わらないはずなのに。
どうしてこんなにも気持ちが晴れないのだろう。
何が変わったんだろう。
主人公、実力もあるはずなのに、心まで弱くは無いのに、これまでの失態(と呼べるほどのものでもないのだが)に心を痛めている模様、これらから主人公は脱却できるのか?
騎士で一番えらい騎士団長からの至極簡単な言葉の意味を考える事ができるのか。
と言うわけで次話は新章スタート 予定 たぶんね。
正月中には出せるように頑張ろう。